令和4年度公認会計士論文式試験講評~会計学(午後)

令和4年度は、会計学(午後-財務会計論)も例年より難しかった印象です。ただし、問題毎の難易度が分かり易く、解くべき問題か否かがはっきりしていて、受験生としては案外対処しやすかったかも知れませんね。それでは以下で、各問題毎に講評していきます。解答・解説はこちらからご確認ください。

第3問

問題1:討議資料 財務会計の概念フレームワーク

問1は公認会計士試験では珍しい理論(しかも長文)の空欄補充問題でした。財務会計の概念フレームワークそのままの抜粋ではないので、多少考える必要がありますが、選択肢もあることですし6~7箇所/9箇所は難なく埋められたと思います。

問2は土地の保有目的による表示区分についての理論です。販売目的なら棚卸資産、自己使用目的なら有形固定資産であることは即答できるはずです。しかしこれを「意思決定との関連性」から説明するのは難しいでしょう。外形的形式が同じ土地でも、保有目的=実質(経済的実態ともいいます)が異なれば異なる会計処理が求められるのは、投資家にとっての比較可能性のためです。この比較可能性でいうところの、実質が同じか異なるかは「投資家の意思決定の観点」から将来キャッシュ・フローが同じか異なるかである、というところで「意思決定との関連性」につなげます。

問題2:株主資本等変動計算書

問1は株主資本等変動計算書の空欄補充です。「純資産の部に計上されたその他有価証券評価差額金の増減」も差額で求めれば簡単なので、ここは8箇所/8箇所の正答を狙えます。

問2(1)は、株主資本等変動計算書が貸借対照表の純資産の部の変動事由を説明している点や、資産負債アプローチから損益計算書が貸借対照表の利益の発生原因を説明している点等を指摘して、3財務諸表の関係性を説明します。

問2(2)は、株主資本等変動計算書の記載範囲の典型論点で答案の用意があったはずです。

第4問

問題1:収益認識基準

問1は適用指針の設例14とほぼ同じなので対策していれば解けたと思いますが、収益認識基準の設例の中では重要度が低いものかと思うので、ここまではカバーできていなくとも仕方ない気がします。

問2については適用指針の規定ですし、暗記しておくには端っこの論点なので受験上はパスで問題なしです。

問題2:税効果会計

問1の法定実効税率については、通常、資料に与えられた率を用いるだけなので、算定方法等については確認してないかと思います。

問2については、計算問題対策として税率変更の際にどうすべきか確認してあったはずですから、それを文章化してみましょう。

問題3:自己新株予約権

自己新株予約権は必ず自己株式との相違を意識して学習してあったはずなので、問1問2の付随費用の処理については完答したいところです。理論の答案スペースもしっかりあるので、自己株式の処理(本体は資本取引で付随費用は別個の損益取引)にも触れながら、自己新株予約権の取得が資産の取得という損益取引であることを強調します。

問3問4の減損処理は、計算自体の出題が稀なので対策してないと難しいですね。自己新株予約権は表示上新株予約権と相殺表示されるように、対応する新株予約権の帳簿価額が減損処理後の簿価の下限になります。このため、時価が対応する新株予約権の帳簿価額を下回る場合に、有価証券の減損処理との差異が生じます。

問題4:退職給付会計

問1の予測給付債務概念は、累積給付債務概念、確定給付債務概念と対比されるので、受給権の有無、将来の昇給等の考慮如何の2点で説明します。

問2の過去勤務費用の遅延認識は、典型論点として答案の用意があったはずです。原因となる退職給付規定の改訂が将来の勤労意欲向上を期待するものである点を指摘します。

問3も典型論点です。実際の資金調達活動によるものでない点、最終的に退職給付(賃金)となる点を指摘します。

第5問

問題1:連結F/S作成に関する記述の穴埋め

子会社2社のうち、A社は在外子会社です。国際会計基準に準拠している在外子会社の個別財務諸表項目のうち幾つかを日本基準に変換してから、連結する必要がありました。また、B社については、追加取得したのち、連結除外するという、あまり見かけないパターンなので、「難しいそう」というのが第一印象です。
ただ、国際会計基準の処理については、事前の知識がなくても解答できるように、「A社の場合、投資不動産および研究開発費という2つの項目について修正を行う。」とした上で、関連する会計処理について、親切丁寧な指示があるので、一定レベル以上の受験生は対応できたと思います。
大手専門学校では初見の論点は手を出さないように指導していますが、個別財務諸表の修正が絡む②④⑤⑦にも積極的にチャレンジする姿勢が大切です。

問題1の解答箇所は13箇所ですが、問題2の計算も、問題3の理論も難しいので、問題1に確りと時間をかけて7箇所は死守したいところです。

問題2:連結B/Sの作成

A社個別財務諸表の諸資産及び利益剰余金に対して日本基準への修正を行ってから、換算、連結という流れになるので、個別財務諸表の修正が出来ていないと、①土地、⑦投資有価証券、⑧資本金くらいしか正答できないことになります。個別の修正が出来た受験生は、③⑥のれん、⑤非支配株主持分、⑩為替換算調整勘定あたりまで正答できたはずです。

問題3:連結F/Sの作成に関する理論

問1(1)は、B社株式の追加取得仕訳に計上される資本剰余金の金額を計算するだけなので、正答必須の問題です。
(2)は、資本剰余金の変動額とする根拠を論述する問題です。大手専門学校3校の解答速報をみると、親会社説のまま論述しているのが2校、経済的単一体説で論述しているのが1校です。FINの講義では、経済的単一体説を使って説明しているので、FINの解答速報は経済的単一体説で論述しています。
受験勉強をしていると、各専門学校によって、採用している説(論拠)が異なっている場合があることに気づきます。本試験の答案用紙は、白紙ではもちろんゼロ点になってしまうので、短時間で答案用紙に論述できる、自分でしっくりくる論拠を選ぶようにしましょう。

問2は、計算での処理を簡潔に記述させるタイプの問題です。
持分が減少しても支配が継続する場合は為替換算調整勘定を取り崩して資本剰余金としますが、持分法適用会社へ移行する場合は売却損益を構成する、といった内容を記述しておけば大丈夫です。

問3(1) は、国際会計基準と日本基準の建物売却仕訳に係る売却益の差分を計算すれば良いので、出来れば正答したい問題です。
(2) の問題文には、記述すべき項目として、①親会社と子会社の会計方針に関する原則的取扱い、②日本の会計基準に共通する考え方、③会計処理の修正が求められる理由、という3項目が明示されています。
これら3項目について、それぞれ、①親子会社間の会計処理は統一する、②財務報告では、とりわけ利益情報が重要である、③国際会計基準と日本基準との差異に重要性がある、といった内容を丁寧に記述しておけば良いのですが、現実には、これらの一部を部分点狙いで記述しておけば大丈夫です。