令和4年度第1回公認会計士短答式試験講評~財務会計論

今回の財務会計論は例年よりずいぶん易しく、財務会計論を得意科目としている受験生泣かせの差のつきにくい出題でした。反動で5月実施の第2回が不必要に難化しないかと心配です。以下、問題ごとに講評していきます。

問題1:会計公準***

ア. 会計公準は企業環境の分析から演繹的に導出されたものではありません。

イ. 連結財務諸表は企業集団という経済的実態を会計単位としているように、会計単位=法的実体とは限りません。

ウエ.貨幣的評価の公準、会計期間の公準の正しい説明です。

イウエの記述の正誤が明らかで、正答は容易だったでしょう。

問題2:企業会計制度***

イ. 連結キャッシュフロー計算書は計算書類等に含まれません。

ウ. 四半期財務諸表の提出期限は、四半期末より45日以内です。

どちらも頻出論点ですので、正誤判断できたと思います。

問題3:現金過不足***

未処理の事象と処理済みの事象が混在していること、小切手の処理として期をまたぐ振出日のものがあることに注意して集計すれば正答できたと思います。

問題4:本社工場会計*

本社では、購入した材料に20%の利益を上乗せして工場に販売し、工場ではこれに加工作業を施し、完成した製品に10%の利益を上乗せして本社に販売しています。本社ではこの完成品を外部に販売しており、本問は、本社工場会計を適用して、売上総利益を算定する問題です。
本社工場会計は入門でしか学習しませんが、他の専門学校でも上級講義で取り扱っていなかったようで、正答可能性の低い問題と位置づけています。
ただ、解答速報P7の解説を見ると、すごくシンプルなボックス図4つで計算が完結しています。材料勘定、仕掛品勘定、製品勘定、P/Lの4つで、期首期末の在庫金額を内部利益控除後の金額で計算してボックス図を作成しているだけで、構造はすごく簡単です。
次に出題されたときは、解けるように、解答速報P7を利用して、克服しておきましょう。

問題5:有形固定資産**

機械Aの減価償却は200%定率法が採用されていますが、償却率の算定方法が指示されているのでここでつまずくことはなかったと思います。注1)後半の説明が少し分かりにくいですが、200%定率法ですから保証率の説明と気づけたと思います。

機械Bは残存価額の見直しと耐用年数の短縮がありました。会計上の見積りの変更とされているので、将来にのみ影響させるため、未償却の要償却額(残存価額が10%から5%になったことを忘れずに)を残存耐用年数で償却します。

機械Cは修繕のための支出に資本的支出が含まれています。ありがたいことに支出が期末なので当期の償却計算には考慮せずにすみました。

土地は同一種類・同一用途の交換ですから帳簿価額で引き継ぎます。ただし、時価の差額を現金で精算している部分については、取得原価に加算します。

問題6:繰延資産**

株式交付費のうち繰延資産とできるのは、支出の効果が将来に及ぶと考えられる資金調達目的の株式交付時だけです。よって株式分割時の株式交付費は資産計上できません。

社債発行費については償却の指示もあるので問題なく処理できたと思います。

繰延資産となり得る開発費と研究開発費の開発費を分けて覚えておく必要があります。「新経営組織の採用に係る」とあるので、繰延資産とできます。また、経常的な支出は資産計上できません。

手薄になりがちな繰延資産ということで**としましたが、難易度的には***の問題です。

問題7:社債***

アイ. 償却原価法については、計算問題としても頻出なので迷わず正誤判断できたでしょう。

ウ. 途中償還時の社債発行費未償却残高は、支出の効果をなくし資産計上の根拠を失うため償還時に償却します。

エ. 社債が満期まで1年内となったときには1年基準により流動項目となります。

問題8:引当金***

債務保証損失引当金も賞与引当金も、資料にある将来の費用・損失を引当金として設定するだけです。製品保証引当金は、当期の製品売上に対する保証費用1,600,000の扱いが迷いそうですが、売上の1.2%の中から保証を要した分として扱います。

工事損失引当金は、将来の工事損失を見越計上するものなので、総損失から当期の損失を控除することを忘れないようにしましょう。

問題9:会計上の変更等***

遡及適用と修正再表示の期首利益剰余金への累積的影響額が問われました。

商品の払出仮定の変更(総平均法から先入先出法)の累積的影響は、期首棚卸資産に現れてきます。これが期首利益剰余金の増減どちらになるかだけ注意してあげます。

減価償却方法の変更は遡及適応がありません。

修正再表示は過去の償却不足額が累積的影響額となります。

ここは、受験生にとって手薄な論点だと思います。計算手続き自体はとても簡単なのですが、仕組みを理解していないと正答できないので、正答率は案外低いかもしれませんね。

問題10:財務諸表の注記***

ア. 期中平均株式数の算定にあたり自己株式数を控除します。計算の知識で対応できました。

イ. 継続企業の前提に関する注記は、期末時点で重要な不確実性が認められるかを評価します。

ウ. 後発事象には、注記を要する開示後発事象だけでなく、財務諸表の修正が必要な修正後発事象があります。

エの知識がなくとも、アイウの正誤が明らかなので正答できたと思います。

問題11:転換社債型新株予約権付社債***

発行時に区分法によって処理しているので、社債部分について償却原価法を適用します。償却原価法に利息法を採用してはいますが、券面利子率が0%なので実効利子率で社債簿価を増額していけばよいだけです。

問題12:金融商品**

ア. 変動利付債は金利変動が債券価格に影響しますが、額面償還を予定するなら時価の変動は債権価値と関係しないので、満期保有目的とできます。

イ. 満期保有目的とするためには、その意思と能力が必要であり、満期保有目的債券を売買目的に振替えた場合には能力に問題があるとされ、満期保有目的債券を有せなくなります。

ウ. 「時価の算定に関する会計基準」の公表により、債券については何らかの方式で時価が算定可能であるとし、時価を把握することがきわめて困難な債券は理論上存在しないことになりました。

エ. 債券の現先取引は、経済的実態が債券を担保とした金銭貸借であることから、債券の支配の移転はなく資産の消滅の認識は行われません。

問題13:ファイナンス・リース**

所有権移転ファイナンス・リースですが、貸し手のリース物件購入価額等が不明なため、リース料総額のPVと借り手の現金購入価額等とを比較してリース資産・リース債務を求める必要があります。

また、リース料の支払日が決算日と異なるため、減価償却費と後払いする支払利息の経過利息を月割計算する必要があります。しかしこれは、①1年内返済リース債務の計算上は気にしなくても大丈夫でした。

今回の計算問題の中では手間のかかる方の問題なので、場合によっては後回しでもよかったでしょう。

問題14:退職給付会計***

標準的な退職給付会計の問題です。年金資産の掛け金拠出に従業員拠出があるので、これを勤務費用から忘れずに控除しておきます。過去勤務費用も数理計算上の差異も発生年度から費用処理なので、当期末の数理計算上の差異の発生額も算定しておく必要があります。

退職給付引当金は、「期首残高に仕訳を加減算した額」と「退職給付に係る負債に未認識項目を加減算した額」が一致するかで検算するようにしましょう。

問題15:収益認識**

セット販売による値引きの問題です。

ケース1)セット販売をさらに組み合わせたときに追加的に値引きされているか検討する、ケース2)販売価格に幅のあるFについて独立販売価格を差額で求める(残余アプローチ)、という一手間が必要です。

計算手続き自体は簡単ですし、こうせざるを得ない面もありますが、案外解きにくかったと思います。

問題16:収益認識基準***

ア. 収益の認識時点の規定そのものです。

イ. 原価回収基準は新しい収益認識基準で、発生費用を回収できる見込みである場合に認められます。

ウ. 契約に含まれる重要な金融的要素は、割賦売掛金に含まれる金利を想定できます。この場合、現金販売価格で収益認識することになりますが、リース取引の貸し手と同様に考えるとわかりやすいと思います。

エ. 受け取る対価のうち権利を得ると見込まない額で算定される返金負債は、毎期末に「見込まない額」の見直しを行います。

アイウは、収益認識基準を学習し始めるときに「まずはここから覚えましょう」という内容ですから、ここは正誤判断できたと思います。

問題17:税効果会計**

賞与引当金、退職給付引当金は、引当金の額が将来減算一時差異になります。

課税所得の50%相当の控除限度額よりも繰越欠損金が少ないので、全額を将来減算一時差異とできます。このため、控除限度額の検討を忘れたとしても正答できてしまいました。

問題18:減損会計*

ア. 減損の兆候となる損益の状況について、損益の原価性の有無は問題になりません。投資の収益性の低下の有無、営業活動から生じる損益、と考えると特別損失は除きたくなりますが、営業上の取引に関係して生じた特別損失ならば含めるべきとされます。

イ. 回収可能価額の説明です。

ウ. 共用資産の帳簿価額を配分した上で減損処理を行う容認の処理では、減損損失を共用資産に優先的に配分することはしません。

エ. 減損処理後の帳簿価額=時価とは考えません。

イウは計算の知識で対応できますが、アエの正誤判断が難しいので正答できなくても仕方ない問題だと思います。

問題19:研究開発費***

ア. 研究開発費には、人件費を含む研究開発目的に費消されたすべての原価が含まれます。計算問題でも人件費を含めた計算をしていますね。

イ. 財務会計論では製造費用とすることは稀ですが、研究開発費は一般管理費か当期製造費用になります。

ウ. 専ら研究開発目的のみに使用される機械装置は資産計上されず研究開発費として費用処理されます。

エ. 研究開発活動の途中段階の成果は、分離して譲渡可能であれば識別可能な資産として扱われます。こうした成果も企業結合の対価の算定に考慮されているはずだからです。

問題20:四半期財務諸表**

ア. 四半期財務諸表の簡便な処理に棚卸資産の評価方法の変更は含まれません。

イ. 棚卸資産の減損処理後の切放法と洗替法の選択において、年度財務諸表で切放法を採用していても四半期財務諸表では洗替法を採用できます。いちいち洗替るのは面倒そうですが、減損処理しなかったことにすると思えば簡便な処理と思えませんか。

ウ. なぜ、会計期間の途中で会計方針の変更をする必要があったのか、説明が求められています。

エ. 前年度末の繰延税金資産の回収可能性の判断を利用するには、繰延税金資産に関わる大幅変動がないことも要件となります。

問題21:為替換算調整勘定***

のれんからは為替換算調整勘定の金額が生じないため、子会社の個別B/Sから生ずる為替換算調整勘定の金額だけを計算すれば良いので、計算量は少なめです。ただ、連結包括利益計算書に計上される為替換算調整勘定の金額が問われているので、X3年度末のB/S残高35,800千円を答えるのではなく、X2年度末のB/S残高△47,200千円からX3年度末のB/S残高35,800千円への増加額83,000千円(=35,800-△47,200)を答える必要がありました。

問題22:株式移転*

株式移転によって純粋持株会社を新設する計算パターンです。講義では、1時間かけて丁寧に説明している論点で、予め準備していないと解けません。逆に、準備していれば容易に解ける計算パターンです。
①子会社株式の金額は、P社個別B/Sに計上されるA社株式とB社株式の簿価合計です。
まず、A社株式の簿価ですが、子会社であるA社の旧株主が親会社であるP社を支配しているので、「A社が取得企業となる逆取得の株式交換の計算パターン」と同じになります。従って、A社株式の簿価は、A社の株主資本簿価2,900,000千円(=資本金1,650,000+利益剰余金1,250,000)となります。
次に、B社株式の簿価です。P社は、旧B社株主からB社株式の現物出資を受け、その見返りにP社株式を発行しているので、P社株式時価×交付株式数をB社株式の価額としたいところです。ところが、純粋持株会社であるP社は設立されたばかりなので、P社株式に時価はありません。そこで、「P社株式時価×交付株式数」に替えて、「取得企業であるA社株式時価×みなし交付株式数」で評価するということでした。これが@100×7,500千株=750,000千円
②株式移転による純粋持株会社を含む連結財務諸表自体の作成は、難しいですが、のれんの算定だけなら難しくありません。
まず、A社を連結するにあたっては、「のれん」は発生しません。取得企業であるA社の資産・負債はA社の簿価で受入れ、A社株式もA社株主資本簿価としているので、投資と資本の相殺消去を行っても、差額は生じないからです。
次に、B社ですが、こちらは、投資と資本の相殺消去によって差額が生じます。B社の資産・負債は、通常の連結会計通りに、時価で評価します。P社のB/Sに計上されているB社株式は750,000千円です。一方、B社の土地には評価差額が30,000千円と識別可能無形資産か20,000千円あるので、評価差額30,000千円+識別可能無形資産20,000千円+資本金350,000千円+利益剰余金250,000千円=650,000千円となり、B社株式750,000千円との差額100,000千円がのれんの金額となります。

問題23~問題28:連結総合問題***

論点は、税効果会計、建物売却(アップ・ストリーム)、S社株式の一部売却の3つです。
土地の時価評価に係る税効果適用仕訳ができれば、問題23の「のれん」が算定できます。また、解答速報P41にある3.(4)「建物売却益に係る3つの連結修正仕訳」ができれば、問題24の「X2年度末の非支配株主持分」と問題25の「利益剰余金」が算定できます。ここまで正答できれば、とりあえず合格ライン到達です。
次に、解答速報P41にある4.(3)「建物減価償却費に係る3つの連結修正仕訳」ができれば、問題27の「繰延税金資産」が算定できます。できれば、ここまで正答したいです。
さらに、解答速報P41にある4.(4)「S社株式売却に係る2つの連結修正仕訳」ができれば、問題26の「X3年度末の非支配株主持分」と問題28の「資本剰余金」が算定できます。ということで、連結会計が得意な受験生は、高得点が狙えそうな問題でした。
タイム・テーブルの書き方は、専門学校によって、また、講師によって様々です。私は、基本的な資本連結だけのタイム・テーブルを作成して、成果連結等は連結修正仕訳を下書きに書くようにしています。タイム・テーブルだけで完結するような解き方に慣れてしまうと、連結修正仕訳を忘れてしまいそうです。解く速度との兼ね合いもありますが、簿記の原点は「仕訳」なので、「仕訳」を大切にしたいと考えています。