令和2年度公認会計士第Ⅱ回短答式試験~講評~監査論

令和2年8月23日、延期となっていた短答式試験がようやく実施されました。酷暑の中、受験生の皆様は本当に大変だったと思います。お疲れ様でした。

順次、解答・解説と講評を公開していきたいと思います。今回は監査論です。

今回の監査論の出題は、標準的で受験生の実力が反映されやすい良問であったと思います。また、過去問の類題や周辺論点からの出題が非常に多く、過去問分析を基礎として対策をしてこられた受験生の方々は、十分な手応えを感じられたのではないでしょうか。

当社に入門コースで申し込まれて今回が初めての受験、という受講生の方から「監査論95点でした」とのご報告を受けました。もちろん、ご本人の頑張りが一番の理由ですが、当社の教材もお役に立てたかなと嬉しく思いました。初学者であっても、適切に対策すれば高得点が獲得できるという証拠ですね。

以下、個々の問題について誤っている記述中心にコメントしていきます。

問題1:財務諸表監査***

確実に正答できる問題です。

ア.監査意見は、企業の将来の存続可能性を保証したり、経営者による業務遂行の効率性や有効性を保証したりするものではないので誤りです。

ウ.監査人は被監査企業から監査報酬を得ています。

問題2:財務諸表監査における監査人・経営者・監査役等との関係***

確実に正答できる問題です。

イ.監査人と監査役等との間で監査業務の分担は行えないので誤りです。

エ.重要な機密情報も含め、全ての必要な情報が監査人に提供される必要があります。

問題3:公認会計士法**

ア.公認会計士の使命及び職責は平成15年の法改正で条文上明確にされました。

イ.特定社員は公認会計士ではないので、監査証明業務の執行社員にはなれませんが、その専門性を生かして監査法人の意思決定に関与します。

問題4:監査法人**

イ.無限責任監査法人の指定社員制度は、全ての被監査会社に要求されるものではありません。有限責任監査法人の指定有限責任社員の指定はすべての証明に要求されるので、これと混同して間違えてしまいそうです。

エ.監査法人の社員の競業禁止義務は特定社員にも課せられます。ここまでの知識は受験上不要な気がします。アイウで正答できればよしでしょう。

問題5:金融商品取引法監査制度***

ウ.内部統制監査と財務諸表監査は一体として行うので、監査概要書も一体として作成します。細かいですね。

エ.訂正内部統制報告書に監査証明は不要です。開示制度における監査証明の有無は頻出論点として対策済みかと思います。

アイの正しいことが明白なので正答できたでしょう。

問題6:会社法監査制度**

ア.計算書類に事業報告は含まれません。計算書類・計算関係書類・計算書類等の区別はしっかり覚えておきたいですね。

イ.企業法の「株式会社の機関設計」の内容としても細かいかと思います。分からなくても仕方ないでしょう。

アウエで正答したい問題です。

問題7:監査役等*

イ.監査役会と監査役の意見の相違なら正答できても、監査等委員会や監査委員会となるととたんに自信がなくなりますよね。まあ、確信がなければ同じと思いましょう。

ウ.これも企業法の「株式会社の機関設計」の内容としても細かいですが、「半数以上」と「過半数」の違いは意識して覚えている方が多いと思いますので、なんとか正誤判定できたのではないでしょうか。

しかし、エ.の事業報告の記載事項まで対策する必要もないと思いますし、この問題は解けなくていいと思います。

問題8:四半期レビュー***

ア.四半期レビュー手続きの追加的手続きの実施は、重要な点において適正に表示していない事項が存在する可能性が高いと認められる場合に要求されます。よって、当初から計画に織り込まれることはありません。

ウ.レビューと監査では保証水準が異なるので、他の監査人の結果の利用の場面での要求事項も異なります。

イエの正しさが明白なので正答できたと思います。

問題9:内部統制監査***

ア.内部統制監査は情報監査ですから、内部統制が有効に運用されているかについて意見表明するものではありません。

エ.開示すべき重要な不備ではない不備については、適切な管理責任者に適時に報告することになります。

内部統制監査からの出題は、難しい傾向がありますが、本問は正答しやすかったでしょう。

問題10:監査の品質管理**

イ.追加の審査担当者の選任や会議体による審査の実施は必要に応じて求められます。細かいですね。

エ.監査業務の定期的な検証がなにか、審査と混同してないかが問われたものです。

エ.以外は正誤判定が難しく、間違えても仕方ない問題でした。

問題11:監査基準の改訂***

ア.必ず「準拠性→特別目的」「適正性→一般目的」となるわけではありません。

エ.「知り得た事項」から「知り得た秘密」への改訂です。よく言えば啓蒙的、悪く言えば言い訳的な変更理由ですが、企業に関する未公表の情報がKAMとして監査報告書に記載される場面に配慮しての改訂なのでしょう。

イウの正しさも明白ですし、正答できる問題です。

問題12:監査人の独立性***

イ.精神的独立性は心の状態ですから、法律で縛ることは不可能です。

ウ.セーフガードを適用しても許容可能な水準にまで軽減又は除去することができないような独立性に対する阻害要因を識別した場合には、監査契約の解除が検討されます。

確実に正答したい問題です。

問題13:監査人の正当な注意及び職業的懐疑心***

ア.正当な注意義務は審査担当者である公認会計士にも要求されます。

ウ.「経営者が誠実であるとも不誠実であるとも想定しないという中立的な観点」という職業的懐疑心のあり方です。頻出論点ですね。

これも確実に正答したい問題です。

問題14:リスク評価及び評価したリスクへの対応***

イ.もともと質問という監査手続きは、回答の評価が不可欠の手続きですし、運用評価手続きの内容の知識があれば誤りと分かると思います。

エ.売掛金残高が重要であっても、必ず実証手続きとして確認を実施しなければならないわけではありません。

問題15:監査証拠**

イ.訴訟事件に関する監査手続きは、受験対策外の方が多いと思います。できなくて問題なしです。

エ.経営者確認書は監査証拠です。頻出論点ですね。

アウエの判断が容易なのでなんとか正答したいところです。

問題16:監査意見の形成**

イ.適正表示の枠組みは、要求事項の遵守に加えて、要求以上の開示か離脱容認規定がある、という知識はあると思います。しかし、この記述自体が日本語として分かりにくいので、正誤判断しにくかったと思います。

エ.「継続企業を前提として財務諸表を作成することが適切でないと判断+継続企業を前提として財務諸表が作成」の場合には否定的意見の表明です。

ウ.の内容もマイナーな論点からの出題で、全体として難しい問題でした。

問題17:監査報告書の記載事項***

ア.除外事項以外もKAMの対象になります。

ウ.企業の未公表の情報さえもKAMとして記載されることがあります。

必ず正答したい問題です。

問題18:監査報告*

ア.特別目的の財務諸表監査の監査報告書の強調事項です。この問題でアだけが簡単でした。

イ.財務諸表全体に対して否定的意見表明・意見不表明であっても、別の監査業務として行った財務諸表項目等の監査で、無限定意見を表明することができます。ウ.では、財務諸表全体に対して意見不表明であるなら、個別の財務表に対して無限定意見を表明できないとされ、この関係性が判断しづらいです。

個別の財務表や財務諸表項目等への監査は、受験上対策していない場合も多いと思います。なので、できなくて問題なしです。

問題19:比較情報の監査**

ア.前年度の財務諸表が監査されていない場合の追記は、その他の事項区分です。

エ.前任監査人が以前に無限定意見を表明+重要な虚偽表示が存在の場合は、三者での協議を求めます。

比較情報の監査は場合分けして対策していると思います。

問題20:「監査における不正リスク対応基準」***

ア.四半期レビューは「不正リスク対応基準」の適用外です。

エ.追加的な監査手続を実施してもなお、不正リスクに関連する十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合にも、不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断します。

頻出論点からの出題ですから正答できると思います。


以上です。