令和2年度 公認会計士論文式試験 講評~租税法vol.2

令和2年度 公認会計士論文式試験 講評~租税法vol.1の続きです。
問2 個別論点(6点)
当社は、資本金1億円以下、かつ個人株主のみのため、中小企業者等に該当します。資料1.~4.については、中小企業者等であるがゆえに、中小企業者等以外とは異なる取り扱いを受けることになります。

1. 資料1.の申告調整
取得原価8万円の備品10台については、「少額減価償却資産」として、全額を損金算入できます。
取得原価25万円の備品については、「中小企業者等の少額減価償却資産」として、年間300万円まで(∴ 12台まで)は、取得原価の全額を損金算入できます。
従って、税務上、耐用年数に応じた償却計算を要する25万円の備品3台について、別表4の調整計算を行うことになります。
会社償却費 25万円×3台 - 償却限度額 250,000×0.200×6/12×3台 = 675,000円(加算)

2. 資料2.の申告調整
(1) 減価償却費
会社償却費 200,000 - 償却限度額 1,000,000×0.200×6/12 = 100,000円(加算)
(2) 剰余金処分経理による特別償却準備金
損金経理による剰余金の積み立てと同じ効果を持たせるために、会社積立額300,000円(=1,000,000×30%)を減算する。
(3) 別表4の調整
(1)+(2) = 200,000円(減算)

3. 資料3.の申告調整
破産手続き開始の申立てがあった場合、個別貸倒引当金の設定対象となる。
会社繰入額 5,000,000 - 繰入限度額(個別評価金銭債権5,000,000 - 取立等見込額 0円)× 50% = 2,500,000円(加算)

4. 資料4.の申告調整
(1) 交際費等(5,000円超接待飲食費)の合計: 6,000,000円
(2) 交際費等の合計: (1) + 2,000,000 + 800,000 = 8,800,000円
(3) 交際費等の損金不算入額
① (2) - (1)×50% = 5,800,000円
② (2) - 8,000,000 = 800,000円
③ ① > ② ∴ 800,000円(加算) ・・・ 有利選択

5. 資料5.の申告調整(法人側)
法人税法では、常に時価課税の考え方をとるので、誰から購入していようとも、時価で購入したと考えます。
(借)土 地 10,000,000 / (貸)普通預金    3,500,000
(借)土 地 00,000,000 / (貸)受贈益       6,500,000
∴ 土地受贈益計上漏れ 6,500,000円(加算)

6. 資料5.の譲渡所得の金額
個人から法人への低額譲渡は時価課税となります。
∴ 譲渡所得 = 土地の時価 10,000,000 - 取得費 3,000,000 = 7,000,000円

問題3:所得税法(15点)

所得税法は、細かい個別論点の寄せ集めで、どこかの専門学校の税理士試験用個別問題集からそのまま出題したような印象です。今後は、所得税法の総合力を問う良問の出題を期待したいところです。
講義で取り扱っていなかった論点が2つ出題されました。譲渡制限解除時の価額を給与収入に含める点と、特定支出の65万円上限規定です。
細かな論点が多かったため、合格ラインは、5点/15点と予想します。

問1 
1. 給与所得
譲渡制限解除時の価額を給与収入に含めます。初見なので、できなくても大丈夫ですが、税制非適格ストックオプションの権利行使時に給与所得を認識するのと同様の計算パターンなので、正解にたどり着ける可能性はあったと思います。
(1) 収入金額 7,200,000 + @1,575×10,000株 = 22,950,000円
(2) 給与所得控除額 2,200,000円
(3) 給与所得 = (1) - (2) = 20,750,000円

2. 退職所得
特定役員退職手当等が出題されましたが、こちらは2014年、2019年に出題実績があります。細かい論点ですが、2014年の過去問を解いた経験があれば、正答できた問題です。
(1) 収入金額
① 一般退職手当等: 18,000,000円
② 特定役員退職手当等: 12,000,000円
(2) 退職所得控除額
① 一般退職所得控除額: @400,000×20年+@700,000×4年-@400,000×4年= 9,200,000円
② 特定役員退職所得控除額: @400,000×4年= 1,600,000円
(3) 退職所得 = 一般分 (収入18,000,000-控除9,200,000)× 1/2 + 特定役員分(収入12,000,000-控除1,600,000)= 14,800,000円

3. 課税退職所得に対する所得税額
参考資料にある所得税額の税率表を利用して計算するだけです。
1,950,000×5/100 +(3,300,000-1,950,000)×10/100 +(6,950,000-3,300,000)×20/100 +(9,000,000-6,950,000)×23/100+(14,800,000-9,000,000)×33/100 = 3,348,000円

4. 事業所得
事業専従者控除は、事業専従者に支払った給与ではなく、控除額の86万円となります。
(1) 総収入金額: 7,480,000円
(2) 必要経費: 3,540,000+600,000+860,000※= 5,000,000円
※ 860,000(∵配偶者) < (7,480,000-3,540,000-600,000)÷(1+1) → ∴ 860,000円
(3) 青色申告特別控除: 0円
(4) 事業所得 = (1) - (2) - (3) = 2,480,000円

5. 譲渡所得(取得日~譲渡日まで5年超)
自己の著作に係る著作権等の譲渡は、常に「総合長期」となります。
(1) 総収入金額: 3,000,000+3,500,000 = 6,500,000円
(2) 取得費+譲渡費用: 2,500,000+150,000 = 2,650,000円
(3) 内部通算: 0円
(4) 生活に通常必要でない資産の損失の控除:480,000円(∵30万円超)
(5) 特別控除: 500,000円(∵ (1) - (2) - (3) - (4) = 3,370,000 ≧ 500,000)
(6) 譲渡所得 = (1) - (2) - (3) - (4) - (5) = 2,870,000円
(7) 総所得金額に含まれる譲渡所得
総所得金額は、損益通算、1/2課税、損失の繰越控除後の金額です。
∴(6) × 1/2(∵ 5年超)= 1,435,000円

6. 雑損控除
雑損控除は複雑な計算過程で説明されることが多いですが、次の(1)と(2)のどちらか多い金額で大丈夫です。
(1) 損失の金額のうち、課税標準×10%を超える額: 4,910,000 - 40,000,000×10% = 910,000円
(2) 災害関連支出-5万円: 1,820,000 - 50,000 = 1,770,000円
(3)   (1) < (2) ∴ 1,770,000円

7. 社会保険料控除
社会保険料控除は、居住者本人だけでなく、同一生計親族分も居住者の所得控除とすることができますが、その居住者が支払った、又は給与から控除されたことが要件となります。従って、乙の年金収入から控除された介護保険料 144,000円は対象外となります。
756,000+516,000 = 1,272,000円

問2 
1. 配当に係る源泉所得税の金額
上場株式に係る源泉所得税の税率は、3%以上保有が20%(住民税は0%)、3%未満保有が15%(この他に住民税5%)です。X社株式を4%保有しているので、源泉所得税の税率は20%が適用されます。
∴ X社株式配当 1,200,000×20% = 240,000円

2. 配当所得
配当収入1,200,000 - 負債利子142,500 = 1,057,500円

3. 配当控除額
剰余金の配当に係る控除率は、上場、非上場、みなし配当もすべて 10%です。
配当所得 1,057,500×10% = 105,750円

4. 特定支出の額
特定支出については、過去に出題されたこともあり、講義でも取り扱っていましたが、65万円上限規定までは言及していませんでした。資料④には上限規定はありませんが、①~③の合計額には、65万円の上限規定の適用を受けます。
(1) 上限規定の適用を受ける特定支出
150,000+250,000+400,000= 800,000円 > 65万 ∴ 650,000円
(2) 上限規定の適用を受けない特定支出
550,000円
(3) (1) + (2) = 1,200,000円

5. 給与所得
特定支出が給与所得控除額の1/2を超える場合、その超過額を給与所得から控除できます。→ (3)
(1) 給与収入: 8,400,000円
(2) 給与所得控除額: 2,040,000円(28条3項)
(3) 特定支出控除額: 1,200,000 - 2,040,000×1/2 = 180,000円
(4) (1) - (2) - (3) = 6,180,000円

6. 配当所得及び給与所得以外の総所得金額に含める金額
一時所得の金額を計算します。
(1) 総収入金額
① 懸賞の賞金: 300,000円
② 生命保険契約に基づく満期返戻金: 1,680,000円
③ ① + ② = 1,980,000円
(2) 支出した額: 1,260,000円
(3) 特別控除額: (1) - (2) = 720,000 > 50万円 ∴ 500,000円
(4) 一時所得の金額: (1) - (2) - (3) = 220,000円
(5) 総所得金額に含める金額: (4) × 1/2 = 110,000円

7. 生命保険料控除及び小規模企業共済等掛け金控除の合計額
(1) 個人型年金加入者掛金: 120,000円
(2) 旧生命保険料: 150,000 > 100,000 ∴ 50,000円
(3) 介護医療保険料(丙): 30,000+(79,200-40,000)×1/4 = 39,800円
(4) (1) + (2) + (3) = 209,800円

問題3:消費税法(15点)

講師としての一番の関心事は、平成元年10月1日に実施された消費税率の改正が試験にどのように反映されるかでした。
大手専門学校の直前答練では、令和元年10月1日から令和2年9月30日を当事業年度として、消費税率は10%のみを用いていました。直前答練4回分すべてをこの設定としていたため、本試験がどうなるか、興味津々でしたが、蓋を開けてみると、平成31年4月1日から令和2年3月31日を当事業年度とし、8%と10%、2つの消費税率で消費税額を計算するというものでした。軽減税率の適用はありませんでした。
過去問にはない取引としては、簿価450万円、時価270万円の課税資産を役員に譲渡し、270万円の給与と180万円の雑損失を計上しています。給与を計上していますが、実質的には、時価270万円の資産を役員に贈与したといえるため、みなし譲渡の規定を受けて、時価270万円を8%課税売上とします。みなし譲渡の処理ができなかった人は、4点を失うことになります。
所得税法の計算を早々に切り上げ、消費税法に25分投入できれば、11点/15点以上得点できる問題です。
合格ラインは8点/15点とします。

問1  課税売上割合の計算 
1. 課税売上高(免税売上及び非課税資産の輸出等は含まない)
(1) 8%課税分
(商品売上2,582,658,000+値引き44,982,000+みなし譲渡2,700,000+建物売却41,580,000)× 100/108 -(値引き44,982,000+販売奨励金4,860,000)× 100/108 = 2,427,850,000円
(2) 10%課税分
(商品売上1,644,500,000+値引き27,500,000)× 100/110 -(値引き27,500,000+販売奨励金1,650,000)× 100/110 = 1,493,500,000円
(3) (1) + (2) = 3,921,350,000円

2. 免税売上高(非課税資産の輸出等は含まない): 輸出売上高 1,188,000,000円

3. 非課税資産の輸出等の金額: 外国子会社への貸付金に係る受取利息 1,120,000円

4. 非課税売上高(非課税資産の輸出等は含まない)
国内預金利息129,600+社宅家賃収入1,620,000+株式売却額237,600,000×5%+土地売却額371,206,800= 384,836,400円

5. 課税売上割合の分子
1. + 2. + 3. = 5,110,470,000

6. 課税売上割合の分母
1. + 2. + 3. + 4. = 5,495,306,400

問2  課税仕入れ等に係る消費税額の計算 
1. 課税売上のみに対応する課税仕入れに係る消費税額
(商品仕入2,351,160,000+商品保管倉庫家賃26,730,000+商品運送21,600,000+広告宣伝15,660,000-特定仕入5,940,000+その他16,038,000+修繕費20,790,000)× 6.3/108 + 商品仕入1,540,000,000×7.8/110 + 引取税額7,830,000 + 特定仕入5,940,000×6.3/100 = 260,089,770円
(注) 舗装されていない更地を営業車の駐車場としている場合、土地の賃借料と考え、非課税として処理する。

2. 非課税売上のみに対応する課税仕入れに係る消費税額
株式売却手数料3,920,400 × 6.3/108 = 228,690円

3. 共通対応の課税仕入れに係る消費税額
(管理部門事務所家賃23,760,000+その他11,664,000+不動産仲介手数料11,761,200)× 6.3/108 = 2,752,470円

問3  課税標準額に対する消費税額
(1) 8%課税分
(商品売上2,582,658,000+値引き44,982,000+みなし譲渡2,700,000+建物売却41,580,000)× 100/108=2,474,000,000円
→2,474,000,000(千円未満切捨)×6.3% + 特定仕入5,940,000×6.3/100 = 156,236,220円
(2) 10%課税分
(商品売上1,644,500,000+値引き27,500,000)× 100/110= 1,520,000,000
→1,520,000,000(千円未満切捨)× 7.8% = 118,560,000円
(3) = (1) + (2) = 274,796,220円

問4  納付すべき消費税額の計算 
1. 控除対象仕入税額
(1) 個別対応方式
260,089,770 + 2,752,470 × 90% = 262,566,993円
(2) 一括比例配分方式
(260,089,770 + 228,690 + 2,752,470)× 90% = 236,763,837円

2. 売上返還等の対価に係る税額
(値引き44,982,000+販売奨励金4,860,000)× 6.3/108 +(値引き27,500,000+販売奨励金1,650,000)× 7.8/110 = 4,974,450円

3. 貸倒れに係る税額
8,640,000 × 6.3/108 = 504,000円

4. 中間納付額
(1) 一月中間申告
6,600,000/12= 550,000 ≦ 4,000,000 ∴ 適用なし
(2) 三月中間申告
6,600,000/12 × 3 = 1,650,000 > 1,000,000 ∴適用あり
1,650,000(百円未満切捨)× 3回 = 4,950,000円

2020年度もすごい分量でした。お疲れ様でした。