令和4年公認会計士論文式試験講評~租税法

令和4年8月21日(日)に実施された論文式 租税法の講評です。
例年通り、前半が理論(40点)、後半が計算(60点)という構成です。
計算の解答箇所は昨年60箇所から40箇所に減り、本年も40箇所だったので、来年以降も40箇所ということになりそうです。計算の問題用紙も17ページから13ページに減少しました。昨年も減少し、さらに本年でも資料が減少したので、法人税法の計算で苦手分野を回避すれば、所得税、消費税の計算まで確りと取り組めるようにようになりました。
難易度は昨年と比べ、理論は難化、計算は分量が減り、消費税法が易化しているので、理論と計算合わせて、昨年並みといったところです。そうすると、素点ベースでの合格ボーダーは42点~44点前後になります。

第1問 

問題1:理論(記述問題)

理論:4行×4問
法人税2問、所得税1問、消費税1問
予想配点:@5点×4問

問1は典型論点、、問4は消費税の計算論点なので、正答必須です。あとは、頑張って問2か問3の条文を見つけ出せればアドバンテージが得られます。
問1: 法人間で無償譲渡があった場合の収益の額の法人税法上の取扱い
誰もが知っている頻出論点ですが、「無償による譲渡に係る収益の額」の取扱いが問われているだけなので、受贈側や寄附金にまで言及するか、迷うところです。無償譲渡によって受贈側でも収益を認識すること、譲渡側では収益認識とセットで寄附金を認識すること、また、A社の益金2点、A社寄附金1点、B社受贈益2点の配点と想定して、言及しておきました。
本問の場合、法人税額の計算にあたり、受取配当は収益事業にかかる収益とはされないので、計算の対象外になります。
問2: 法人課税信託における信託財産に帰せられる収益及び費用の法人税法上の取扱い
2021年度に公益法人が出題され、2022年度は法人課税信託が出題されました。大手専門学校の2022年合格目標の理論テキストと理論問題集を確認したところ、法人課税信託についての記載はありませんでした。白紙答案でも大丈夫です。なお、法人課税信託は、受託者を納税義務者として法人税等を課税するもので、受託者が個人であっても、信託財産に係る所得については法人税が課されます。
問3: 資力を喪失した個人PがA社から受けた債務免除の所得税法上の取扱い
思考径路としては、① 法人から受けた一時の経済的利益 → ② 一時所得 → ③ 資力を喪失 → ④ 所得税法は、「泣きっ面に蜂」みたいなことはしない → ⑤ 総収入金額に含めない旨の規定があるはず、といったところでしょうか。あとは、条文を探し出せるかです。
問4: 貸倒れた売掛金に係る消費税の消費税法上の取扱い
消費税法の計算で繰り返し出題されている論点なので、正答できる問題です。

問題2:理論(正誤+記述)

理論:正誤+3行×5問
法人税3問、所得税1問、消費税1問
予想配点:@4点×5問

昨年は①~⑤まで、すべて誤った文章でしたが、本年は⑤が正しい文章でした。②と④は簡単で、①③⑤は結論が見えないと条文を探すのが難しいです。②と④は正答必須で、あと①③⑤の3つのうち1つを正答しておきたい問題でした。
①×: 人格のない社団法人が収益事業を行う場合、法人税の納税義務はない。
マンションの管理組合は、管理費を集めても法人税は課税されませんが、収益事業を行うと課税されます。学校法人や宗教法人の収益事業に法人税が課税されるのと同じです。
②×: 外国子会社C社からの受取配当金に係る外国源泉税の額は、損金の額に算入される。
計算での頻出論点なので、正答が必須です。
③×: 特定譲渡制限株式については、譲渡制限が解除された期の損金の額に算入される。
特定譲渡制限株式の交付について、Rの給与所得とされる時期や、B社の給与とされる時期については、あらかじめ知らなくても、問題文から判明したはずです。事前確定届出書を提出していないことから、損金算入できないことも分かり易い論点です。
④×: 事業用固定資産に係る火災損失の金額は、 雑損控除として総所得金額から控除される。
理論での重要論点なので、正答が必須です。
⑤○: 事業供用資産を事業廃止後も使用した場合、その資産の時価を課税標準に含める。
個人事業者が棚卸資産以外の事業供用資産を家事のために使用した場合は、みなし譲渡の規定が適用さ
れます。従って、自動車甲の時価を課税標準の金額に含めることになります。

第2問 

問題1:法人税法

解答箇所:20箇所
予想配点:30点(1箇所2点の場合は40点)
出題分野:減価償却費(4問)、租税公課(4問)、有価証券(3問)、貸倒引当金(2問)、修正申告(2問)、外国通貨(1問)、棚卸資産(1問)、寄附金(1問)、役員退職慰労金(1問)、欠損金(1問)

基本論点を取りこぼしなく得点しておけば、少なくとも法人税の計算で足を引っ張られることはないはずです。
捨て問の候補としては、資産除去債務絡みの機械装置D、有価証券は目的変更のF社株式、回避する受験生の多い寄附金、資料の複雑な役員退職慰労金の4問で、残りの16箇所のうち、12箇所の正答が目標です。ただ、今回の寄付金は捨てるにはもったいないですが。
租税公課の資料に一部不整合がありますが、本試験ではよくあることなので、スルーできるようにしましょう。

問題2:所得税法

解答箇所:10箇所
予想配点:15点(1箇所1点の場合は10点)
出題分野:退職所得(1問)、事業所得(2問)、給与所得(1問)、一時所得(1問)、雑所得(1問)、扶養控除(1問)、雑損控除(1問)、生命保険料控除(1問)、所得金額(1問)

退職所得については、甲社の従業員と甲社の子会社役員を兼任していた、という未学習論点なので、捨て問になります。

事業所得の株式会社Rとの業務契約については、事業所得の総収入金額に含める額を①一括して受け取った360万円、②当課税期間分の150万円(=30万×5ヶ月)、③役務提供が完了していないので0万円とするか、判断する必要があります。本則は、役務の提供が完了したときに収入計上するので、①はありえませんが、②か③は迷ったと思います。月額報酬契約ということで、例えば、何らかの事情で来年1月で契約が打ち切りになっても、経過した月数分の役務は提供したとして、返還義務はないはずですから、30万×5ヶ月分を当課税期課金の総収入金額に含めるべきです。事業所得に接待飲食費の制限はないことや定額法が法定の償却方法であること、資産損失を必要経費と出来ることなどは理解できているはずです。

講演料&書籍代が雑所得の収入金額&必要経費に、満期保険金等&支払保険料の累計額が一時所得の総収入金額&支出した金額になりますが、たまにしかない所得である一時所得には50万円の特別控除が適用されます。このあたりは、取りこぼしなく、正答しておきたいところです。

生命保険料控除は試験委員が大好きなのか、良く出題されますが、つまらない論点なので捨てている受験生が多いはずです。

雑損控除は、業務用固定資産や生活に通常必要でない資産は対象とならないので、本問では、盗難にあった現金300万円から足切り限度額200万円(=2,000万円×10%)を控除するだけで求めることが出来ます。

最後に、丙の課税総所得金額ですが、生活に必要な資産の売却益は非課税なので、給与収入から給与所得控除の最低額55万円を控除して、さらに基礎控除48万円を控除して求めます。勤労学生控除は合計所得金額が77万円あるので、適用できません。必ずしも正答できる必要はありません。

 

問題3:消費税法

解答箇所:10箇所
予想配点:15点(1箇所1点の場合は10点)
出題分野:課税標準に対する消費税額(1問)、課税売上割合(2問)、課税仕入に係る消費税額(5問)、売上返還に係る消費税額(1問)、貸倒れ等(1問)

消費税法については、満点を狙えた昔の本試験レベルに戻ってきました。
ほぼ過去問で取り扱われている論点で作問されていましたが、初見の論点が1つありました。
→ 引取消費税額が与えられていなかったため、自分で計算する必要がありました。輸入物品については、ものによっては非課税になったりするのですが、今回は税率を乗じる直前の金額(課税標準)が与えられていたので、200万円×7.8%=156,000円と計算するだけでした。ただ、会計士試験はもちろんのこと、ここ10年間の税理士試験を振り返っても引取税額は資料に与えられていたので、これが計算できないと、10箇所の採点箇所のうち、3箇所が不正解となるのは、ちょっと酷な気がします。

以上です。