令和5年公認会計士論文式試験講評~租税法

令和5年8月20日(日)に実施された論文式 租税法の講評です。
例年通り、前半が理論(40点)、後半が計算(60点)という構成です。

難易度は、理論は昨年並み、計算は法人税と消費税法はやや易化、所得税は難化しているので、理論と計算合わせて、昨年と同程度の印象です。素点ベースでの合格ボーダーは48点前後を予想しています。

第1問 

問題1:理論(記述問題)

理論:4行×4問
法人税2問、所得税1問、消費税1問
予想配点:@5点×4問

問題1は、他の専門学校の解答解説では難問とされていますが、たまたま答練やメール配信問題で直前に取り扱った問題が出題されたので、あまり難しいという印象ではありませんでした。
問1: 甲土地の分配に関するA社における法人税法上の取扱い(難易度:A)
2017年度論文式試験で類題が出題されています。2017年度の問題では「株式」を現物分配していましたが、2023年度では「土地」を現物分配しています。ロジックは全く同じなので、2017年度の問題に触れていればAランク、触れていなければCランクの問題です。
FINでは、たまたまですが、本試験直前の7月にメール配信問題として紹介していたので、ラッキーでした。

問2: 内国法人B社から外国法人C社への土地購入対価の送金に関するB社における所得税法上の取扱い(難易度:A)
2018年度論文式試験でほぼ同じ問題が出題されています。指摘すべき条文も同じです。2018年度の問題に触れていればAランク、触れていなければCランクの問題です。Cランクとしている専門学校が多いですが、FINでは、第3回の答練で2018年度の問題を出題していましたので、Aランクとしておきます。

問3: D社が受けた交付金1,000万円と取得した建物に関するD社における法人税法上の取扱い(難易度:B)
論点は、無償による資産の譲受けと圧縮記帳です。無償による資産の譲受けの論点は、過去に何度となく出題されている論点なので、Aランクです。もう一つの論点ですが、工事負担金を支出しているB社側の処理については、繰延資産を学習する際に、地下鉄工事の地下通路の設置の設例で紹介されているはずなので、ストーリーは理解できている受験生も多いはずです。本問は、工事負担金を受け取ったD社側の処理です。いったん、受け取った1,000万円を受贈益としているわけですから、圧縮記帳処理は思い浮かべてほしいところです。

問4: P及びQに対する新商品の無償譲渡に関するB社における消費税法上の取扱い(難易度:A)
消費税法の計算で繰り返し出題されている論点なので、役員Pへの無償譲渡は課税の対象となり、使用人Qへの無償譲渡には消費税が課されないという結論はすぐに分かります。あとは、条文を探し出せるかです。

問題2:理論(正誤+記述)

理論:正誤+3行×5問
法人税3問、所得税1問、消費税1問
予想配点:@4点×5問

前々年は5つとも×、前年は4つが×、そして、本年は3つが誤った文章でした。配点は1問あたり4点ですが、○×だけで2点ずつ、5問とも○×を合わせることができれば10点貰えるようです。
①○:B社とC社の土地取引に関して、B社の法人税額の計算上、令和2年度に所得は生じない 。(難易度:A)
頻出論点なので、正答必須です。
完全支配関係がなければ、時価課税の譲渡益7,000万円と寄附金2,000万円が計上されますが、譲渡益が61条の11第1項で、寄附金が37条2項で消される形になります。解答例では根拠条文をたくさんあげていますが、37条2項(完全支配関係のある法人への寄附金)と61条の11第1項(譲渡損益の繰延べ)が必要条文です。

②×: B社とC社の土地取引に関して、B社の法人税額の計算上、令和4年度に所得が生じる。(難易度:B)
○としてしまった受験生も多いと思います。完全支配関係が解消されたのは、令和4年4月1日で令和4年度ですが、譲渡損益を実現させるのは、「その有しないこととなった日の前日の属する事業年度」とされているので(61条の11第3項)、令和4年3月31日が属するB社の事業年度、すなわち、令和3事業年度ということになります。

③×: D社の貸倒引当金繰入額は、D社の法人税額の計算上、令和4年度の損金となる。(難易度:A)
D社の資本金は5千万円ですが、資本金20億円のE社に完全支配されているので、一括貸倒引当金繰入額の損金算入はできません。条文もすぐに見つけることができるので、正答必須です。

④○: PがE株式をH銀行に信託したことにより、Pは令和4年度において譲渡所得が生じる。(難易度:C)
捨て問です。

⑤×: Sは食品加工機による代物弁済を行ったが、消費税法上、消費税は課されない。(難易度:B)
食品加工機を100万円で売却して得た現金で、借金を返したと考えるだけです。講義でも簡単な数値例を用いて紹介していますが、条文が2条(定義)のところにある、というのが難しかったと思います。

第2問 

問題1:法人税法

解答箇所:20箇所
予想配点:30点
出題分野:減価償却費(4問)、租税公課(4問)、給与(4問)、金銭債権(3問)、外貨建金銭債権(1問)、受取配当(1問)、棚卸資産(1問)、寄附金(2問)合計20問

本年度は、主要な分野のみが出題されたので、20問ともに手をつけることができました。
減価償却(4問)については、(1) 普通償却か、一括償却か、(2) 改訂償却率を使用した計算、(3) 圧縮積立金、(4) 過去の減損損失が出題され、4問中3問正答したいところです。
(2) と(4) は正答必須です。
(1)は修繕や除却が絡みますが、簿記力のある受験生には苦にならないはずです。
(3)は剰余金処分経理ですが、この場合は、積立金の処理と償却費の処理を切り離して行う点さえ思い出せれば正答できたはずです。

租税公課(4問)については、4問中3問正答したいです。
(2)前期分確定申告と (3)当期中間申告&(4)当期末未払計上は、いつものタイムテーブルに載せるだけで正答可能です。
(5)税効果会計(法人税等調整額)もいつものように簡単です。
(6)繰延消費税額の加算調整も学習の範囲内でしょうから、正答してほしい論点です。

給与(4問)については、4問中3問正答したいです。
(2)役員の職制上の地位の変更は、Fだけ職制上の地位変更がなかったため加算調整が必要な点は気づくことができるはずです。
(3)事前確定届出給与については、届出を失念したFに加算調整が必要なのは当然ですが、役員Dと役員Eの分は難しいです。
D分とE分の届出は、通常であれば7/31までですが、臨時改定事由に係る役員分については、臨時改定事由(職制上の地位の変更)が生じた日(8/22)から1ヶ月を経過する日(9/21)が提出期限となります。従って、実際の届出日(8/31)は提出期限内なので、12/10に支給した役員賞与の損金算入は認められます。
(4)退職慰労金は、不相当に高額でない限り、 原則として、決議日(当期)の損金となります。本問では、前期の引当計上分55,000千円が前期の確定申告で加算調整されているはずなので、当期に55,000千円を減算処理します。
(5)当社が受け入れている出向役員に対する給与は、原則として、当社役員への給与と同様に取り扱うことになります。従って、事前確定届出給与の届出を行っていない分2,000千円の損金算入は認められません。

金銭債権(3問)については、3問中1問正答で良いでしょう。
(1)1円の備忘記録を怠ると全額が損金不算入となる論点や、(3)更生手続の開始決定の通知後には50%基準による個別貸倒引当金が認められない論点は、初見なので、出来なくても大丈夫です。

外貨建金銭債権(1問)、受取配当(1問)、棚卸資産(1問)、寄附金(2問)の計5問には、難しい論点はありません。短株と寄附金の損金算入限度額の計算は時間がかかるのでスルーも仕方ないところです。5問中3問は正答しておきたいところです。

法人税法の計算は例年と比較して解きやすい印象です。20問中13問が目標です。

 

問題2:所得税法

解答箇所:10箇所
予想配点:15点
出題分野:給与所得(1問)、退職所得(1問)、譲渡所得(1問)、一時所得(1問)、事業所得(1問)、不動産所得(1問)、雑所得(1問)、生命保険料控除(1問)、医療費控除(1問)、所得金額(1問)

給与所得正答可能性はゼロです。

退職所得は、改正論点である「短期退職手当等」が出題されました。簡単だったので、正答しておきたいところです。

譲渡所得、一時所得は難しい論点は含まれていないので、どちらかは正答しておきたいです。

事業所得は、繰延資産とパソコンの取得原価が30万円未満なので、取得原価全額が「必要経費」となる点に気づけば、正答できたはずです。

不動産所得正答可能性はゼロです。「減価償却費の5/96が必要経費とならない。」なんて、本試験中に判断できなくて当然です。

社会保険料控除は、同一生計親族分も控除対象となりますが、よく知られた論点なので、正答しておきたいです。

医療費控除には、病気の予防費用は含めません。従って、新型コロナウィルス感染予防マスクの購入費用も医療費控除の対象にはならないのですが、これを医療費控除の対象としてしまった受験生が多いと思います。新型コロナウィルス関連は特別扱い、というイメージがありますからね。不正解もやむを得ずです。

生命保険料控除は、頻出論点ですが、実務上、自分で計算できる必要はないので、積極的にスルーしましょう。

課税総所得金額ですが、給与所得や不動産所得が含まれるので、正答可能性はゼロです。

所得税法の正答は最大で5問なので、3~4問の正答で十分です。

 

問題3:消費税法

解答箇所:10箇所
予想配点:15点(1箇所1点の場合は10点)
出題分野:課税標準に対する消費税額(1問)、不課税取引(1問)、課税売上割合(2問)、課税仕入に係る消費税額(4問)、売上返還に係る消費税額(1問)、貸倒れに係る消費税額(1問)

昨年に引き続き、完答を狙えるレベルです。
標準税率と軽減税率を併用する問題でした。注意すべき取引は、一つだけ。支払った「販売奨励金」です。
通常の問題では、「売上返還等」に含めますが、本問の販売奨励金は、「課税資産の販売数量、売上高等に応じて取引先に支払う金銭の支払い」ではないので、「10%の課税仕入」として処理します。
消費税法の解答箇所は10カ所ですが、この判断を誤ると、連鎖的に5カ所を間違えることになります。
消費税法が15点満点だったのか、7~8点だったのかは、合否に直結します。
「本問くらいの難易度であれば満点を狙える。」といえるレベルを目指して学習しておきたいですね。

以上です。