第73回 税理士試験講評~簿記論
第2問のボリュームが小さめであったものの、今回の簿記論も時間の制約が厳しく、問題毎の難易度の差も大きかったため、解くべき問題の取捨選択と時間配分が重要でした。
第1問
問1:特殊仕訳帳
特殊仕訳帳の出題は、十数年ぶりだそうです。ということは、FINでは開校以来初めての特殊仕訳帳ということになります。日商でも出題されなくなっている論点なので、多くの受験生が面食らったことでしょう。ただ、特殊仕訳帳の仕組みが理解できていないと、自分で会計システムは組めないので、個人的には税理士試験にもっと出題すべき論点だと思っています。
今回は、「当座売上」、「当座仕入」、「手形売上」、「手形仕入」といった精算勘定が使用されています。二重仕訳控除の回避方法の一つとして講義でも精算勘定を紹介していますが、その存在意義が頭に入っている受験生にとっては楽しく解答できる問題ということになります。
問2:ソフトウェア
仕訳の空欄補充問題です。自社利用目的ソフトウェアの制作から使用・償却にいたる典型的な処理です。補助プログラムの廃棄処理は見慣れないものですが、勘定科目群に「ソフトウェア廃棄損」勘定があるので迷わず処理できたと思います。十分完答できる問題です。
第2問:外貨建取引
仕訳の空欄補充と特定勘定の残高が問われましたが、ほとんど総合問題のような〔第2問〕でした。
予定取引の為替予約では、前期末の繰延ヘッジ損益も含めて、予定取引実行時に為替予約に生じた為替相場の変動損益を仕入と相殺させます(解説4.(3))。買掛金の決済時には「ドルの受け払いは両建て」の指示があるため、差金決済ではなく反対売買の処理も仕訳に乗せていきます(解説5.(2))。
外貨建の社債では、償却原価法(利息法)を外貨建で算定し社債利息を平均レートで円換算します(解説8.)。券面利子はその時の直物レートで換算するため(解説9.イ)、実効利子率で社債利息を一括計上する通常の処理とは異なってくる点に注意します。
外貨建取引の中でも難しい論点が多かったので、半分が目安かと思います。
第3問
横領額の処理やインセンティブ報酬等、見慣れない論点もありましたが、それほど複雑な処理を必要とする論点はありませんでした。製造業が含まれていたので、売上原価を求めるプロセスが手間がかかりますし、かつ途中ミスもありがちですから、それ以外の論点を丁寧に拾っていく方が良かったかもしれません。4割程度が目安でしょうか。
2.当座預金の残高調整では、従業員の横領の処理として、借方に従業員に対する請求権を「未収入金」、取引先への支払義務を「未払金」で計上します(解説2.(4))。
3.貨物代用証券での商品販売は、仕入と売上を同時に計上する「未着品」の売買処理になっています。同時に荷為替手形も割り引いているので割引額との差額を手形売却損とします(解説3.(2))。
4.製品Bの仕掛品勘定の計算は加工進捗度を考慮した簡単な原価計算によっていますが、慣れていないと手間取ったかもしれません(解説4.(2))。やはり今回の商製品は受験上は後回しした方が良さそうです。
5.固定資産では火災保険金の受け取りに伴って積立金方式の圧縮記帳が行われています。個人的には一旦積立金全額を計上して、減価償却費対応分を取り崩す処理が分かり易いと思っています(解説5.(3))。
9.インセンティブ報酬については、株式引受権と株式報酬引当金の株主総会の決議が済んでいるかいなかでの使い分けが必要でした(解説9.)。
10.出資金の利益の分配は「出資金の返還額」の指示がありますし、損益計算書に「投資利益」勘定も用意されているので迷わず済んだと思います(解説10.)。
以上です。