公認会計士短答式試験 平成30年度 第Ⅰ回 講評~第3回

今回は管理会計論の講評です。

理論問題9問、計算問題7問の計16問の出題でした。理論が多めでしたが、計算問題の資料の量が多いので、時間的に余裕があるという訳ではなかったと思います。解答・解説では、72.5点を合格の目安としています。

 理論問題

原価計算基準から4問も出題されました。知る限り最多です。原価計算(費目別~製品別)の内容を原価計算基準に絡めて出題した結果、多くなったようです。細かい内容も含まれていましたが、選択肢が選べないことはなかったので、全問正答できたと思います。

問題1ウでは、機能別分類の費目の中に買入部品費が含まれていて「誤」となり、一見細かい内容のようですが、機能別分類消費目的別分類であると理解していれば、例示されている費目を覚えなくとも分類できたはずです。

問題3アでは、補助部門費を直接指図書に配賦する場合に合算してから配賦するとなっており「誤」となります。細かい内容ですね。計算問題でこうしたケースを扱う場合は、1つの補助部門費が該当するだけなので計算の知識もアテにできず難しかったと思います。ただ、イ~エの正誤が明らかなので正答は容易です。

問題5アでは、原価集計単位を「期間生産量」とすべき所が「期間投入量」となっており「誤」でした。「期間生産量」は仕掛品勘定の当期投入のことであり、「期間投入量」は当期投入の原価として集計する直接材料費や加工費などの各原価要素のことです。原価集計単位は、言い換えると原価を集計する場所のことですから、期間生産量が正しいとなります。普段から言葉の意味を考えながら計算問題にあたっているとすんなり正答できたと思います。

問題7エでは、製造間接費差異を原則として製品別間接費差異として算定・分析するとあり「誤」となります。一読するとどこに誤りがあるか分からなかったりしませんか?そもそも製造間接費は、直接製品に跡づけられない原価を集計した費目ですから、製品別に算定することはできないはずなので、誤りです。


管理会計の分野からも5問の出題がありました。原価計算基準よりは難易度が高めでした。

問題9ウでは、個別計画と期間計画について問われました。抽象的で苦手とする方も多いのではないでしょうか。個別計画は個々のプロジェクト(短期も長期もあり)、期間計画は予算、と置き換えて考えるとすんなり読めると思います。

問題10、14は主に財務分析の問題です。各財務指標の意味するところ、関係性等、単なる計算にとどまらない理解の程が問われていました。財務分析は論文式試験の経営学でも出題されることがあるので、収益性分析・安全性分析の知識は維持しておいて下さい。

 計算問題

戦意を削ぐような資料の多い問題が3問(問題2、13、16)も出題されており、資料の少なめの問題11が実は作業量が多かったりと、時間配分の難しさがありました。初見の答練を解く際に時間配分の練習をしてきたかが試されたともいえます。

問題2は労務費の計算です。加工時間がA種・B種に分かれているのに賃率は1つだけ等、資料が嵩増しされている面倒さがあり、外注加工費や福利施設負担額、厚生費といった経費をうまく省けるだけの正確な知識が問われるという、やっかいさがある問題でした。知識の整理ができる良問ですから、本試験ではスルーした方も解き直しておいて下さい。

問題8は標準原価計算の仕損差異のある計算でした。資料の(注)に正常な操業状態において仕損が発生することはない、とあるので「標準仕損0個」の設定であり、実際仕損のすべてが仕損差異になります。実は簡単です。通常の設例では標準仕損と実際仕損の差から仕損差異を求めることが多いので、普段の手順で解こうとした方は却って難しく考えてしまったかもしれません。

問題11は、最適セールス・ミックスを所与として、損益分岐点売上高の最大値と最小値の差を求める問題です。講師間では「あぁ、レモンの形の利益図表ね」となりましたが、なかなかピンとくるのは難しいと思います。

まず、最適セールス・ミックスを求める必要がありますが、共通制約条件が設備稼働時間だけなので、時間当たり貢献利益が最大な順にZ→Y→Xと時間の許す限り販売能力まで販売するという、簡単な計算で済みます。個別固定費があるため、いっそ生産しない方が有利な可能性も考慮する必要がありそうですが、本問の場合、販売能力で獲得できる貢献利益に比して個別固定費が少額であり、時間当たり貢献利益が最小のXまで生産できるだけの設備稼働時間がありますから、結局は3製品すべてを生産販売し、個別固定費も共通固定費も埋没となります。

次に、損益分岐点売上高の最大点と最小点を求めていきます。損益分岐点売上高の最大値は最もゆっくり固定費を回収するパターンですから、貢献利益率の小さい順にZ0.5→Y0.6→X0.7と最適セールス・ミックスだけ生産販売した貢献利益線を考えます。逆に損益分岐点の最小値は最も早く固定費を回収するパターンですから、貢献利益率の高い順にX0.7→Y0.6→Z0.5と最適セールス・ミックスだけ生産販売した貢献利益線を考えます。この2つの貢献利益線で囲まれた範囲が、最適セールス・ミックスを所与とした貢献利益の可能解集合であり、貢献利益額が固定費総額と一致する売上高のすべてが損益分岐点売上高ということになります。利益図表は解答・解説に記載していますので、参考になさって下さい。

個別固定費に引っかからずに計算できたか、最適セールス・ミックスの算定は時間当たり貢献利益で、損益分岐点売上高は貢献利益率で、という切り替えができたかがポイントでしょうか。それでも、短答式試験としては時間を要する問題ですしスルーが正解でした。

問題13はABCです。ABCを見たらとりあえずパスするという方も多いでしょう。計算自体は簡単な作業の繰り返しですから、一旦はパスしても後で戻ってくる優先順位は高めでお願いします。

問題15は設備投資の意思決定、正味現在価値が分岐する原価節約額を求める取替投資でした。設備投資の意思決定は、タイムテーブルの枠を用意して資料を読みながら数値を埋めていくのが効率的だと思います。苦手な方も多いようですが、パターン化しやすいですし、慣れるまで類題を複数まとめて解けばコツもつかめてきます。本問も典型的な出題ですから、もし解けなかったなら、論文までに克服しておきましょう。


以上です。