令和5年 公認会計士論文式試験 ~ 企業法

令和5年8月20日(日)に実施された論文式 企業法の講評です。
例年通り、大問2が2問、その中に小問が2問ずつ出題され、いずれも事例問題でした。
第1問は株式(譲渡制限株式)、第2問は取締役・代表取締役の分野からの出題でした。
第1問 問題2以外は、論点、必要条文が掴みやすく、書きやすかった印象です。

第1問 :株式(譲渡制限株式)

問題1:承認なき譲渡の効力

解答スペース:8行
必須条文番号:107条1項1号、137条1項、138条2号ハ、(128条1項、139条1項)

甲会社の承認を受けずに、譲渡制限株式をBに譲渡した場合の当該譲渡の効力について、①甲会社に対する関係、及び②AとBとの関係に分けて論じる問題です。各専門学校の解答(根拠と結論)がほぼ同じになるような典型論点です。
①甲会社に対する関係
定款による譲渡制限(107Ⅰ①)を設ける趣旨(会社の閉鎖性の維持)から、当該譲渡は会社との関係で無効という結論になります。

②AとBとの関係
株式取得者からの、譲渡承認請求(137Ⅰ)及び株式買取人指定請求(138②ハ)の規定は、当事者間では、当該譲渡が有効であることを前提としています。

解答スペースが8行しかないので、根拠と結論を簡潔に書くよう、心がけて下さい。

問題2:総会決議取消の訴えにおいて、Cがすべき主張及び当該主張の当否

解答スペース:22行
必須条文番号:831条、140条3項

Cがすべき主張は「1つなのか複数なのか」、また、Cがすべき主張が「認められる」とする結論にすべきか、「認められない」とする結論にすべきか、非常に迷います。専門学校によって解答の内容がバラバラになった難問です。

答案スペースが22行もあるので、Cがすべき主張は2つくらいが良さそうです。また、Cがすべき主張が「認められる」と結論づけるのか、「認められない」と結論づけるかですが、後者の方が論文として美しいはずです。そこで、Cがすべき主張の1つ目は「認められる」と結論づけ、メインとなる2つ目の主張は「認められない」と結論づける方針を立てて解答速報の答案を作成しました。この方針は、私が以前講師をしていた大手専門学校の解答速報とほぼ同じです。その専門学校の先生は、ベテランの弁護士の先生なので、答案作成の方針として参考にして下さい。

まず、「Cがすべき主張」ですが、各種専門学校では次のようなものをあげています。
①Cは、「提訴権者について決議取消の訴えの成立要件をみたしている」ことを主張すべきである。
②Cは、「提訴期間について決議取消の訴えの成立要件をみたしている」ことを主張すべきである。
③Cは、「取消原因について決議取消の訴えの成立要件をみたしている」ことを主張すべきである。
④Cは、「裁判所による裁量棄却は認められない」ことを主張すべきである。
ここで、「①~④のすべてを答案に反映させた方が採点基準により多くヒットして高得点が得られるのではないか?」ということが頭によぎりますが、経験上、論点をたくさん並べる答案よりも、重要な論点に的を絞って掘り下げる答案の方が合格しやすい印象を持っています。1つに絞るのはリスクがあるので、ここでは、学問上の論点を抱えている①と③をピックアップするのが良いでしょう。

Cがすべき主張(1つ目)
①Cは、「他の株主に関する瑕疵について訴えを提起できること」を主張すべきである。
1つ目ですから、Cの主張が「認められる」と結論づけるのが良さそうです。
そうすると、Cの主張の段階では根拠は示さず、「認められる」と結論づける段階で根拠を示すのがスマートな答案作成になります。根拠は次の通りです。
⇒ 決議取消の訴え(831条)は、公正な決議を確保・維持するための制度である。だとすれば、たとえ他の株主に関する瑕疵であっても、決議の公正が阻害されるおそれがある場合には、決議取消の訴えを提起することができると解すべきである。

Cがすべき主張(2つ目)
③Cは、「本件決議において、甲会社がAの議決権行使を認めなかったことが「決議方法の法令違反(831条 1 項 1 号)にあたる」と主張すべきである。
2つ目ですから、Cの主張が「認めらない」と結論づけるのが美しい論文答案になりそうです。
そうすると、Cの主張の段階では「Aの議決権行使は認められる」とする弱い根拠を示します。次に、Cの主張は認められないとする段階では、「Aの議決権行使は認められない」とする強い根拠を示すことになります。
【Cの主張(≒Aの議決権行使は認められる)の根拠】 ← あとから、覆される弱い根拠です。
⇒ 140条3項によれば譲渡等承認請求者には議決権行使は認められないが、Aは譲渡等承認請求者に該当しないため、Aは議決権を行使できたはずである。にもかかわらず、甲会社がこれを認めなかったため、本件決議には、決議方法の法令違反があったといえる。
【Cの主張は認められない(≒Aの議決権行使は認められない)とする根拠】 ← 強い根拠です。
⇒ Aは譲渡等承認請求者ではないにしても、Aが本件決議に加わることにより、買取事項の決定に不当な影響力を及ぼすおそれがあったといえる。だとすれば、Aにも140条3項が類推適用され、本件決議においてAの議決権の行使は認められないと解するべきである。

最後に
Cがすべき主張(2つ目)のストーリーは、「Cの形式的解釈を立法趣旨から否定する」という、よくある答案構成になっています。
これに対し、先述した弁護士先生は、「Aの議決権行使は認められない」という結論に導くにあたり、別の根拠を用意しています。それは、「株式取得者からの承認請求の場合にはAの議決権行使が認められて、Aからの承認請求の場合にはAの議決権行使を認めないのでは、バランスが悪い。」といった内容です。とても説得力のある素敵な根拠なので、このような答案作成が出来ればベストです。
ただ、ここでは、平均的な会計士試験受験生にも書けそうな解答例として「Cの形式的解釈を立法趣旨から否定する」という、ありきたりな展開にしておきました。

第2問:取締役会決議の効力

問題1:一部取締役への招集通知を欠く取締役会決議の効力

解答スペース:14行
必須条文番号:368条1項

論点とは直接関係の無い具体的な事情が問題文中にあって悩ましかったようですが、重要な財産の処分に該当するかも、事業譲渡に該当するかも、本題文中で解決済みです。「本件取締役会の招集通知は、~、Bには発せられておらず、Bは本件取締役会に出席することができなかった。」とあることから、一部取締役への招集通知を欠く取締役会決議の効力が問題となっています。

取締役会決議に手続き上の瑕疵がある取締役会決議は、原則無効です。この点については、株主総会決議に瑕疵がある場合のように無効確認の訴え(830条)や取消しの訴え(831条)のような特別の規定がないことや、経営の受任者として善管注意義務を果たすために取締役全員の出席を求める趣旨(368条1項)に言及しても加点となると思います。

ただし、「欠席取締役が出席しても決議の結果に影響がないと認められる特段の事情」がある時は例外有効となります。本問では、Bが丙会社の100%親会社である乙会社の1人株主の配偶者であり、企業集団の経営方針を実質的に決定しています。よって、Bが取締役会決議の結果に及ぼす影響は重大であり「特段の事情」は認められず原則通り無効となります。

問題提起原則無効、ここまでが最低限書けてほしいところです。

問題2:無効な取締役会決議に基づく重要な財産の処分の効力

解答スペース:16行
必須条文番号:362条4項1号

取締役会決議を欠く代表行為については、様々な事例で答案練習していると思いますので、問題1よりも問題2の方が書きやすかったと思います。

問題文中に事情の変更が記述されていますが、乙社が無効主張するに当たってCが代表取締役のままでは不自然なための説明なので、取締役会決議を欠く代表行為に焦点を絞って論証していきます。

まず、重要な財産の処分が取締役会の専決事項である点(362条4項1号)を指摘しておきます。問題1で指摘していないなら必ずここで指摘が必要です。

改めて取締役会決議を欠く重要な財産の処分については、原則有効です。①取締役会決議が内部的意思決定であること、②重要な財産の処分が対外的行為・取引上の行為であることから、取引の相手方保護の必要性が高いからです。

ただし、保護すべき取引の相手方が取締役会決議を経ていないことを「知りまたは知ることができた(悪意・重過失)」ならば会社は無効を主張できます。本問では、取引の相手方は同一企業集団内の丁社の取締役であり、重要な財産の処分がBを丙社の経営から排除することを目的とすることも知らされていたことから、「知りまたは知ることができた(悪意・重過失)」と考えることができます。

よって、丙社は無効主張できる、が結論となります。

問題提起原則有効、ここまでが最低限書けてほしいところですが、他の問題であまり書けていないなら「知りまたは知ることができた(悪意・重過失)」ならば会社は無効を主張できるまで書けてほしいところです。

以上です。