令和5年度公認会計士論文式試験講評~監査論

今回の論文本試験は、第一問は典型論点ばかりでしたし、第二問の事例問題も監基報から抜粋しやすく、例年に比べて解きやすかった印象です。以下、個別に講評していきます。解答例と解説動画(後日公表)も併せてご活用ください。

第一問

問題1:財務諸表監査の必要性***

監査総論から、財務諸表監査が求められる理由が問われました。監査総論の論点は、配布基準集に収録されない監査基準等の設定前文や改訂前文から出題されることが多いので、キーワードやキーフレーズをどれだけ正確に覚えて準備できていたかが問われた形です。

「利害の対立、重要な影響、複雑性、遠隔性」の4つの条件毎にそれぞれ4行で説明することが求められているので、準備してきたより多くの記述が必要だったのではないでしょうか。「利害の対立」では経営者に対する業績へのプレッシャーが利害対立を生むことや、「重要な影響」では財務諸表の意思決定情報としての重要性、「遠隔性」では地理的・法的な遠隔性の説明、というように膨らませて記述していきます。

また、「利害の対立」があるから「独立の立場」から財務諸表監査が必要、「複雑性」があるから「会計・監査の専門家」による財務諸表監査が必要というように、それぞれの理由と財務諸表監査の必要性の結ぶ、財務諸表監査の特徴にも言及するとなお良いと思います。

問題文に「上場会社に当てはめ」とあるため、利害関係者として不特定多数の投資家を想定することや、社会的制度としての監査が求められる理由を記述できるとよいのですが、4つ全てに織り込めていなくても大きく失点することは無いと思います。

問題2:監査の目的***

問1:「監査の目的」が監査基準の冒頭に位置づけられている理由

平成14年の監査基準改訂前文の「監査の目的」を監査基準上明文化した理由をアレンジして、監査基準の冒頭に位置づけられている理由として記述します。「監査の目的を明確にすることにより、監査基準の枠組みも自ずと決まる」というフレーズさえ、思い浮かべばすんなり答案にできたのではないでしょうか。

問2:適正性と準拠性の意見形成のために監査人が行う判断の異同

意見形成のために監査人が行う判断については監査基準の報告基準にも規定がありますし、平成26年の監査基準改訂前文には適正性と準拠性の異同が明確に説明されています。

会計方針の基準準拠・継続性・実態の適切な反映、表示については表示のルールに準拠までが共通点です。財務諸表が全体として適切に表示されているか否かについての一歩離れて行う評価を行うか否かが相違点です。

相違点は正確に書けても、案外共通点は曖昧だったりしませんか?キーワードで正確に端的に記述しないとスペース的にもれなく書き切るのは厳しい気がします。

問題3:不正リスク対応基準**

問1:不正リスク対応基準か監査基準と別に設定されている理由

不正リスク対応基準の設定前文に記載された内容です。不正リスク対応基準は「上場会社等限定」との知識はあるはずですから、適用対象の違いから説明できたと思います。違いが際立つように「公認会計士監査全てに適用される」監査基準、と書けると良いですね。さらに不正への対応を一括して整理した方が理解しやすい旨まで書けたら完璧です。

問2:不正リスク対応基準と監査基準の関係

こちらも不正リスク対応基準の設定前文に記載された内容ですが、「共に一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成する」ことや「一体として適用される」ことを両者の関係と思えたかどうかですね。

第二問

問題1:特別な検討を必要とするリスク**

問1:アサーションと虚偽表示の内容

アサーションは配布基準集の監基報315から探すことができます。今回の事例は減損処理に関する虚偽表示であることが【資料】から容易に読み取れるので、先に虚偽表示の内容を考えて、それと対応するアサーションを探すというアプローチがとれました。

解答例では、減損不足による製造設備の過大計上を「評価」のアサーションの虚偽表示としてあげています。減損処理は注記対象でもあるので「注記」のアサーションも指摘できますが、こちらは思いつけなかったかもしれませんね。

問2:固有リスク要因

固有リスク要因は配布基準集の監基報315から探すことができますし、重要な虚偽表示リスクになる回収可能価額の見積りは、会計上の見積りの監査でもあるので監基報540から探すこともできます。複雑性、主観性、不確実性、経営者の偏向のそれぞれと関連づけやすいリスク要因を【資料】から探します。求められているのは2つですが、書きやすい組合せで問題なしです。事例問題の解答は唯一ではありません。

問3:特別な検討を必要とするリスクと内部統制

内部統制を考慮すると特別な検討を必要とするリスクとして識別されない理由として、①特別な検討を必要とするリスクは、内部統制が苦手とする「重要な非定型的な事象や判断に依存している事項」に存在することが多いこと、②再定義された特別な検討を必要とするリスクは、固有リスクの重要度で評価されていること、この2つの答案が考えられます。どちらで記述しても良いと思います。

問題2:リスク対応手続**

問1:減損損失の測定に関するリスク対応手続

減損損失の「測定」に対する手続きなので、回収可能価額の基になる将来キャッシュ・フローの見積りに対するリスク対応手続を考えます。会計上の見積りの監査なので監基報540から探すことになります。リスク対応手続といえば、立証目的としての監査要点と確認や閲覧といった監査手法をあげることが多いですが、本問はそれでは説明しにくかったですね。

問2:識別した重要な虚偽表示への対応

減損に係る虚偽表示が重要であることは指摘されているので、そこから先の対応(監査役等への報告と経営者確認書の要請)となります。「識別した虚偽表示」であると認識できれば、比較的容易に監基報450から探すことができます。意見形成までのプロセスとして問われているので、当然、意見に関する除外事項=限定付適正か不適正かの判断についても指摘すべきですね。

以上です。