令和5年度公認会計士論文式試験講評~財務会計論

令和5年度の会計学(午後-財務会計論)は、理論の解答スペースが昨年よりも20%増加し、時間不足が懸念される問題でした。計算は、第3問でリース会計に難解な出題がありましたが、それ以外は比較的解きやすかった印象です。超難問だったリース会計に時間を投下しすぎずに、増加した理論の解答スペースを埋めるのに時間を回せた受験生は、合格ラインに到達できたはずです。

第3問

問題1:キャッシュ・フロー計算書(間接法)

問1の計算は解答箇所10箇所で、①④の2問は難易度Bですが、残りの8問は難易度Aでした。
本問は製造業を前提としているので、①減価償却費については、販管費の金額だけでなく、製造原価に含まれる減価償却費も集計する必要がある、というのがポイントでした。これが合えば④も正答できます。
全問正解で気持ちよくスタートできた受験生も多かったと思います。

問2は基本問題なので、得点源にしておきたいです。
(1) 棚卸資産の評価損については、受験生から質問を受けることがある論点です。評価損なので、確かに、「非資金損益項目」ではあるのですが、棚卸資産の増減額に反映されているので、「非資金損益項目」としては表示されない、というロジックになります。
(2) 配当については、計算知識を答案に書くだけです。100%子会社の場合は、連結キャッシュ・フロー計算書上、全額相殺消去されているので、当然に表示される金額はありません。それに対し、非支配株主が存在する場合は、親会社への配当は相殺消去されるので100%子会社のときと同様ですが、非支配株主の受領分は、「非支配株主への配当金の支払額」として表示されることになります。

問題2:リース取引

所有権移転外ファイナンス・リースと転リースの計算問題とリース取引の総論からの理論問題の出題です。

計算問題は、所有権移転外ファイナンス・リースと減損処理、資産除去債務を組み合わせたなかなかの手応えの問題で、9箇所中4~5の正答で大健闘だと思います。最大で10年分もの割引計算を要求された時点で戦意をそがれた方もいるでしょう。まず、論文式試験なのでファイナンス・リースの判定を手抜きせずにしておきましょう。

次に減損処理を組み合わせた機械設備Aでは、「所有権移転外」であるため、正味売却価額が当社にとってのキャッシュ・フローで無いことを減損処理の際に注意する必要があります。

資産除去債務を組み合わせた機械設備Bが、本問の中では標準的でした。資産除去債務の利息費用は支払利息の集計に含めない旨の指示を読み落とさないように注意です。

問2の理論は、aは我が国の会計処理なので書けたはずです。bの使用権モデルは対策してあればそう難しくはないのですが、パスした方も多いかとは思います。

第4問

問題1:負債会計

問1は賞与引当金の引当金の4要件への当てはめです。引当金の4要件は①将来の費用又は損失、②発生が当期以前の事象に起因、③発生可能性が高い、④金額の合理的見積り、です。これに丁寧に当てはめていきます。①翌期に支給される賞与、②支給対象期間のうち当期に属する、できれば、当期に提供された労働に起因する、③④労働協約等に基づき算定・支給、となります。これは全受験生がそれなりには記述できるので、できるだけ丁寧に書きます。

問2は引当金か未払費用か違いです。引当金の要件の③④の不確実性が多少なりともあれば引当金、なければ(確実であれば)未払費用です。経過勘定である未払費用なので、時の経過と共に発生する費用の期間配分についても書きたくなりますが、引当金との対比が求められる本問では不要かと思います。(未払金との対比の場合には時の経過も重要になります。)

問3は役員賞与が利益処分項目から費用となった論拠が問われました。費用とされるのは、獲得された利益の分配ではなく、提供された労働(役員なので職務執行になります)の対価であること(引当金の要件①②)、引当金が計上されるのは期末時点では引当金の要件③④を満たすことになる株主総会決議事項となる点を指摘します。

典型論点なので得点源となった問題でした。

問題2:収益認識基準

問1は履行義務の識別からの出題です。収益認識基準は如何に「配布法令基準等」から探してくるか、に係っているので「別個のサービスか否か」の論点と気づけば何とか探せたと思います。それでも、(判定)部分は適用指針の内容なので、(要件)が書ければ十分です。

問2は「1年間の合意された仕様に従った機能の保証」ですから、製品保証引当金です。収益認識基準の導入にあたり、引当計上できなくなったものもある中で、製品保証引当金が計上できる場合については確認していたと思います。

問題3:税効果会計

繰延税金資産の回収可能性についての出題です。問1の空欄補充はできたと思います。問2はある意味どうとでも書けるので、解答例では適用指針を参考にしましたが、筋が通っていれば多少は配点があったと思います。問3はタックス・プランニングの意味が分かっていれば、保有資産の含み益を排出する実現可能性について書けたと思います。

問1問2問3の部分点が拾えれば上出来です。

問題4:外貨換算会計

問1は一取引基準と二取引基準についての出題です。典型論点ですし、通常、商品売買で説明する論点なので、準備してあったと思います。

問2の為替換算調整勘定は確実に合わせたい問題です。通常は収益費用は平均レートで換算しますが(1)、(2)もそれが決算レートに変わるだけなので下書きを工夫して効率的に解けるようにできれば良かったですね。

第5問

問題1:連結会計

問1は、成果連結を中心とした総合問題で、解答箇所は18箇所でした。難易度としては、Aランクが7問、Bランクが8問、Cランクが3問となりますので、9問程度の正答が目標となります。ただ、連結会計が得意な受験生だと、もう少し得点できそうなので、やや差がつきやすい問題だったと思います。
特徴的な出題形式として、資料に与えられている連結F/Sの金額から個別F/Sの金額を推定するといった逆進の解答箇所が6つもありました。成果連結の連結修正仕訳を下書用紙に丁寧に書いていけば6問中4問程度は正答できたはずです。
難易度の高い論点を整理しておきます。
まず、P社は子会社A社の財務状況に鑑み、A社株式を取得原価1,000から純資産額450にまで切り下げ、550の評価損を計上しています。この評価損が連結P/Lには計上されないのは当然ですが、もはやA社について超過収益力を計上している場合ではないので、期末ののれん120を償却してしまいます。これが「チ」の120ですが、Cランクなので、出来なくても大丈夫です。
また、あまり見かけない論点として、P社が50,000で仕入れた商品をA社に45,000で販売し、これがグループ外部へは未販売で期末商品となっています。このまま放置すると、いわば未実現の損失が連結F/Sに計上されることになりますが、これは放置することになっています。将来、45,000でしか販売できないのであれば、商品を50,000に戻すべきではない、と考えます。従って、連結修正仕訳は不要です。
最後に、経理業務の委託取引ですが、グループ内の取引なので、B社の「売上100」とP社の「その他販管費100」を相殺消去します。そして、B社は個別会計上、かかったコストを「その他販管費」から「売上原価」に70百万円を振り替えているので、連結上は「売上原価」から「販管費」に同金額を戻す必要があります。これは、初見でも解けたのではないかと思います。
初見の論点も散見されますが、現場である程度対応できる良問でした。

問2は子会社株式の一部売却のCFの表示区分です。個別上は子会社株式への投資の回収CFで「投資活動」です。連結上は本問の場合は支配が継続しているため(60%→55%)企業集団の外部者である非支配株主との取引なので「財務活動」となります。

問3は持分法適用範囲、連結子会社の範囲の論点です。持分法は基準の「議決権の100分の15以上、100分の20未満を所有している場合」の実質基準の規定にあてはめて、連結子会社は「緊密な関係にあるものが所有している議決権と合わせて」の規定が利用できると思います。

問題2:連結会計

問1は、連結子会社の全面時価評価法、持分法適用会社の部分時価評価法について丁寧に説明する問題です。計算問題でも意識している内容なので書けたと思います。

問2は段階取得について、こちらも個別と連結の相違箇所を問うています。個別では段階取得で損益を認識しないので投資の継続を仮定するのに対して、連結上は投資を一旦清算して支配を獲得したとします。これも典型論点なので書けてほしいですね。

問題3:連結税効果会計

問1は、連結固有の一時差異について、なぜ連結固有の一時差異なのか、というそもそも論が問われました。解答例を見ればその通りなのですが、改めて問われると答えにくかったのではないでしょうか。三つの例示を追加であげるのも、適用指針の内容なので厳しかったでしょう。連結手続きの結果、個別と資産・負債の残高に影響する処理を思い浮かべてみて、出てこなければ仕方ないです。

問2は連結上ののれんに税効果が適用されない理由です。「連結固有の一時差異との関係から説明」とあるので、確かに連結固有の一時差異であることを指摘してあげます。その上で、循環が生じてしまうことを指摘します。

以上です。