令和3年度公認会計士短答式試験~講評~監査論

5月23日に令和3年度短答式試験が実施されました。コロナ禍の影響により例年なら2回実施される短答式試験が1回のみの実施となり、合格ラインは依然不透明です。試験自体の難易度は、管理会計論を除き易しめで、受講生の方々が報告してくださる得点は7割越え続出です。例年通りの合格偏差値であれば、この1回の短答式試験で2回分の合格者が…と期待が膨らみます。

では、各科目について順次、講評していきます。今回は監査論です。詳細な解答・解説は本試験-解答解説ページからご覧ください。


今回の監査論は全体として例年より若干易しめでした。出題分野としては、主体論が多く報告論が少なめで、他の分野は概ね例年通りでした。報告論が少なめなのは、監査基準の改訂が短期間で何度も、かつ文言の入れ替えもあったため回避されたのかなと感じます。一応、想定合格ラインは公表していますが、短答式試験が2回実施ならこれくらい欲しい、という得点なので、実際にはもっと低い得点でも十分合格可能性はあると考えてください。

問題1:財務諸表監査***

4つの記述の全ての正誤が明らかです。ウ.では「監査証拠が多いと多くのアサーションを裏付けられる」という点が誤りですが、「監査証拠の量は質を必ずしも補完しない」から誤りと判定しても、結果オーライです。

問題2:財務諸表監査***

4つの記述の全ての正誤が明らかです。イ.の「倫理規則の設定主体が日本公認会計士協会」というところで迷われた方も、他の3記述で正答できたはずです。

問題3:公認会計士法*

解答速報でも意見が分かれている問題です。ア.の記述は公認会計士法第1条の公認会計士の使命の条文をアレンジしたものですが、条文は「財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保すること(監査証明業務)により」となっているのに、記述では「監査証明業務及び被監査証明業務を通じて」とあるので、この点で誤りと判断できます。

しかし、イ.が、共同監査実施時に例外的に単独監査が認められる状況の列記が不十分であることから誤り、ウ.が、故意の虚偽表明の行政処分の説明が業務停止・登録抹消と課徴金を並列的に扱っていることから誤り、となっています。

これでは答えが選択肢にないので、ア.を正しいとするか、イ.を正しいとするか…ということで解答速報で意見が分かれてしまっています。受験上、没問です。

問題4:金商法監査制度***

最近の監査基準の改訂を意識した問題になっています。イ.が平成30年改訂論点のKAMが金商法の開示会社であること、ウ.が平成30年改訂で監査報告書の記載区分等の変更に伴い追加された監査役等の責任について、でした。イ.の(  )部分が細かい内容で迷ったかも知れませんが、他の3つの記述で正答できたと思います。

問題5:会社法監査制度*

会計監査人関連の問題です。ア.のみなし再任に定款の定めが必要か否かまでは確認してなかったとしても仕方ないでしょう。イ.の監査対象計算書類の範囲は正誤判断できるように準備してあったはずです。ウ.は「会計監査人の監査の方法・結果が相当でないと認めたとき」に監査役等の監査報告に意見を付す場面についてですが、報告要件として確認していても、意見を付した場合のその後までは確認できていないかな、と思いました。エ.の会社法監査のスケジュールは対策済みかと思いますが、細かい内容なので**としました。

全体として細かい内容が問われているので、正答できなくても仕方ない問題だと思います。

問題6:四半期レビュー***

4つの記述の全ての正誤が明らかです。

問題7:内部統制監査***

内部統制監査は報告面を問われることが多いですが、今回は実施面中心でした。ア.イ.の財務諸表監査との関係は頻出論点として対策済みかと思います。ウ.も既出の論点として過去問分析できているなら正誤判断がつきます。エ.の内部統制の不備を発見したときの対応は、内部統制基準の中で若干矛盾があるのですが、内部統制構築段階での監査人の指導機能の発揮は論文対策でも重要論点ですし、ここで正誤判断できたと思います。

問題8:内部統制監査***

問題7よりは難しかったと思います。ア.の評価範囲の決定は細かい規定も多く厄介ですが、この記述自体は至極まっとうな内容なので、知識の有無以前の問題として正しいとできたのではないでしょうか。イ.のように「自らサンプルを選択しない」では監査にならないので誤りです。ウ.の内部統制の不備が複数ある場合に、影響額を合算して金額的重要性を判断するというのは、財務諸表監査の虚偽表示の金額的重要性の判断と同様に考えることができます。エ.は期末日後の是正措置の報告面での対応についてですから、対策済みと思います。

問題9:品質管理**

ア.の独立性保持のための確認書の入手は、頻出論点なので正誤判断できたはずです。イ.は細かい内容なのですし、関与先の誠実性の検討に同業他社にまで質問するかは判断しがたいと思います。ウ.は審査担当者との業務実施中の意見交換についてです。確かに審査担当者の客観性は重要ですが、監査の品質管理のシステムとして審査があることを考えると業務実施中に専門的な問い合わせをして同意を得ることに問題はないだろうと判断できます。エ.は監査事務所内で品質管理体制を改善するにあたって、どの被監査会社(どの監査責任者のクライアント)の監査で発見された不備かを情報共有するかという問題です。

内容が細かい記述が多く、正答は案外難しいと思います。

問題10:保証業務**

ア.はたとえダイレクトレポーティングであっても、監査人が主題それ自体に責任を負うことはない、例えばダイレクトレポーティングの内部統制監査であっても、内部統制の有効性自体には責任を負わず、有効であるとの評価結果の信頼性についての保証を行う責任を負う、という典型論点です。イ.保証報告書に主題の性格を記載することは知識としてあった思います。ウ.「規準」は会計基準のことで、「保証業務リスク」は監査リスクのこと、というように財務諸表監査に置き換えてみると、会計基準の適合性が監査リスクの水準に影響を受けるという記述は誤りと判断できるでしょう。エ.レビューのような限定的保証業務であっても、十分に有意な保証水準を得る必要があります。

問題11:監査人の独立性***

ア.エ.の正しさが明らかなので楽に正答できた問題です。イ.の公正不偏の態度の保持は精神的独立性ですから、監査環境によらずその保持が絶対的に求められるという知識から「保持する局面が変更した」との記述が誤りと気付けたと思います。ウ.は実は引っかけ問題で、確かに、外観的独立性について、公認会計士法により独立の立場を損なう利害を規制し、倫理規則で独立の立場に疑いを招く外観を規制していますが、倫理規則で精神的独立性の保持について規定がないわけではないので誤りとなります。

問題12:職業的懐疑心***

4つの記述の全ての正誤が明らかです。

問題13:守秘義務***

4つの記述の全ての正誤が明らかです。

問題14:監査リスク***

4つの記述の全ての正誤が明らかです。イ.の固有リスクと統制リスクの記述は、令和2年の監査基準の改訂を意識した内容になっています。今後、リスク評価に係る監基報315号の大幅改訂の本試験適用が控えています。この辺りは丁寧に確認しておく必要がありそうです。

問題15:監査計画**

ア.の監査契約の予備的な活動内容までは覚えてはいなかったかもしれませんが、基本的な方針に含まれる事項を覚えていたなら正誤判断ができました。イ.ウ.は既出論点ですから過去問分析で確認できていると思います。エ.の経営者の予備的な評価等についての協議はリスク評価手続きに含まれているので監査計画にも含まれます。ここで「経営者が予備的な評価を行っていない」ことを過剰に問題視すると迷ってしまったかもしれません。

問題16:監査手続き***

4つの記述の全ての正誤が明らかです。

問題17:経営者確認書***

4つの記述の全ての正誤が明らかです。

問題18:連結財務諸表の監査**

グループ監査として記述を読んでいきます。イ.は個別の財務的重要性があるとして重要な構成単位となった場合は、必ず重要性の基準値に基づいて監査を実施するのですが、特検リスクが含まれる可能性から重要な構成単位となった場合は、必ずとはいえないので誤りになります。細かいです。ウ.では記述中に「のみ」とあり、グループ全体統制や連結プロセスに関する手続きが含まれないので誤りです。ア.エ.の正しさが明らかなので、正答は難しくなかったと思います。

問題19:監査報告***

4つの記述の全ての正誤が明らかです。

問題20:不正リスク対応基準*

記述に含まれる具体例が、不正による重要な虚偽表示を示唆する状況にあたるか、不正リスク要因にあたるか、という監基報の付録の例示記載の内容が含まれていたため、正誤判断がつきにくい問題でした。イ.に至っては、「発揮」でなく「高めて」という些末な違いを指摘されるという難問で、受験上スルーでよい問題でした。

以上です。