2019年短答式試験~監査論

今回の監査論は、偏っていて手のつけられないような出題はなかったものの、例年より難しかった印象です。以下、各問題毎に解説していきます。
(解答速報もご参照下さい。)

問題1:財務諸表監査

ア.イ.の正誤判定は容易であったと思います。ウは「不正リスク対応基準」からですが、監査人の監査役等との連携は、監査基準のH30年改定でも強調されているところですし、内容的にも否定する理由がないので、正しいと分かったと思います。エ.の内部監査の利用については、内部監査人の作業を評価した上でその利用の可否を判断するという知識があっても、「監査の目的に適合するならば」という点から指摘されると、迷ってしまうかもしれません。しかし、ア~ウ.の正誤判定が容易なので正答できたと思います。

問題2:財務諸表監査

ア.は「会計システムの構築支援」が監査人による財務諸表等の調整(被監査業務)にあたるという知識が必要でした。イ.ウ.は簡単に正誤判断できたと思います。エ.は保証業務の概念的な内容で、苦手な方も多いと思います。財務諸表監査に当てはめて考えると分かりやすくもなるのですが、「合意された手続き」では財務諸表監査に当てはめることもできません。ア.~ウ.の正誤で正答できれば良かったと思います。

問題3:公認会計士の処分

ア.公認会計士に課される課徴金が監査報酬額を基準に算定されること、ウ.の登録抹消から5年で再登録できることは、過去問でも出題されており、知っているべき内容でした。イ.とエ.は知らなくても仕方のない規定だと思います。

問題4:金融商品取引法

監査論というより企業法の問題でした。企業法の学習の中で、確認書や概要書の提出の必要性、公衆縦覧期間などをまとめて覚えていたなら正答は容易かったと思います。しかし、企業法の学習の中で金商法はどうしても後回しになってしまうので、できなかった方もきっと多いのでしょう。

問題5:会社法監査

「会社法監査が監査論で出題されるなら会計監査人」という典型論点でした。ア.会計監査人の不適正意見と意見不表明は公告が必要です。イ.出席を求める決議があったとき出席意見陳述は義務ですが、の監査役と意見を異にするときの定時総会の出席意見陳述は権利です。義務と権利を整理して覚えておく必要がありました。ウ.事業報告の内容までは知らなくても良いでしょう。エ.会計監査人の子会社調査権は企業法でも学習したと思います。

問題6:会計監査人の選任・解任

ア.ウ.は会計監査人の選任・解任についての原則的な内容ですから、しっかり覚えていたはずです。一時監査人の選任も、企業法の役員についての学習の中でまとめていたと思います。エ.は「他の会社」において虚偽表示に故意に荷担、というところで迷ってしまったのではないでしょうか。

問題7:四半期レビュー

ア.ウ.の四半期レビューと年度の財務諸表監査との関係は頻出論点として覚えていたと思います。イ.は品質管理基準に結びつけて考えられたかがポイントでした。エ.の四半期レビューと継続企業の前提との関係は、場合分けが多く厄介な論点です。ここは、ア.とウ.の正しい記述から正答できたと思います。

問題8:内部統制監査

ア.は一見正しそうですが、業務プロセスに係る内部統制が単独で有効に機能する場合もあることから、全社的な内部統制の不備が即開示すべき重要な不備にはなりません。イ.開示すべき重要な不備の判断には「発生可能性」も考慮されるべきですが、質的・金額的重要性だけ規定している箇所もあるので、他の記述との兼ね合いから正しいとします。ウ.とエ.は容易に正誤判定できたと思います。

問題9:監査の品質管理

「品質管理」とされていますが、各記述は「不正リスク対応基準」を内容とするものでした。ただし、「不正リスク対応基準」の知識だけでは正誤が判定できないので、難しかったと思います。

問題10:保証業務の概念的枠組み

ア.理由部分に誤りのある記述でした。意見書にあるためできれば誤りと気づきたかった記述です。イ.は「特別の利用目的の財務諸表の監査の場合の追記情報」を想定できたら正しいと分かったと思います。ウ.は知らなくても仕方ない気がします。エ.はダイレクト・レポーティングの保証業務を意味します。

問題11:監査基準

ア.内容として誤りがないことは明らかですが、特に監査基準等に記述してあるわけではないので自信を持って「正しい」とはしにくいものかもしれません。イ.は「法定された」という一言を見逃してしまうと間違えてしまうので、案外間違えやすい記述です。ウ.「監査の基準」と「監査基準」は異なることは、監査論の学習を始めたときに習うことですね。エ.H30監査基準改訂論点として対策していたと思います。

問題12:監査の目的、一般基準

ア.とウ.はH14年監査基準の改訂前文の内容として、ウ.はH26年監査基準の改訂前文の内容として知識があったと思います。エ.の記述も容易に正誤判断がついたと思います。

問題13:監査調書

ア.監査調書に含まれるものと含まれないものは整理して覚えていたと思います。イ.監査調書の作成目的も基本的知識です。ウ.監査人、監査事務所、監査責任者という表現をなんとなく扱っていると間違えてしまいます。エ.も頻出論点です。

問題14:リスク評価手続き・リスク対応手続き

ア.リスク評価手続きのみでは十分かつ適切な監査証拠は入手できません。これと、運用評価手続きと実証手続きの組合せである監査アプローチの選択とを混同しないようにしましょう。イ.は少し細かい内容ですね。ウ.「特別な検討を必要とするリスクであっても」という記述に引っかかってしまった方もいるかもしれませんが、運用評価手続きは内部統制に依拠する場合だけです。エ.重要な取引種類等は実証手続きが必須です。

問題15:分析的実証手続

ア.こうした具体的状況を想定することは、論文式式試験も見据えたときに重要になってくるので、普段から心がけたいものです。イ.手続き実施上の重要性と監査上許容できる差異の金額は近しい概念ですが、これを一致させることは要求されていません。ウ.分析的実証手続というより質問には回答の裏付けが必要ということから判断してください。エ.重要な虚偽表示リスクが異なれば十分かつ適切とされる監査証拠も異なり、必要な監査手続きの種類も異なります。

問題16:報告基準

H30監査基準の改訂論点ばかりです。対策していればどの記述も正誤判定できたと思います。

問題17:その他の記載内容

その他の記載内容は監査対象外ですが、監査対象である財務諸表と同じ有価証券報告書に収録されているために、同じ開示書類内で矛盾があると利害関係者の誤解を生じさせることから、監査上の対応が必要とされています。

問題18:経営者とのディスカッション

ア.監査実施の前提条件について経営者との合意なく監査契約は締結できません。イ.細かい内容です。分からなくても仕方ないでしょう。ウ.経営者との協議が監査手続きとして実施されているのですから、監査調書の作成は当然に必要です。エ.経営者が関与している可能性のある違法行為について経営者と協議するなんて、と思いがちですが、経営者層あるいはより上位の経営者と協議、と考えると納得いくのではないでしょうか。

問題19:監査役等とのコミュニケーション

ア.監査役等は被監査会社の内部統制の一部でもあると考えることができます。イ.関連当事者との通例でない重要な取引は、特別な検討を必要とするリスクとして監査上の対応がなされます。ウ.細かい内容ですが、書面が必要とされる監査上の重要な項目がいくつかあるうちの一つです。エ.監査役からも経営者に対して修正を促してもらう上で、未修正である旨を報告することが必要です。

問題20:不正リスク対応基準

ア.不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況と疑義の存在は、監査上の対応が異なるので、正確に区別しておく必要があります。イ.経営者の誠実性の想定は頻出論点です。容易に正誤判定できるはずです。ウ.守秘義務解除の正当な理由は、法令等による許容+被監査会社の了解、法令等による要求、法令等による不禁止+職業上の権利・義務です。エ.証憑書類等の真正性に疑いを抱く理由がなければ、真正なものと受け入れることができます。

以上です。