第68回(平成30年度)税理士試験 講評 第3回~簿記論

第三問

第三問だけならば、例年よりは分量が少な目でした。年次が平成ではなく西暦となっているのは、まもなく変更される新元号がまだ公表されていないからでしょう。元号の変更や消費税率の変更は、受験生(予備校も)にはため息ものですが、乗り越えていくしかありませんね。

現金·預金

例年通りの調整計算です。預金残高調整で登場する「ファクタリング会社」は、売掛債権買取業務を行う会社ですが、知識がなくても「売掛金を譲渡した」とあるので取引内容自体は理解できたと思います。外貨建預金は、本来なら未収利息を計上すべきところが、計上しない処理が要求されています。決算整理後試算表の勘定として「その他流動資産」や「その他営業外収益」があるため、余計に気になるところですが、決算整理後試算表のその他流動資産が決算整理前試算表と同額の690で記入済みであるため、未収利息を計上しない処理が選択されている(現金主義)と判断することになります。「利払期日が到来する都度、継続的に預金利息を収益計上している。」との指示はこのことを意味すると考えられますが、利息に経過勘定を用いない処理は稀なため、読み取りは困難だと感じます。

商品

例年同様に、未処理や誤処理を正しく処理して、売上原価や期末商品残高を用意していきます。今回は仮受・仮払消費税等も考慮する必要があり、難しくはないものの比較的手間をとるタイプでした。個人的には、散らばる資料を集めて処理することの多い商品に関する処理は、時間的制約の厳しい簿記論では後回しにする方が得策な気がしています。皆さんはいかがですか?

固定資産

建物附属設備では、資産除去債務の処理が要求されています。前年期首に取得した資産の資産除去債務を前年期末の決算整理で計上したとあるので、前年度に利息費用を計上したのか迷うところですが、「2017年3月決算において~、適切に減価償却費と利息費用を計上した上で」とあるので、前期首の発生時に認識した資産除去債務を期末の決算整理で遅れて計上したと判断し、「貸借対照表に含められた10,000千円」は取得時の発生額であり、前期の利息費用200千円を含む10,200千円が決算整理前試算表の計上額になっている、当期の利息費用の計上も未処理と考えます。個人的には、資料が多くて逆に読み取りにくさを感じました。次に気になるのが、「法人税率変更に伴う処理を行った上で」行うことを求められている税効果会計です。文言通りに処理しようとすると、一時差異の当期解消額から法人税等調整額への影響を税率変更を考慮して…しかも繰延税金資産と繰延税金負債の両方で…と激しく面倒です。しかし結局は、前期末時点の一時差異は一括で取り崩して、当期末時点の一時差異(資産除去債務なら資産除去債務と建物付随設備の帳簿価額の差異)に変更後税率をして繰延税金資産・繰延税金負債を計上するだけですみます。似た状況が投資有価証券にも指示されていますが、この辺りを仕組みを理解した上で効率的に処理できたかで随分と結果に違いが出た気がします。

機械装置では、定率法の償却保証について出題されました。減価償却費と償却保証額を比較して…という処理ですが、その趣旨から判断して、取得したばかりの新移動ラックでは償却保証にひっかかることはないと判断できますし、逆に耐用年数10年中の8年目にあたる旧移動ラックは償却保証にひっかかるに違いないと判断できます(改定償却率が0.334であるため最終の3年が対象と分かります)。時間もないですし、この判断は受験上必要でした。

投資有価証券

満期保有目的のG社社債の処理がポイントとなりました。満期保有目的(償却原価法適用または取得原価評価)でありながら、前期に評価減を行っています。このため、当期末において前期評価減後の帳簿価額を維持するのか、当期末時価で評価するのか、迷うところです。「当期末も期末時価を貸借対照表価額に反映する処理を行う。」という指示をどう読めばいいのか、また難しい。実はここは素直に当期末時価評価と読めば正解でした。前期に減損処理を行っているということは債券の発行会社の信用リスクを反映した時価の著しい下落を認めていることになり、売却可能性が否定できなくなっている状況と考えられるので、G社社債は保有目的が「その他」になったと判断して処理をしていきます。しかし、実務指針にさえはっきり書かれていない状況・処理をどうして…。できなくて当然です。

賞与引当金

仮払金に含まれている賞与にかかる法定福利費の金額が明示されていないため、そこで手が止まってしまったのではないでしょうか。これまでの仮払金の処理から差額で求めることもできますが、手数がかかります。賞与引当金残高自体は簡単に求まるので、それだけ済ませて次へ移るのが得策でした。

ヘッジ会計

デリバティブ取引は、受験生によって取り組み方に差がありそうな分野です。それほど複雑な処理が出題されるとは思えませんから、「基本的処理だけ(期末時価評価やヘッジの繰延処理)押さえておこう」というのが大方ではないでしょうか。ということは、各種デリバティブ取引で「時価」が何にあたるかについての知識も必要となってきます。それさえあれば、今回は楽勝でした。まず、為替予約では先物為替レートが時価になります。ドル買いの予約ですから、106円/$で予約したレートが108円/$になれば「益」が生じます。オプションでは「オプション料300,000円を支払」っているのが買い建てたときの時価です。

以上です。