第71回税理士試験 講評~財務諸表論

第71回の財務諸表論は、例年より理論の記述が少ない、計算も比較的容易、という解きやすい内容であった印象です。以下、個別に講評していきます。

第1問

空欄補充や記号選択の問題は総じて容易で、十分に正答できたはずです。記述問題も典型論点として対策済みだったのではないでしょうか。

問1:概念フレームワーク

概念フレームワークから「財務諸表の構成要素」の認識についての理論問題です。「収益認識基準」を意識したものですが、選択問題なので正答できたはずです。

問2:会計上の見積り

(1)の空欄補充は、本文を思い出せずとも前後の文脈で「不確実性」と記述できたと思います。(2)については、経営者の企業価値の予測に投資家の情報ニーズはあるが、財務報告はあくまでも事実の開示である、との重要論点を思い出せれば選択できたはずです。(3)は「翌年度の財務諸表に」重要な影響を及ぼすリスクがある項目をヒントに、B/S項目の資産・負債が選べると良いですね。

問3:引当金

引当金は頻出論点なので、十分に対策されていたと思います。(1)の引当金の定義の空欄補充は出来たはずです。(2)(3)の引当金の負債性については、記述対策として答案も用意しておいたであろう内容ですから、得点源に出来たと思います。

問4:減損会計

(1)の減損認識の判定については、「割引前」将来キャッシュ・フローは計算問題でも頻繁に目にする用語なので間違えようがないですね。(2)の将来キャッシュ・フローの予測も、事業用資産の収益性の低下が市場価格とは無関係であることから判断できたと思います。

(3)の回収可能価額の選択も典型論点ですが、一言「経済的合理性」で済む内容を3行分に広げるために、事業用資産の投資の回収形態に言及する必要があります。(4)の減損損失認識の必要性については、「資産評価の考え方に留意して」とあるので、投資の回収可能性を反映した評価とする、過大な帳簿価額を減額する、といった評価面を強調する必要があります。将来に損失を繰り延べない、だけでは不十分です。

第2問

問1の企業会計原則は手薄な方が多い気がしますが、難易度的には易しいものなので、見直してみたら割と正答してたのではないでしょうか。問2は理論はパスでもいいかもしれませんね。

問1:企業会計原則-認識・測定・表示

(1)の企業会計原則本文を読み込んでなくとも損益計算書原則ですから、収益・費用は埋められたと思います。(2)(3)の当期業績主義や合致(一致)の原則についても、一応は伝統的論点として対策されているとは思います。空欄補充も記号選択ならば、前後の文脈で正しく埋められてのではないでしょうか。(4)の売上原価の対応原則は「成果たる収益と犠牲となった費用の対応」、利息の時間基準は「時の経過に応じてサービスの提供」といった内容が書けていれば十分です。

問2:為替予約

(1)(2)の為替予約の「独立処理」と「振当処理」の計算問題は、設定もシンプルなので難なく解けたと思います。

(3)(4)は、おそらく答案の用意がなかったのではないでしょうか。問1の合致(一致)の原則から派生してきている訳ですが、それでも書きにくいですね。(4)は数値を追って説明すれば合致(一致)の原則が成立している説明にはなるので、こちらはある程度は、、といった印象です。やはりここはパスして簡単な第3問に進むが勝ちでした。

第3問

いつも通りの総合問題です。s/sと注記の空欄補充まであり、第1問と第2問で時間を節約して第3問に臨む、という時間配分の巧拙が得点に響きそうです。

  1. 現金預金に関する事項は、目立った論点はありませんでした。
  2. 貸倒引当金は、一般債権の貸倒実績率の算定の指示が丁寧ですし、貸倒懸念債権も破産更生債権等と同様に財務内容評価法で簡単でした。簿記論にも出題されていたゴルフ会員権は、預託金と時価の2段構えで処理する必要があり難しかったでしょう。
  3. 有価証券は外貨建て満期保有目的債券に償却原価法(定額法)が適用されています。為替レートの選択(有価証券利息はAR、残高はCR)に注意すれば良いだけのようです。子会社株式は株式交換取引ですが、指示が丁寧なので時価で等価交換とさえ判断できれば問題なしです。
  4. 自己株式のようにs/sでも問われている数値は、処理する都度、記入していくと効率的ですね。
  5. 有形固定資産では、減損処理において使用価値の割引計算だけ丁寧に計算すれば正答できます。
  6. 社債は償却原価法(利息法)が採用されていますが、前T/Bの償却原価に実効利子率を乗じるだけです。
  7. 退職給付引当金は、未認識数理計算上の差異の費用化が定率法になっている点に注意が必要です。
  8. 諸税金も例年通りの出題形式です。

今回の第3問はどの項目もシンプルな設定で、複雑な処理も見受けられませんでした。集計が面倒な税効果会計を除いて、計算の速い受験生ならほとんどの数値を埋めることが出来たのではないでしょうか。

以上です。