令和5年度第Ⅱ回公認会計士短答式試験講評~財務会計論
本試験、お疲れ様でした。
問題構成は,理論10問,計算は個別問題が12問,総合問題が6問で,理論が1問減少し,計算の個別問題が1問増加しました。
高い正答率が求められる問題は,理論8問,個別問題6問,総合問題3問です。
連結の総合問題については、初見の論点が出題されたため、大手専門学校でも問題26~28は, Cランクとしています。
想定合格ラインは132点です。易しかった前回本試験より難化し、合格ラインは10%程度低くなると予想しています。
以下、問題毎に講評していきます。解答・解説はこちらをご確認ください。
問題1:財務会計の役割(理論)***
ア.会計上の見積りの注記に関する説明ですね。ウ.がヒントになったかもしれません。
イ.監査論の「適正性の枠組み」で必要に応じて要求以上の注記が行われることと結びつけて考えられたら良かったですね。
ウ.これだけの注記事項が列記されたときに、過不足がないか判断するのは困難だと思います。
エ.「概念フレームワーク」の頻出論点です。
イエの誤りが明らかなので、正答できたと思います。
問題2:財規の用語の定義(理論)***
ア.「関連当事者」の分野ではこれだけ覚えておきましょう、という内容ではあるので、対策していれば正誤の判断はできたと思いますが、そもそも「関連当事者」自体を捨てていましたという方には難しいでしょう。
イ.キャッシュ・フロー計算書の「資金の範囲」は頻出論点です。
ウ.その他有価証券にも「市場価格のない有価証券」が含まれます。その他有価証券かどうかは保有目的による分類であり、市場価格のありなしとは視点が異なります。
エ.会計上の見積りの変更について遡及適用を行わないことは、計算対策としても押さえていたと思います。
問題3:小口現金出納帳(計算)*
小口現金出納帳は3級の学習範囲です。にもかかわらず、他の主要専門学校でも難易度はCランクとされています。
小口現金出納帳については、上級で学習する機会もなく、しかも3級では想定されていない、「仮払金の精算(3/28)」が論点として含まれていました。3級で想定しているのは、「とりあえず営業マン等が立替払いしておき、あとから用度係に精算してもらう処理」です。ところが本問では、「用度係が営業マンに対してとりあえず仮払金で出金しておいて、あとから仮払金の精算を行う処理」が含まれていたため、初見の応用問題となってしまったわけです。この取引さえ含まれていなければ、良問という評価になりますが、残念ながら問題の質としてもCランクということになります。
問題4:有価証券(計算)***
その他有価証券であるA社株式、C社株式が追加取得によって関係会社株式に保有目的が変更されています。この場合、基本的には取得原価で振替を行いますが、前期末に部分純資産直入法で評価損が生じていた場合には、前期末時価で振替を行います。しかし、全部純資産直入法なのか部分純資産直入法なのかについてと、前期末時価の情報が与えられていないので、取得原価で振替をしています。
B社株式は1年以内に売却することが決定されていますが、流動資産に振り替えたりはしません。
案外、何も考えずに処理してしまっても正答できてしまいそうですが、実は難しい論点が隠れていた問題でした。
問題5:圧縮記帳(計算)***
機械装置Aは直接減額方式、土地Bは積立金方式です。本問は税効果会計の適用なしなので、特別損益と同額が圧縮記帳の額(圧縮損or圧縮積立金)になります。土地の収用が売却の処理になる事はケアできていなかったかも知れませんが、必要な金額は全て指示されていたので問題なく解けたと思います。
問題6:繰延資産**
株式交付費と開発費について、繰延資産に計上できる支出か否かの見極めがポイントとなる問題でした。繰延資産の計上は、将来の収益獲得を根拠とするので、資金調達を伴わない株式分割の株式交付費は繰延資産計上できません。製品の著しい改良のための支出は研究開発費となり、これも繰延資産計上できません。
また、同様の理由で、買入消却されて支出の効果が期待できなくなった社債の発行費も資産計上の根拠をなくし一時に償却されます。
対策していれば容易い問題なので、できれば正答したいですね。
問題7:資産除去債務(理論)***
ア.「不適切な操業等の異常な原因によって発生した場合」は、まず計算対策では扱わないので、正誤判断は難しかったかもしれません。
イ.最頻値法と期待値法は計算問題でも頻出なので容易に正しいと判断できたでしょう。
ウ.時の経過による資産除去債務の調整額は,損益計算書上,当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上します。これも、計算問題でも頻出なので容易に誤りと判断できたでしょう。
エ.将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の割引率の選択も、計算問題でも頻出なので容易に誤りと判断できたでしょう。
計算対策が理論対策にもなった問題でした。
問題8:株式募集(計算)*
新株発行と自己株式の処分を同時に行う場合、自己株式処分差損を新株への払込額から控除することはしっかり学習していたと思います。本問は、自己株式処分差損が新株への払込額を上回ってしまうという珍しいパターンでした。没問でいいと思います。
問題9:財務諸表の表示等(理論)***
ア.包括利益は、概念フレームワークでも定義されていました。
イ.株主資本等変動計算書では、株主資本については当期変動額を変動事由ごとに表示し, 株主資本以外の項目については当期変動額を純額で表示することは知識にあったと思います。しかし、「表示しなければならない」か「表示できる」かは判断に迷うところかと思います。株主資本以外の項目について当期変動額を変動事由ごとに表示することもあるのだから、「表示できる」が正しいと思えたら良かったですね。
ウ.企業会計原則は手薄な方が多いと思いますが、「金額の僅少なもの又は毎期経常的に発生するものは,経常損益区分にできる」は覚えておくべきでしょう。
エ.これも企業会計原則からです。たな卸資産は、恒常在庫品として保有するものも、余剰品として長期間にわたって所有するものも、流動資産です。
問題10:キャッシュ・フロー計算書(計算)**
①直接法は勘定連絡の把握ができているかどうかです。
②本問の間接法はそれほど難しい項目はないのですが、「営業活動によるキャッシュ・フローの区分で, 加算される項目として表示される金額のうち最大のもの」を求めるためには全ての項目を算出しなければならないので、手間がかかるという意味でBにしました。
問題11:金融商品(理論)***
出題形式が、通常の正誤の判断ではなく「認められている会計処理かどうか」の選択でした。
ア.破産更生債権等の直接減額、イ.繰延ヘッジ、が認められている会計処理です。
ウ.転換社債型新株予約権付社債以外の新株予約権付社債の発行者側は区分法のみです。
エ.取得後に満期保有目的の債券への保有目的の変更は認められません。
問題12:ストック・オプション(計算)*
どの記述も細かい規定なので、受験上パスで良い問題です。
問題13:リース取引(計算)***
標準的なリース取引の問題です。リース料総額に残価保証を含めること、減価償却では残価保証を要償却額から除くことを忘れないようにしましょう。
問題14:退職給付(理論)***
ア.数理計算上の差異の費用処理は、平均残存勤務期間内に処理される必要があります。
イ.年金資産と退職給付債務を純額にする処理は、制度毎に行います。
ウ.「退職給付会計基準」では、予測給付債務(PBO)の考えを採用しているので、予想される昇給等も考慮します。
エ.確定拠出制度では、発生主義による費用処理をするので要拠出額を費用計上します。
いずれも主要論点なので正答したい問題ですね。
問題15:退職給付(計算)***
標準的な退職給付の問題です。期末の年金資産時価や退職給付債務が与えられていませんが、年金資産時価については、実際運用収益率4.75%から算定することができます。ただし、この結果は解答上必要ないので、比較的容易な問題だったと思います。
問題16:収益認識(計算)*
適用指針の設例の改題です。ほとんど設例のままなのですが、対策してなければ(一度解いておいたくらいでは)とても解けなかったと思います。
契約変更があった場合に①独立した契約とするか②既存の契約を解約して新しい規約の締結とするか、の判断において、独立販売価格が同額であることから②と判断します。
問題17:連結税効果会計(理論)***
連結子会社等の留保利益の税効果、及び子会社株式の一部売却に係る税効果会計について問われました。
前者は理論テキストでしか取り扱っていないので、難しかったと思います。
ただ、後者のよく知られた論点だけで選択肢を 1. と 2. の2択にまで絞れるので、Bランクとしています。
問題18:株式移転(計算)*
共通支配下の株式移転です。主要な専門学校でもCランクとされていました。
株式移転によりA社及びB社は、C社の完全子会社となりますが、A社はC社株を保有しているので、連結上、これが自己株式となります。初見の論点となるので、早々に次の問題へと移行するのが賢明です。
問題19:連結会社の数(理論)*
資料に与えられた10社のうち、何社が連結会社となるかを数える問題です。
連結会計基準だけでなく、連結範囲決定に関する適用指針他の細かい規定に則して判定する必要があるため、本試験会場で適用指針等を見ずに正解することはかなり困難です。「捨て問」ということになります。
問題20:固定資産の減損(計算)***
標準的な減損会計の問題です。割引前将来キャッシュ・フローを求めるところから計算させていますが、処理自体は難しくないので正答できたと思います。
問題21:為替換算調整勘定(計算)***
在外子会社の資本連結上計上される連結調整勘定の合計額を算定する問題です。
難しい論点は含まれていないので、確実に得点しておきたい問題です。
問題22:株式交換(計算)**
株式交換によって、完全子会社化しますが、非取得企業の株式を一部所有していたので、段階取得に係る差益を計上します。テキストで学習している計算パターンですが、通常の連結会計よりも手薄にな
りがちな論点なので、短答受験1回目では「無理」、2回目では「テキストに同じパターンがあったけど、まだ無理」、3回目で「なんとなく解ける」くらいだと思って下さい。
解説を利用して考察すると、初学者の方も、「簡単そう」という印象をもつと思いますが、この問題が解けるようになるまでの道のりは意外と長いものです。
問題23~28:連結会計(総合計算問題)
連結の総合問題は、2021年以降、解きやすい問題が続いていました。
今回は、「子会社から親会社への事業移転」という未出題論点が出題されたので、緊張してしまったと思います。
このような場合は、未出題論点が絡まない問題だけを解答しておけば、合格ラインには到達できます。本問の場合、問題23~問題25は正答必須で、未出題論点が絡む問題26~問題28は捨て問とするのが賢明です。