令和4年度公認会計士論文式試験講評~経営学
今回の経営学も、令和3年度と同様、例年よりも難しかった印象です。しかし、実際に解き進めてみると、素点で6割程度を得点するのはそう難しくない事が分かります。第2問のボリュームが大きく、時間の制約も厳しいですから、「解らないものは解らない」とサクサク次へ進めていくが吉ですね。
では、個別に講評していきます。解答・解説はこちらからご確認ください。
第1問:組織論・戦略論
問題1:リーダーシップ論、ドメイン定義
問1:リーダーシップ論の知識がなくとも、リーダー個人が集団のメンバーに対して発揮するのがリーダーシップだという一般教養から選択可能です。
問2:リーダーのとるべき行動が明らかになれば、リーダーが相応しい行動を選択できるようになるわけですから、リーダーシップは育成・強化できる能力ということになります。
問3:オハイオ研究とPM理論についての空欄補充です。リーダーシップの「仕事か人間か」の二元的研究は何パターンかあるので、混同しやすく、取り違えも致し方ない気もします。ただ、語群もあるので、2/4は正答したいところです。
問4:下線部(キ)の説明をそのままグラフ化するだけなので、各スキル概念の知識がなくても解けてしまう側面がある一方、グラフへの親和性には個人差がありますよね。また、ヒューマン・スキルについて「どの階層においても重要」だが「最上部層では重要性は相対的に小さく」という部分をどうグラフに反映するかで答案が分かれるようです。
問5:これは、①顧客層、②顧客機能、③技術、のドメイン定義の3次元を覚えていたかどうかです。この3つ(①は問題文中にあるので正確には2つ)が出てくれば、文章中から②③に対応する語句も選べたと思います。
問6:「ドメインコンセンサス」という用語を覚えていたかどうかですね。
問7:ドメイン定義の失敗として代表的な説明です。2行しか答案のスペースがないので、「物理的定義=企業が提供するサービスに着目」、「機能的定義=顧客が求める機能に着目」についてうまく整理してスペース内に収めましょう。
4問/7問が目安になると思います。
問題2:組織論
問1:VRIOフレームワークは資源ベース論の代表的な分析ツールですから、ここは完答したいです。
問2:前回に引き続き中学受験的な問題がでました。中小企業に関する問題で、範囲については「売上高」のような変動性の高い基準はあり得ないので「d.資本金額又は出資金総額」が選べたと思います。従業員数100以下、企業数全体に占める割合99%は知識があるかどうかでした。
問3:差別出来高給制の説明では、何が差別的かを明らかにする必要があります。つまり「課業の達成いかんにより賃率が差別的である」ことを強調します。一般的な出来高給制でも出来高に応じた賃金が支払われるので、これだけ説明しても解答になりません。
問4:科学的管理法の前提「経済」人モデル、ホーソン実験で明らかになった「非公式」集団は正答できますね。
問5:最も高次の欲求といえば「自己実現」欲求、「成長」欲求ですね。これも正答できたと思います。
問6:職務特性理論の計算は、対策してないと無理なので、知識がなければ受験上パスで問題ないでしょう。
3問/6問が目安になると思います。
第2問:財務論
問題1:資金調達
問1:負債利用のメリット(①節税)とデメリット(②倒産コスト)は問題なく正答できたでしょう。
問2:「負債比率が低くなるほど深刻になる問題=自己資本のエージェンシー問題」と読み替えれば、FCF問題が選べたと思います。デットオーバーハングは債務過剰で逆ですし、資産代替問題はリスク・シフティングのことです。
問3:ペッキング・オーダーは、大まかに「内部金融→負債→新株発行」が資金調達の優先順位になります。加えて不特定多数の資金提供者が関わるほど優先順位が下がると考えます。
問4:情報の非対称性から、高収益の投資機会のための資金調達でも、投資家が株価の過大評価が要因と判断するという内容です。
問5:IPOで低い値付けになることを「アンダープライシング」といいます。マルチプルについては、株価○○率を選択すればよいので、PSR(株価売上高倍率)、PER(株価収益率)を選択します。EBITやEBITDAは企業価値を求めるマーケットアプローチで用います。
3問/5問が目安になると思います。
問題2:企業価値
問1:WACC、FCFによって企業価値を求めるという典型問題です。完答したい問題ですが、問1-2の「1年後の期待FCFの現在価値」という表現が少し紛らわしい気がしました。
問2:DDMも典型問題ですから完答できる筈です。
問題3:債券投資
問1:債券価格やデュレーション、イミュニゼーションについては典型問題として完答できると思います。
問2:VaRは受験上はパスで問題ないでしょう。
問題4:証券投資
問1:期待効用が無差別であることから、(1)式に株式Aのμとσを代入したものと、株式Bのμとσを代入したものが一致する計算でDが求まります。配分比率やポートフォリオの標準偏差の算出は典型問題なので正答できるはずです。④⑤は無差別曲線と効率的フロンティアが接している(傾きが同じ)グラフを思い浮かべられたら計算も出来たと思います。
問2:株式Aと市場インデックスの共分散か相関係数が与えられていたらさほど難しくはないのですが、どちらもなく難しすぎました。大手専門学校間でも解答が割れているので、受験上パスで問題なしです。
問3:無リスク資産を含むポートフォリオですから、直線上のフロンティア上(標準偏差0~0.12、0.12が株式Aと株式Bのポートフォリオ)で、かつ標準偏差の上限0.05(右上がりの直線上で期待μ最大になる)にあるポートフォリオを選択します。実は簡単なことに気づけたかですね。
問1完答が目安になります。
以上です。