日商簿記・税理士・会計士の試験比較(簿財編) 第1回

    日商簿記1級では「商業簿記・会計学」、税理士試験では「簿記論・財務諸表論」、公認会計士試験では「会計学(財務会計論)」と、様々な呼称がありますが、実は受験上の学習対象範囲はほとんど同じだったりします。
   しかし、出題の傾向・形式は異なりますから、受験上の必要な対策も異なるはずです。そこで、3資格の出題傾向を比較し、それぞれの出題傾向・対策を分析したいと思います。


Vol.1~日商簿記1級「商業簿記・会計学」
「商業簿記」は総合問題として出題されます。多くの場合、決算整理前残高試算表に期中未処理事項や決算整理事項を加味して決算整理後残高試算表または貸借対照表・損益計算書を作成する形式の問題です。
 これは、税理士試験の「簿記論」〔第三問〕や「財務諸表論」〔第三問〕と同じ出題形式です。個別論点を寄せ集めて問題が構成されている点も共通です。しかし問題量は、日商簿記1級:税理士試験=1:2~3といったところでしょうか。
    形式面で特徴的な点としては、答案用紙に勘定が予め記入されていることがほとんどで、受験生は数値のみ算出すればよくなっています。決算整理後残高試算表または財務諸表上の金額を答えが求まったところから順次記入していく解答スタイルになると思います。ただし、問題によっては会計基準とは異なる勘定名が用いられていることもあり、注意が必要です。税理士試験の「財務諸表論」〔第二問〕では、勘定名の2~3割くらいが空欄補充になっていることが多く、その分難易度が高くなっています。
 内容面での特徴としては、まず、当期の処理を行うために過去数年間の処理を要求されることが比較的多いことです。例えば、ファイナンス・リース取引において決算整理前のリース債務残高が隠されていて、リース開始時の5~6年前から毎年の利息計算をする必要があったりします。時間はかかるけれど、丁寧に一つずつ処理を行えば確実に解答にたどり着けるタイプの問題が多い傾向と、問題量に比して試験時間は十分であることから考えると、丁寧さや地道さといった能力が求められているのかもしれません。税理士試験や公認会計士試験では、遡るとしても2~3年位で、むしろ与えられた資料から当期の処理に必要なデータをピンポイントで拾ってくるような問題が多く、時間的な制約も厳しいので、地道さよりも計算構造の理解と直感力が問われている気がします。
   次に、日商簿記1級では時々びっくりするような、深いというか難易度の高い論点が含まれていることがあります。税理士試験でも公認会計士試験でもなかなかお目にかかれないような論点です。70%の得点で合格ですから、合格者もスルーしたであろうと推測しますが、覚悟しておかないと動揺して他の得点すべき論点まで取りこぼしてしまう危険があります。

  「会計学」は、空欄補充や正誤問題等の理論問題と個別計算問題の組み合わせで出題されます。
   理論問題は、1~2行の記述問題が出題されることもありますが、ほとんどが知識の有無だけで正否が決まる問題です。内容も定義のようなものが多く簡単で、知識があればものの5分もかからないくらいです。個人的には計算問題対策のついでに関連する会計基準等に目を通していれば良いのかなと思います。
    計算問題は、個別論点からいくつかの金額を求めさせる問題が多く出題されます。内容は公認会計士短答式試験の個別論点計算問題とほぼ同じです。公認会計士試験では問題1つにつき要求される解答金額は1~2つなので、ここでも日商簿記1級は一連の処理すべてを確認させ、公認会計士試験ではピンポイントで金額を求めさせる、という傾向が見て取れます。例えば社債の償却原価法からの出題であれば、日商簿記1級では2期分の利息と社債の帳簿価額、買入償還時の償還損益を求めさせるのに対して、公認会計士試験では買入償還時の償還損益だけ求めさせるといった具合です。
 また、公認会計士試験ではめったにない仕訳問題の出題が多いのも特徴で、この点は税理士試験「簿記論」の個別問題に共通してる傾向です。

  全体として日商簿記1級では、一つの会計事象に対して、一連の会計処理の最初から最後までを仕訳で丁寧に確認する学習方法が適しているようです。

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