日商簿記・税理士・会計士の試験比較(簿財編) 第3回
日商簿記1級「商業簿記・会計学」、税理士試験「簿記論・財務諸表論」、公認会計士試験「会計学(財務会計論)」の比較分析の第3回です。今回は公認会計士試験の「会計学(財務会計論)」です。
Vol.3~公認会計士試験「財務会計論」
公認会計士試験は短答式試験と論文式試験の2段階選抜となっていますが、どちらも理論問題の割合が高いことが他の資格試験との大きな違いです。短答式試験では5割、論文式試験では6~7割が理論問題からの出題です。また、連結会計からの出題が定番化していることも特徴的です。
(1) 短答式試験
全26問のうち、22問が個別論点から、4問が連結会計の総合問題からという出題形式が定番化しています。多少変動はありますが、個別論点は22問中12問が理論問題、残り10問が計算問題です。
理論問題は、新会計基準とその適用指針・実務指針からの正誤問題が圧倒的に多く、会計処理そのものの正誤もありますが、その論拠についても問われます。そのため、計算問題対策のついでに会計基準の該当箇所も見ておく位では正答は難しく、論文式試験も見据えて、会計処理の論拠等の理解もしておくほうが無難です。ただし、4つの文章の正誤の組合せを択一で答える形式なので、すべての正誤が判断できなくても2~3文の正誤が分かれば消去法で正答できることもままあり、短答式試験の段階ではさほど厳格に覚えておく必要はないのかもしれません。個人的には、過去問も比較的参考になりそうなので一通り解いておくに越したことはないと思います。
個別論点の計算問題は、新会計基準関係の有価証券、リース取引、減損会計、資産除去債務、ソフトウェア、退職給付会計、ストック・オプション等が出題頻度が高く、数分で解けるボリュームです。設定も会計基準に記載された設例に近いシンプルな条件であることが多く、あまり込み入った条件となっていることは少ない印象です。もちろん複雑な問題もありますが、そうした問題でも「資料が多いけど、結局××の金額を求めればいいんだ。」というように会計処理の構造が理解できていればすぐに正解にたどり着け、数分以上かけて解く必要のある問題はないようです。大量処理の能力よりも構造理解の能力が問われているのでしょう。
連結会計の総合問題は、資本連結、成果連結、在外子会社の連結、連結キャッシュフローなど、問われる分野は幅広いですが、深く問われることは少ないです。難易度としては、会計士の短答式、日商1級、税理士簿記論は横一線といった印象です。対策としては、総合問題の良問を20問程度回すようにしておくのが効率的な学習方法となるでしょう。
(2) 論文式試験
〔第一問〕計算と理論の複合問題、〔第二問〕理論問題、〔第三問〕計算と理論の複合問題で構成されています。
〔第一問〕〔第三問〕は、計算箇所が15~20、理論が答案用紙ベースで2~6行の問題が数問出題されます。理論問題だけで成り立つ場合もあれば、計算と関連させている場合もあります。〔第三問〕の出題形式は特徴的で、例えば経理部と会計士の会話文中に空欄や下線部が設定されていて、空欄や下線部に絡めて計算や記述を要求する形式になっています。不必要な情報がどうしても多くなる形式ですので、資料の読み取りに手間取りがちで、苦手意識のある方も多いのではないでしょうか。
計算問題の難易度には大きなばらつきがあるので、如何に基本的な問題を確実に得点していくかが合否を分けるのだと思います。
〔第二問〕は、答案用紙ベースで3~6行の問題がトータルで50行分ほども出題されます。〔第一問〕〔第三問〕にも共通することですが、会計処理の論拠を問うようなベーシックな問題もあれば、会計基準の変遷の背景にも及ぶような難しい論点も含まれています。考えてみてどうにかなるタイプの問題は少なく、知識がなければどうにもならない事が多い気がします。合格基準が得点比率で52%、素点ベースなら50点程と言われていますので、個人的見解ですが、難しい問題に的外れになりかねない答案を書くよりは、知識のある基本的問題の答案を丁寧に記述する方が得点アップにつながるのではないでしょうか。
公認会計士試験は、論文式試験よりも短答式試験の突破が難しいので、まず基本的な会計処理を確実にマスターすることが肝要です。そのうえで、会計処理の論拠や理論的背景といった部分を上乗せしていく学習方法が適しているのではないでしょうか。