令和3年度公認会計士短答式試験~講評~財務会計

2科目の講評は財務会計論です。全体として例年より簡単だった印象です。個別論点問題は、理論が易しめで、さくさく正誤判断できたのではないでしょうか。個別の計算は難易度のバラツキが大きかったため、難問に下手に時間をとられると失敗の原因になってしまいました。総合問題の問題23~28の連結会計は資料も少なく、驚くほど簡単でした。では、以下で問題毎に講評していきます。詳細な解説は解答解説ページからご確認ください。

問題1:理論-包括利益と純利益***

ア.は包括利益の定義そのままですし、ウ.の組替調整についてはその趣旨を理解していれば正しいと判断できたと思います。イ.の評価・換算差額等は純資産項目なので、誤りなのは明らかです。エ.のその他の包括利益の注記事項は細かいので分からなくても仕方ないでしょう。

いずれにしても3記述の正誤が明らかなので正答できたと思います。

問題2:計算-棚卸資産**

非常に簡単な売上総利益の計算です。ただし、災害により被災した商品の評価損が、臨時ではあるものの多額かどうかの判断がつきかねるため、売上原価として良いのか特別損失としてよいかが迷いどころです。しかも、両方の選択肢が用意されている当りが悩ましい。今回は「特別損失」とした選択肢を選びました。

問題3:計算-固定資産***

ア.がこの4つの中で唯一面倒な計算で、資産除去債務をCFの割引計算で求める必要がありますが、時の経過による調整もたった1年分ですし、間違えることはないと思います。イ.は臨時償却費という勘定がある時点で誤りと判断できます。ウ.は「下取価格-時価=値引き」という知識があれば。新車両の取得原価が誤りなのが分かります。エ.も簡単です。

確実に正答したい問題です。

問題4:理論-国際会計基準*

受験上スルーで良い問題です。ア.の会計基準の設定主体が政府の審議会ではないことは気付けたかと思うので、あとは1/3の確率です。

問題5:計算-棚卸資産*

受験上スルーで良い問題です。そのことが問題からも滲み出ているので、迷わず飛ばせたとは思います。

収益性の低下に関する正味売却価額の算定データとして、販売見込額と不動産鑑定評価額が与えられていますが、保有資産毎にどちらを選択すべきか指示があったので、この点は迷わず解けたと思います。ゴルフ場用地については、Xはゴルフ会員権を販売する予定の開発なので、棚卸資産にはあたりません。Yは、「進捗度の見積は適正にできないが、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収できると見込まれる」という表現から、「原価回収基準」をひらめいたなら、棚卸資産額は0とできました。

問題6:計算-圧縮記帳***

直接減額方式の圧縮記帳なので、手間はかかるものの計算そのものは簡単です。要領の良い方には得点源でした。

問題7:理論-株主資本等変動計算書***

ア.は、株主資本以外の項目が純額表示が原則であるため誤りです。エ.は、個別株主資本等変動計算書にも注記が必要な事項があるので誤りです。

エ.の注記は連結で注記すると個別の注記は省略できることがほとんどなので、正誤判断が難しいと思いました。ただし、ア~ウの正誤が明らかなので正答できたと思います。

問題8:計算-分配可能額***

調整項目の「のれん等調整額」の計算が簡単でしたから、対策していた方は確実に正答できたと思います。

問題9:理論-会計上の変更等***

全ての正誤判断が容易でした。

問題10:理論-金融商品**

イ.の全部純資産直入と部分純資産直入の選択が有価証券の種類毎に可能というのはちょっと細かいかな、と思いました。ウ.は貸倒引当金のキャッシュ・フロー見積法が貸倒懸念債権に適用される場面でよく接している状況なので誤りと判断できたと思います。ア.エ.の正しさが明らかなので、正答はそんなに難しくない気がします。

問題11:計算-有価証券***

B社株式の前期減損処理後の帳簿価額が取得原価になる点以外は、取得原価と時価を比較するだけの問題でした。非常に簡単です。

問題12:理論-ストック・オプション***

ア.の付与後は公正な評価単価の見直しを行わないのは計算対策の知識としても身についていると思います。イ.は自己株式の処分差額ですからその他資本剰余金です。これら誤りが明らかなので正答は容易かと思います。

問題13:計算-ストック・オプション***

業績条件の達成見込がなくなり権利不確定を原因としてストック・オプション数が0となり、条件変更により業績条件の達成見込が回復してストック・オプション数も回復する問題です。条件変更によりストック・オプション数が回復したときから対象勤務期間がスタートしたように計算すればよいことになります。設例として対策していれば解けたはずです。

問題14:計算-リース取引*

適用利子率を推定する必要がある点で、資料の与えられ方が珍しいタイプの問題でした。計算の構造として「リース資産・債務の金額がリース料総額の割引価値になる利子率」という知識から、選択肢の3~5%で試しに計算してみれば4%が当てはまります。

さらに、中途解約もあるので、リース資産の未償却残高を除去損に、リース債務残高と違約金との差額を解約損にして、その合計をリース解約損にします。

中途解約まではフォローできていても、出題の仕方に慣れずに失点してしまいそうです。

問題15:理論-退職給付会計***

ウ.の確定拠出型は要拠出額で費用計上です。エ.の従業員拠出が勤務費用から控除なのは計算対策の知識で判断できます。

全ての正誤判断が容易でした。

問題16:計算-収益認識**

セット販売時に別個の履行義務とした場合には独立販売価格でセット販売価格を配分するという問題でした。工作機械の販売時のメンテナンスサービスが、「合意された仕様に従って機能するという保証に加えて」サービスを提供するとあるので、別個の履行義務と判断します。次にセット販売時に値引きがあるので、独立販売価格の比(98,000:27,000)でセット販売価格100,000を配分します。あとは、メンテナンスサービスは時の経過に伴い履行義務が充足されるとして収益認識していく、という段取りです。

適用指針の設例そのままではないですが、類題は解いてきているはずなので解けた方も案外多いのではないでしょうか。

問題17:計算-ソフトウェア***

自社利用目的のソフトウェアですので、「将来の費用削減が確実」との指示から、購入費(ソフトウェア仮勘定)と自社仕様への変更費を資産計上して償却するだけです。

問題18:計算-固定資産の減損**

この問題は、割引率として税引前WACC5%を用いるところを税引後WACC3%を用いてしまうと間違えてしまいます。割引率の論点としては見積りから乖離するリスクの扱いの方が注目されがちなので、ここは見落としがちな論点です。

問題19:理論-連結財務諸表***

全ての正誤判断が容易でした。

問題20:理論-セグメント情報**

ア.収益を得ていない部門は報告対象になりません。イ.の10%基準は計算対策としても覚えていたのではないでしょうか。

問題21:計算-連結税効果*

未実現利益の税効果では、例外的に繰延法が採用されているので、販売側の実際の課税額を限度として税効果を認識します。ポイントは①未実現利益を含む棚卸資産を保有する側でなく販売側の税率を用いること、②将来ではなく実際に未実現利益に課税された税率を用いること、③実際の課税額が限度となるので一時差異となるのは未実現利益のうち所得額が上限となる、の3点です。①②までは過去問もあるので気付けても、③までは気付けなかったかも知れないですね。

問題22:理論-企業結合・事業分離**

ア.の条件付取得対価のある場合では、のれんの追加認識分は企業結合時に認識していたとして過年度償却費はその期の損益になります。ウ.は、受取対価に現金等と株式の両方が含まれる処理なので、分からなくて良い記述です。受験上は、現金等だけの場合と株式等だけの場合を確認しておけば理論対策としては十分とのスタンスです。

イ.とエ.の正しさは対策しているところかと思うのでなんとか正答できたと思います。

問題23~問題28:総合問題-連結***

在外子会社の資本連結についての出題でした。成果連結も税効果もない問題でしたが、資料の少なさの割に、換算があるので計算量も一定のボリュームがありますし、為替換算調整勘定の計算も普段からの努力があってこそ正答できる内容です。
これくらいの難易度で、6カ所中5カ所程度を正答できるかで実力を測ろうとする本問は、「論文式試験との差別化できている良問」という印象です。今後、こういう方向にシフトしていく可能性もあるかもしれません。