第159回日商簿記1級 講評~商業簿記・会計学

商業簿記

在外支店との本支店会計が出題されました。本店でも外貨建取引が多く、外貨換算会計を余程しっかり学習できていないと難しかったのではないでしょうか。

手順としては、(1)まず先に未達を整理してから在外支店の外貨ベースでの決算整理を行い、(2)外貨建財務諸表項目を円換算していきます。在外支店の財務諸表項目の換算は、本店の外貨建財務諸表項目と同じ換算基準を選択する本国主義が採用されています。

基本的な考え方として、貨幣項目はCR換算、非貨幣項目はHR換算、属性の一致の観点から時価評価項目はCR換算、取得原価評価項目はHR換算、となっています。

(3)次に本店の決算整理です。

  1. まず、売掛金と貸付金に為替予約が付されています。貸付金の為替予約は振当処理採用し、直先差額の期間配分は月割で行うことが指示されています。このため、直々差額(@110-@112)×500千$は為替差損益とし、直先差額(@113-@110)×500千$は1/3を為替差損益とし2/3を前受収益とすれば良いと判断できます。しかし、売掛金の為替予約は振当処理とだけ指示され、貸付金のような換算差額の配分に係る指示がありません。このため、非資金取引の容認として「借)売掛金 @113×400千$ 貸)売上高@113×400千$」の仕訳とすべきが未処理(?)と読み取らせたかったのかな、と推定されます。つまり問題文の「すでに為替予約してあるが未処理」を「取引発生前に為替予約してあるが取引日レートで処理」と読み取るわけです。ちょっと苦しいですね。このため、取引発生後に売掛金だけ予約レートで換算替えして換算差額はすべて為替差損益とする別解が各専門学校からも指摘されています。
  2. 次に外貨建有価証券の円換算です。前T/Bの推定で2箇所、問2で2箇所(為替差損益と投資有価証券評価損)、問3でも2箇所と解答箇所が多い今回の試験の重要論点でした。①その他有価証券の期末時価評価は翌期首洗替のため、前T/BはHR×HCで算定できます。当期末のCR換算差額はA株式は純資産直入ですが、C株式は減損処理になっています。②取得原価または償却原価評価の満期保有目的債券は、属性の一致の観点からはHR換算ですが、金銭債権との類似性からCR換算です。定額法の償却原価法を適用してからCR換算ですから、5千$×AR@114を有価証券利息とし、残りの換算差額が為替差損益になります。
  3. 有形固定資産は200%定率法の備品だけ少し難しかったでしょうか。償却率0.25から耐用年数8年、改訂償却率0.334から最終3年より前は保証率を超えると分かるので、前期まで3年償却済みの備品は0.25で償却すれば良いと判断できます。
  4. 退職給付会計では、仮払の年金を退職給付引当金から取崩し、退職給付費用を計上するだけです。「退職給付費用73,500=利息費用1,300,000×2%-期待運用収益1,100,000×2.5%+勤務費用84,000+未認識数理計算上の差異の費用処理(110,000-200,000)×1/10年」では、数理計算上の差異の加減算を逆にしないように注意します。前T/Bは「退職給付引当金250,000=期首退職給付債務1,300,000-年金資産1,100,000 -未認識数理計算上の差異110,000+200,000×8/10」で求まります。できればこれの期末バージョンで求めた退職給付引当金と、仕訳で求めた残高との一致で検算したいですね。

会計学が軽めで時間が掛からない出題内容だったため、その分商業簿記にしっかり時間を掛ける気で取り組めたか、外貨建財務諸表項目の換算ルールが頭に入っていたか、ポイントであったと思います。

会計学

今回の会計学も、前回と同様に理論多めの出題でした。第1問の理論(正誤判定)は、分かる分からないは別として所要時間は多くて10分、第2問の計算も20分あれば、というところですから、会計学はさっさと済ませて難しかった商業簿記に時間を割けたら良かったですね。以下、個別に解説していきます。

第1問:理論(正誤問題)

  1. ア. 償却原価法(利息法)では、社債の償却原価(帳簿価額)に実効利子率を乗じて社債利息が計算されるので、割引発行の場合は満期に向けて償却原価が徐々に額面に近づいて行くにつれ社債利息は大きくなっていきます。イ. 新株予約権は純資産の部の株主資本以外の項目です。ウ. ファイナンス・リースでは、リース料総額の割引価値でリース資産が計上されることがあり、割引料が高い=リース資産が小さい=減価償却費の合計が小さい、となります。
  2. . 支配の喪失を伴わない子会社株式の一部売却に伴う差額は資本剰余金とされます。ウ. 複数の事業セグメントを集約して報告セグメントとできます。エ. 報告セグメントの負債額は最高経営意思決定機関に定期的に報告されている場合に注記対象となります。
  3. ア. 固定資産の減損損失は特別損失ですから営業利益には影響しません。イ. 負ののれん発生益は特別利益ですから経常利益に影響しません。エ. その他有価証券売却益は、包括利益計算書の組替調整によってその他の包括利益のマイナス項目となるため包括利益は小さくなります。
  4. . 金商法上の個別財務諸表に株主資本等変動計算書は含まれます。ウ. 連結財務諸表では損益計算書と包括利益計算書について、1計算書方式と2計算書方式が選択適用とされています。エ. 四半期財務諸表において損益計算書の開示対象は期首からの累計期間とされ、四半期会計期間は任意となっています。

第2問:計算中心の空欄補充

  1. ソフトウェアの減価償却の問題です。X2年度(1年目)は販売数量基準で減価償却費22,500(=48,000×1,500個/3,200個)です。X3年度(2年目)は販売量基準の減価償却費8,500(=25,500×400個/1,200個)よりも残存期間の均等額12,750(=25,500×1/2年)の方が大きいので、こちらを採用します。
  2. 分配可能額の計算は、会社法のルールを覚えていないと解けません。①まず分配時剰余金319,000(=その他資本剰余金30,000+繰越利益剰余金289,000)の計算、②次にのれん等金額270,000(=のれん540,000×1/2+繰延資産0)と資本等金額245,000(=資本金200,000+準備金30,000+15,000)を比較して、超過額25,000を計算、③さらにのれんの1/2の270,000と資本等金額245,000+その他資本剰余金30,000の合計275,000の比較、これで分配可能額294,000(=①319,000-②25,000)が求まります。次に、分配時の準備金の積立ですが、資本金の1/4まで残り5,000であることから、分配額の1/10を積立る必要がありません。分配原資の割合(20,000:60,000)で、資本準備金を1,250、利益準備金を3,750だけ積み立てることになります。時間の掛かる分配可能額を捨てたとしても4つの空欄の内3つは埋まるので、他の問題との兼ね合いで解くかどうか判断しても良かったとは思います。
  3. いわゆる「共同新設分割」のケースです。P社とQ社の持分比率がそれぞれ30%と70%なので、Q社が取得企業です。P社は移転した事業の対価としてR社株式を受け取り、R社を新たに持分法適用会社とします。この場合、P社によるP事業への投資は継続していると考え、移転損益は認識しません。従って、P社では、R社株式を事業分離前のP事業帳簿価額 100,000千円とします。同様に、Q社においてもQ事業への投資は継続していると考え、移転損益は認識せず、R社株式をQ事業帳簿価額 200,000千円とします。
    次に、R社側の処理ですが、親会社からのQ事業はQ社の帳簿価額 200,000千円で受け入れて同額を株主資本とするのに対し、通常取得となるP事業は時価110,000千円で受け入れるとともに、対価として発行したR社株式時価120,000千円を株主資本とするため、貸借差額 10,000千円(=120,000-110,000)が個別会計上の「のれん」となります。
    最後に、Q社が作成する連結貸借対照表について検討します。連結上の「のれん」は、個別会計上の「のれん」10,000千円のままとすることも容認されており、この場合の非支配株主持分は、R社の株主資本が320,000千円(=200,000+120,000)なので、96,000千円(=320,000×30%)と計算されます。しかし、指示がなければ原則的な処理を行うのが受験上の鉄則ですから、個別会計上の「のれん」10,000千円の30%を非支配株主持分と相殺して、「のれん」は 7,000千円(=10,000-10,000×30%)、非支配株主持分は 93,000千円(=96,000-10,000×30%)とします。
    この点について指示が出ていなかったということは、別解が存在することに作問者が気づいていなかったのかも知れないですし、(サ)と(シ)は難しいので、できていなくても問題ありません。
    以上です。