令和3年度 公認会計士論文式試験 講評~会計学(午後-財務会計論)
令和3年度の会計学(午後)は、例年より易しめだった印象です。特に理論問題は記述しやすい典型論点が多く、手応えを感じられたのではないでしょうか。解答・解説の詳細は、解答速報のページからご覧ください。
以下、問題毎に講評していきます。
第3問
問題1:固定資産の減損
計算では、機械グループA~Eについての減損処理が問われました。特定の分野について様々な条件下で処理させる、という最近の典型的出題です。
機械グループAでは、減損の兆候の有無が隠されているので、製品価格の下落の指示から減損の兆候ありと判断できれば、他はスムーズに処理できたはずです。機械グループBでは、廃止予定のグループEから転用されてきたe3を考慮することと、資産除去債務の処理も組み合わさってます。機械グループCは直接減額方式の圧縮記帳がありました。機械グループDでは、構成資産の更新の「合理的な計画」があるので、これを将来キャッシュ・フローの予測に考慮できたかがポイントでした。機械グループEは廃止予定ということで、グループでなくなって、機械毎に減損処理されることに気付けないと答えが違ってきます。
よく練られた良問ですね。目指せ8箇所完答!ですが、理論がよく書けた手応えがあれば、1~2箇所ミスしてもカバーできると思います。
理論は、減損損失がのれんに優先的に配分される理由を問われました。「減損損失の発生=超過収益力の喪失」で説明できればOKです。
第4問
問題2:四半期財務諸表
計算は四半期財務諸表の空欄補充です。四半期特有の処理として、税金費用の計算が含まれていますが、短答対策としてマスターしているでしょうし、丁寧な説明もあるので問題なく解けたと思います。あとは、原価差異の繰延処理の貸借を間違えないことでしょうか。
理論は、空欄補充のうち区分掲記の数値基準はできなくても仕方がないでしょう。記述問題は「四半期財務諸表で問うならこの論点」と予想される典型論点なので準備していたと思います。実績主義の採用理由は2つ以上あるので、その中から2つ挙げてください。1つの中に上手く複数を織り込めると加点になると思います。
問題1:ストック・オプション
問1は経営学の財務論の知識が活きる問題です。(a)は本源的価値に、(b)は時間価値に影響する要因です。
問2の条件変更に伴う公正な評価単価の変動に関する非対称的な処理の理由も、問3の権利確定条件の変更によるストック・オプション数の変動の処理も、典型論点ですから、準備してあったと思います。
問題2:税効果会計
問1、問2は期間差異と一時差異についての論点です。一時差異の定義は会計基準にもあるので、配布法令基準等から検索することも可能です。期間差異は一時差異の定義と対応する表現にすると書きやすいと思います。両者の違いは「その他有価証券評価差額金」を念頭に説明することが出来ます。
問3の繰越欠損金が税効果会計の対象となる理由は、「将来の課税所得と相殺可能な」のところで答えがあるも同然ですね。
問題3:本支店会計(在外支店)
計算は、短答式の過去問と同様の内容なので、しっかりと得点したい問題です。短答式試験受験直後の受験生にとっては美味しい問題ですが、短答合格後1年ないし2年経過している受験生は記憶を紐解きながらの問題です。論文式で本支店会計が問われるのは希ですが、たまに短答用の問題集を振り返る必要性を感じる出題でした。
理論は、在外支店の財務諸表項目の換算の特例的な方法についてです。「計算で適用した以外の」とあるので、非貨幣項目のCR換算について説明します。採用理由は「簡便だから」です。
問題4:退職給付会計
問1の退職給付債務の割引率は計算の知識で選択できます。採用理由は「安全性の高い債権の利回り」とだけは書きたかったですね。
問2の年金資産については、(1)退職給付債務と年金資産を相殺表示する理由は、典型論点として準備があったと思います。(2)内部運用の場合は、(1)の理由を裏返せば答案になるのですが、その場の作文力次第になります。
問3の期間定額基準と給付算定式基準の選択適用も典型論点です。問題文上、「期間定額基準に加えて」とあるので、給付算定式基準の選択も認められている理由、という観点から説明する必要があります。
第5問
毎年、第5問は、連結会計の総合問題です。短答式との違いは、連結子会社や持分法適用会社の多さで、本年度は8社もありました。時間的に全てを解答するのは難しいので、効率よく解き進めることが肝要です。
問題1 未実現利益の消去(税効果あり)
問1 持分法適用会社(25%)との内部取引の修正仕訳(アップ・ストリーム)
問2 連結子会社(100%)との内部取引の修正仕訳(ダウン・ストリーム)
商品に係る未実現利益の消去に関する問題なので、正答が必須となります。
問題2
問1 のれんの金額
問2 個別P/Lに計上される株式評価損
問3 のれんの金額
問3は、他の主要校でも「C」ランクとされているので、埋没と位置づけて大丈夫です。初見の計算問題は、数秒考えて無理そうなら、手をつけずに次の問題に移行するのが賢明です。第5問は、解答箇所が多いので、どんどん先に進んでいきましょう。
問題3 段階取得による子会社化
連結P/L及び連結B/Sの穴埋め(8箇所)
問題3は、ちょうど、短答式試験の問題23~28の総合問題と同程度の難易度、分量です。第5問の連結では、本問での取りこぼしを最小限に抑えられたかが合格ライン到達への鍵になったと思います。
問題4 持分法適用会社に多額の損失が生じた場合の処理
投資有価証券の金額と仕訳の穴埋め(6箇所)
投資有価証券の金額がマイナスで表示されるはずがないので、ゼロになるところまでは予想できるはずです。これだけで解答箇所8箇所中4箇所正解できます。残りの4箇所は、埋没と位置づけて大丈夫です。
問題5 逆取得による吸収合併
問1 議決権比率
問2 連結会計上ののれんの金額
問3 吸収合併後の個別B/Sの穴埋め
企業結合・事業分離は様々な計算パターンがありますが、日商1級、短答式試験、論文式試験を通して、最もよく出題されるのが「逆取得による吸収合併」です。「さすがに、もう出題されないだろう。」と思っていても、「やっぱり、今回もまた、逆取得による吸収合併かぁ。」といった印象です。ただ、会計士試験の受験生としては、「逆取得による吸収合併」だけに絞り込むわけにもいかないので、テキストに掲載されている企業結合・事業分離の全てのパターンを準備しておかざるを得ないでしょう。
問題6(理論)連結F/Sへの注記 ~ 債務保証
解答例を読むと、違和感なく、「あぁ、なるほど」となりますが、現実には、書けない内容です。他の主要校でも「C」ランクとされているので、埋没と考えて大丈夫です。ただ、白紙答案とするのではなく、偶発債務の意義や注記の必要性を記述して、ほんの僅かな部分点でも拾うように心がけてください。
問題7(理論)連結F/Sへの注記 ~ 後発事象
結論は短答知識で合わすことができ、解答の行数は監査論の知識で膨らませることができたはずです。難易度としては「中」程度ですが、答案用紙の行数が10行もありました。時間があれば、優秀答案が書けそうな問題です。10行をしっかり埋めるための時間を残せたか、受験生は、「時間配分の大切さ」を再認識させられたのではないでしょうか。
全体としては、日頃の実力が反映される良問だったと思います。