短答式試験の講評(2019Ⅰ)~企業法
平成31年度公認会計士短答式試験第1回、企業法の講評です。
前回より易しくなった印象です。対策のしようのない判例からの出題が前回は非常に多かったのですが、今回は例年並みの水準に戻っており、ほっとしました。出題分野の構成はほぼ例年通りです。ただ、機関が増えた分だけ株式が減っていますが、ここはどちらも受験上よく対策している分野同士のいりくりなので、受験生としては問題のないところではないでしょうか。
商人・商行為
細切れの単純知識のインプットに終始するこの分野は、苦手とする受験生も多いと思います。例年通り、2問中1問正答できればよしとしてください。
設立
問題3は創立総会についての出題でした。創立総会は株主総会との対比で学習するのが基本ですから、イの決議要件、ウ決議取消の訴えについては株主総会との異同として覚えていたはずです。エも頻出論点ですから正誤判定は容易であったと思います。
問題4は定款の記載事項についてです。絶対的記載事項と相対的記載事項は覚えていても、任意的記載事項(ウエ)となると難しいですね。設立の場面での定款変更は、①原始定款の変更が原則禁止であること、②創立総会決議で定款変更が可能なこと、③発行可能株式総数の定款記載が会社成立までに行えば良いこと、等からアイの正誤がつけば正答できたと思います。
株式
問題5は利益供与についての出題です。120条は論文式対策としても重要な条文ですから、正誤を間違えた方はこれを機に確認しておいてください。
資金調達
問題6の株式分割・無償割当ては、自己株式が対象となるか(イウ)に相違があります。アエの正誤は明らかなので、自己株式についてのこの相違点を知っていれば正答できた問題でした。
問題7はすべて頻出論点なので、正答すべき問題でした。
機関
問題8は監査等委員会設置会社に関する機関設計の問題です。機関については選解任や兼任禁止規定、任期等も含めて、よく対策されているはずですから正答は容易だったと思います。
問題9は判例からの出題です。できなくても気にしないでください。
問題10は取締役会非設置会社の株主総会についての出題です。最初の設定を見落とすと、イにおいて取締役会設置会社の株主総会招集通知は書面によるという知識が邪魔して、正誤判定に失敗する危険があります。ウは単独株主権と少数株主権を整理していたかが問われました。
問題11は手薄になりがちな会計参与からの出題です。役員に共通の規定と会計参与特有の規定に整理して覚えていたかが問われました。知識がなければ、「役員だから」で正誤判定するのもひとつの方法です。
問題12は役員等の会社に対する損害賠償責任の一部免除からの出題です。アは利益相反取引のところで確認していると思います。ウエは執行役も会計監査人も役員等として捉えていれば正誤はついたと思います。
問題13は指名委員会等設置会社の報告義務です。アやエが細かい内容を聞いている気がしますが、全体として業務執行機関である執行役には取締役と似た規定があるはずと思って正誤判定すると良いと思います。
会社の計算、他
問題14は違法配当の責任です。ここはそれほど覚えるべきことのない中で、よく問われる内容ばかりでしたから正答したいところです。
問題15は持分会社の業務執行社員を中心とする出題(アイエ)です。ウの支配人の選解任は知らなくても仕方ないですが、持分会社の業務執行社員については株式会社の取締役と対比できる規定は要確認事項として覚えておきたいところです。
問題16は頻出論点の社債です。社債権者集会と社債管理者は中でもよく問われているので、受験生の皆さんも対策済みかと思います。アの社債原簿管理人についてはフォローできてない方も多いとは思いますが、他の文章の正誤から正答できたと思います。
組織再編行為等
問題17の組織再編の問題は、吸収型と新設型の組織再編行為の違いが問われました。両者の対価・効力発生を整理して、株式移転・株式交換さえ吸収型か新設型か判別できたなら、アイウの正誤が判定できます。エの反対株主の範囲は、組織再編行為にも事業譲渡にも共通の最重要事項なので、しっかりインプットしていたはずです。
問題18は会社組織に関する訴えからです。「清算の開始原因」という横から問われた印象の問題ですから、できなくても気にしないでください。
金商法
問題19は確認書と内部統制報告書に関する出題です。有価証券報告書や有価証券届出書に比べて手薄になりがちな提出書類ですが、公衆縦覧(間接開示)か直接開示かは確認しているはずなので、イウは正誤判定できると思います。アが正しいことも明らかですからこれは得点できた問題です。
問題20は公開買付けの問題です。イ応募株主の解除権、ウ公開買付撤回の制限、エ買付条件変更の禁止は、公開買付け規制としては主要どころですから知識があったのではないでしょうか。
企業法は範囲が広く、勉強していても果てしない気持ちになりがちですが、覚えるべき規定か否かを見極めていけば要学習量は減らせるはずです。各種専門学校の問題別の重要性ランクなどを参考に、細かすぎるうえ出題頻度の低い知識を詰め込もうとしていないか、一度振り返ってみてください。
以上です。