令和4年度公認会計士論文式試験講評~監査論
令和4年度の論文式試験は、全体として難しかった印象です。その中で、如何に解きやすい問題を取りこぼさずに得点していけたかが合否の分かれ目だったのではないでしょうか。
まずは監査論について講評していきます。解答例はこちらをご確認ください。
第1問:リスク・アプローチ
第1問は、監査基準のR2年度改訂論点も含め答案を用意していたであろう問題ばかりで構成されており、第2問の難しさを考えると、第1問に注力して得点を稼ぐが吉でした。スペースに余裕があれば積極的に答案に追記していくべきですし、それが可能な内容でした。
問題1:重要な虚偽表示リスク
問1:財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスク
H17年度とR2年度の監査基準の改訂前文を参考に、①財務諸表全体レベルの重要な虚偽表示リスクの性格、すなわち特定のアサーションのみに関連づけられない旨を指摘して、アサーション・レベルのリスク評価では不十分な点、②そのリスクに必要な全般的な対応が求められる点を指摘します。スペースに余裕があれば、全般的な対応の具体例を記述しても加点になると思います。
問2:固有リスクの評価
R2年度の監査基準の改訂前文を参考に、①アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクの評価の重要性が高まった点、②固有リスクの適切な評価が重要な虚偽表示リスクの適切な評価に結びつく点を指摘します。定義し直された固有リスクの評価や特別な検討を必要とするリスクについての記述も加点になるでしょう。
問題2:監査上の重要性
問1:重要性の基準値の決定方法①
一般的な決定方法と指示されているので、「指標×特定の割合」で答案になります。「税引前利益に5%を乗じる」というような例示を加えても良いでしょう。
問2:重要性の基準値の決定方法②
画一的ではない監査人の判断がどのようなものなのかを説明して、それによる利点を理由として指摘します。つまり、被監査会社の業種や状況を考慮する、質的影響も加味するといった監査人の判断があることで、重要な虚偽表示を看過することを回避できると説明します。追加的に、監査計画の設定、ひいては意見表明に問題が生じることを重要性の基準値の観点から説明しても加点になるでしょう。
問題3:統制リスク
問1:統制リスクの評価
統制リスクの評価を内部統制の有効性の評価に結びつけた上で、経営者に内部統制の整備・運用責任がある点、内部統制の構成要素である統制環境の評価に経営者の誠実性・姿勢等への理解が必須な点を指摘します。
問2:運用評価手続き
(1) 内部統制が有効に運用されていると想定する場合と(2) 実証手続きだけでは十分かつ適切な監査証拠が入手できない場合の2通りの答案が考えられます。どちらでも内容が適切であれば得点できる筈なので、各自で選択して問題ありません。いずれにしても、監査リスク・モデルの観点から説明しなければならないので、運用評価手続きによって統制リスク、ひいては重要な虚偽表示リスクを評価し、発見リスクの水準との関係で監査リスクを許容可能な低い水準に抑えられるという論旨で説明していきます。
個人的には、「運用評価手続きを立案し実施しなければならない場合」の説明に答案スペースが多めに用意されているので、手許の法令基準集から抜粋も可能な(2)が記述しやすいと感じましたので、解答例も(2) にしています。
第2問:経営者不正の事例問題
事例問題は、一般的な内容で学習してきた論点に如何に落とし込めるかが鍵になりますが、本問は各問題をどの論点に結びつければ良いかの判断が難しかったですね。もちろん、唯一の解答があるわけではないので、速報の解答例と違うからといって配点が0とは限りません。各自の答案の中で合理的な説明ができているかが重要です。
問題1:四半期レビューの結論の類型
まず、四半期レビューの結論の類型を選ぶにあたって、第三者委員会の調査未了であることが、四半期レビュー範囲の制約になると気づけたかです。その上で、S社CEOの不正な架空発注の金額は重要性がある、と記載されていますから、①重要かつ全体に影響せずで「除外事項を付した限定的結論」か、②重要かつ全体に影響で「結論の不表明」になる、と判断します。
となれば、問題文で要求される二つの仮定が、不正が連結財務諸表全体に影響するかに関わってくる状況と連想し、問題文中の「四半期レビューにおける証拠の入手状況」を「他部門及び他の拠点における類似の行為の有無に関する追加の監査手続き」から得られる証拠の入手状況と読み取っていきます。
そもそも実証手続きが要求されない四半期レビューで、不正の有無に関する証拠など得られるのか、監査と四半期レビューの関係は、訂正有価証券報告書の提出見込みについて四半期レビューではどう扱うのか等と考え出したらアウトです。問題が指定した「四半期レビューの結論の類型」に限定して答案を模索しないとすぐに迷子になる怖い問題ですね。
問題2:訂正有価証券報告書
問1:訂正連結財務諸表の監査業務の受託
監査契約の更新と同様に考えて答案を作成します。品質管理基準の監査契約更新時の考慮事項に加えて、訂正の原因となった不正への対応も必要になります。
問2:第三者委員会の調査結果の利用
第三者委員会は、「内部監査人」あるいは「経営者が利用している専門家」に類する存在と考えて、監基報610号や620号を参考に答案を作成します。第三者委員会の客観性や、業務の理解、結果を利用する場合の留意点や監査人の関与について可能な限り記述します。
問3:訂正監査報告書の記載事項
有価証券報告書の訂正理由が連結財務諸表に注記されているか否かに応じて、強調事項区分かその他に事項区分に、訂正前の監査報告書について記載します。
いずれも問題の状況を読み替えて監基報を利用する必要がある、応用力が問われる難しい問題でした。
以上です。