第161回 日商1級 講評~商業簿記・会計学

6月12日に第161回の日商簿記1級の検定が行われました。商業簿記も会計学も標準的な問題で、特に会計学は例年の出題形式に戻りほっとしました。ただ、連結は、在外子会が出題されたので、ベテラン組が有利でした。為替換算調整勘定の算定方法も含め、在外子会社の連結については丁寧に説明はしていますが、それでも初受験の方はカバーできていなかったのではないでしょうか。以下、各問題について講評していきます。詳しい解答・解説はこちらをご確認ください。

商業簿記

決算整理前残高試算表と決算整理事項等から、T勘定の損益計算書と貸借対照表を作成する問題でした。空欄が多く、どこに配点があるかで結果が大きく影響されそうな点が不安要素です。いくつか難しい処理がちりばめられていて実力差が反映されやすい良問でした。

  1. 商品では、B商品で「収益認識基準」からカスタマー・ロイヤルティ・プログラムが出題されました。対策してなければどうにもできなかったと思います。処理を知っていれば簡単で、指示の通り2月と3月の売上の10%を契約負債として売上高から除き、ポイントが使用された割合に応じて売上に戻していきます。C商品の役務収益・役務原価の振替処理は指示の通りですから問題なくできたでしょう。
  2. 商品保証引当金は、A商品の検収基準による売上の取消しによる影響を忘れずに。
  3. 売上債権の貸倒引当金の設定では、問題文の「売掛金のうち5,000千円は、~貸倒れ(直接減額)として処理した。」という表現が読み取りにくかった印象です。決算整理前の売掛金760,000が、貸倒れ処理前なのか処理後なのか、初見でどちらか判断つきかねました。問題文の「売掛金のうち5,000千円は、」から処理前として解答・解説は公表していますが、「~貸倒れ(直接減額)として処理した。」から処理後とも読み取れますよね?いずれにしても、貸倒れ処理から除かれた担保評価額1,400千円が破産更生債権等になることに注意です。
  4. 投資有価証券では、「売却取引は金融取引として処理する。」という指示が正しく読み取れたかがポイントでした。金融取引とするとは、買戻条件付きで売却した有価証券が実態としては借入の担保になっているという意味です。ここを読み損なうと、期末時価評価も違ってしまい影響大です。
  5. 関係会社株式は実価法で減損処理ですね。
  6. 固定資産は建物が耐用年数の変更がありますが、遡及処理の必要はなく変更後の残存耐用年数で未償却残高を償却するだけです。
  7. 退職給付会計では修正仕訳が必要です。年金の掛金と退職一時金の支払いは退職給付費用ではなく退職給付引当金からマイナスします。正しい退職給付費用を求めるにあたっては、未認識数理計算上の差異の+-に注意です。年金資産の運用損ですから、年金資産にとってマイナス=退職給付引当金にとってプラスの差異です。
  8. 中間配当の準備金の積立は資本金の1/4規定に引っかかることに気づけましたか?
  9. 税効果会計は、その他有価証券の期末時価評価差額の税効果が法人税等調整額に影響しない点に注意して集計します。

会計学

第1問
例年通りの空欄補充問題に戻りました。
第2問
リース取引の貸し手の処理が3通りとも問われました。いずれにしても各期の損益額は同額になるので、要領の良い方は「(各期の)リース料=利息相当+元本相当」を一覧にしてまとめて解答数値を拾うこともできたかも知れませんね。問1.~3.は第1回目のリース料受取時の金額のみで算定できるので、問4.は後回しにして他の問題に移った方が場合によっては効率的でした。
第3問
在外子会社の連結する問題で、F/Sの円換算、土地の評価差額、棚卸資産の未実現利益の調整、税効果会計などが論点でした。
問1: F/Sの円換算については、【解説】で示したように、P/L→S/S→B/Sの順に換算します。
P/L項目については、親子間取引のみ取引時レートで、それ以外は期中平均レートで換算し、貸借差額を「為替差損益」とします。
S/S項目は、P/Lから振り替えられる当期純利益は期中平均レートで、配当は配当時のレートで換算します。利益剰余金は、支配獲得時のレートで換算した後、毎年、当期純利益と配当の円換算額を加減算した累積値となります。
B/S項目のうち、資産負債項目は決算日レートで換算し、資本金は支配獲得時のレート、利益剰余金はS/Sで計算した金額とし、貸借差額がS社個別B/Sの為替換算調整勘定となります。
問1は解答箇所5つのうち、為替換算調整勘定以外の4つは正答しておきたい問題でした。
問2:連結B/S項目については、のれん、非支配株主持分、為替換算調整勘定が問われました。
のれんは、ドル建ての「のれん」を計算し、これを決算日レートで換算します。
非支配株主持分については、成果連結の影響を考慮する必要がある分だけ、少し難しかったかも知れません。アップストリームの未実現利益だけでなく、税効果会計も絡むので、事前にしっかり準備しておかないと解けません。解説にある3つの仕訳を正確にアウトプットできるようにトレーニングしておく必要がありました。
為替換算調整勘定については、「S社純資産分」と「のれん分」を別々に計算してから合算することになります。「のれん分」の為替換算調整勘定は、その全額を連結B/Sに計上するのに対し、「S社純資産分」の為替換算調整勘定は、非支配株主持分に振替えた残額をB/Sに計上する点に留意する必要があります。
問2は、B/S3項目のうち、「のれん」はしっかりと正答しておきたい問題でした。