平成30年 公認会計士 論文式試験 講評 ~ 租税法①

問題用紙の多さもあってか、大手専門学校でも合格ボーダーを「素点40点」としているところが多いです。
難易度は高くないので、落ち着いて、得点できるところを要領よく得点していけば、どの程度得点できたか、検討していきましょう。

第1問(理論)40点
問題1は、5点×4問=20点で、法人税法3問、所得税法1問でした。
問1のY市への寄附金、問2の相手側で損金経理している配当金、問4の使用人兼務役員への不相当に高額な給与については、とても基本的な問題です。
問3の国内源泉所得への源泉徴収義務については、偶然にも、答練で全く同じ問題(もちろん、金額の設定は異なりますが・・)を出題していました。
「問3は白紙答案でも構わない。」としている専門学校もあったので、答練と同じ問題が出題されたのは、FINとしては、ラッキーでした。
問題1は、解答速報に近い答案作りが出来たと思います。
問3のラッキーな出題を加味して、14点くらい得点したい問題でした。

問題2は、4点×5問=20点で、法人税法3問、所得税法1問、消費税法1問でした。
①の法人税法が原則として時価課税としている根拠条文の指摘、③の個人事業者の家事消費、⑤の特定期間1,200万円の事業者の納税義務につていは、基本的な問題なので、完答したいところです。
③の適格株式分配については、「剰余金の配当とされない」とする条文番号を探すのが難しかったと思います。
また、④の休業前の繰越欠損金については、適用要件が複雑で、3~4行の答案用紙には向かない論点だと判断して、講義では取り扱っていませんでした。
5問中3問は簡単だったので、10点程度は得点できてほしい問題でした。
以上から、第1問(理論)の目標点は、24点になります。

第2問(計算)60点
問題1(法人税)29点
問1(24点)
受取配当、減価償却、租税公課という、毎回出題される3論点に加え、給与、交際費、寄附金といった比較的なじみ深い論点が出題されています。

1. 受取配当
A社株式は、原則法による負債利子を計算する必要がありましたが、計算過程で、きれいに割り切れるので、出来たはずです。
B社株式は、非支配目的なので、配当額に20%を乗じるだけでした。
C社株式は、外国子法人なので、配当額に95%を乗じるだけでした。
D社株式については、いわゆる「自己株式の取得」の論点で、みなし配当が2,250,000円、非支配目的なので、これに20%を乗じると解答が得られます。
最後は、E社株式の評価損です。
「解散が予定されている子会社株式(完全支配関係)の評価損は計上できない。」という33条5項、施行令68条の3第二号を使った理論問題は答練で取り扱っていましたが、肝心の、「子会社株式の消却損の損金算入が認められない代わりに、子会社の繰越欠損金を親会社が引き継ぐ。」といった論点(平成22年改正論点)については言及していませんでした。
以上から、受取配当については、5点中4点が目安となります。

2. 減価償却
機械装置Fは、経過年数×0.2+5年=6年(定率法・10ヶ月分)で償却限度額の計算を行うだけです。
機械装置Gは、本体に償却過不足はありません。資本的支出について、10年(定率法・10ヶ月分)で償却限度額の計算を行うだけです。
パソコンHは、一括償却資産の途中除却です。「途中除却しても3年の均等償却は継続される。」というのもよく知られた論点です。
ソフトウェアJは、会計上は3年で償却していますが、法定耐用年数は5年です。ソフトウェアの法定耐用年数には、3年のものと5年のものとがありますが、繰越償却超過額の金額から5年と判断します。
また、会社計上償却費が、取得原価÷3年なのか、取得原価×0.334なのかは、やはり繰越償却超過額の金額から後者と判断します。誤った人もいるかも知れません。
以上から、減価償却については、5点中4点が目安となります。

3. 役員給与
専務取締役Kは、渡切交際費が定期同額給与となり損金算入、1月~3月の昇給分が損金不算入となります。
常務取締役Lは、同じく、1月~3月の昇給分が損金不算入となります。
非常勤取締役Mについては、当社が同族会社ではないので、半年払いの役員給与に事前届出は不要となります。これもよく知られた論点です。
以上から、役員給与については、3点中3点が目安となります。

4. 租税公課
(1)については、申告時に損金算入できる事業税の正当税額38,500,000円を減算処理するだけです。
(2)については、会社が2つ目の仕訳で136,000,000円を損金経理していますが、損金算入できるのは、中間申告した事業税等19,250,000円だけなので、それ以外が加算調整となります。
(3)については、いつものように法人税等調整額を取り消すための調整を行うので、4,000,000円を減算です。
(4)については、①と③が損金不算入となるのは分かるはずです。②の固定資産税は、原則として賦課決定日の属する事業年度の損金ですが、納期開始の日又は実際納付の日の属する事業年度に損金経理したときはその事業年度の損金とすることも出来ます。いずれにしても、当期の損金になるので、①と③を加算調整します。
租税公課も簡単でした。4点中4点が目安になります。

5. 源泉所得税等及び外国税
解答箇所が1箇所なので、捨て問ですが、一応、計算過程を示しておきます。
A社株式408,400+B社株式45,945×0.500(簡便法)+定期預金15,315+D社株式のみなし配当2,250,000×0.2042+C社株式1,575,000(外国)+N外国債100,000=2,581,137円(加算)
ここは、1点中0点ということで構いません。

6. 交際費
(1)については、①~③の合計5,500,000円が支出交際費等となり、大法人なので、③の接待飲食費3,000,000円×50%を超える額4,000,000円が損金不算入となります。
(2)については、税務上は、接待した期の交際費になので、いったん全額を減算処理します。接待飲食費としての支出交際費等が855,000円ということになるので、50%を超える部分を加算処理します。両者を相殺して、427,500円の減算ということになります。
交際費は例年よりも簡単ですが、2点中1点を得点目安とします。

7. 寄附金
寄附金は多くの場合、捨て問になります。これも一応、計算過程を示しておきます。
まずは、期ずれの処理からです。
法人税法上の寄附金は現金主義なので、③は当期の寄附金として減算処理、④は翌期の寄附金として加算処理となるので、相殺して500,000円を加算調整します。
次に、損金算入限度額超過額の計算です。
資料から、特定4,700,000円、その他 1,500,000+2,500,000=4,000,000円となります。
特定の限度額は、公式に代入して16,218,750円、その他の限度額は3,495,000円です。
従って、損金不算入額は、8,700,000-特定4,700,000(∵4,700,000<16,218,750)-3,495,000=505,000円となります。
期ずれの調整は簡単なので、2点中1点を得点目安としておきます。

8. 欠損金の繰越控除
1. 受取配当のところにあった、「子会社株式の消却損の損金算入が認められない代わりに、子会社の繰越欠損金を親会社が引き継ぐ」という論点の続きです。完全支配関係となった平成26年10月1日以降の子会社の欠損金と当社の繰越欠損金15,000,000円の合計額34,000,000円(<460,000,000×55%)を当期の損金とします。
これは、1点中0点で構いません。

9. 法人税額の計算
所得税額控除額及び復興特別所得税額控除額は、5.源泉所得税等及び外国税のところで捨て問としたので、解答する必要はありません。計算過程は、以下の通りです。
A社株式408,400+B社株式45,945×0.500(簡便法)+定期預金15,315+D社株式のみなし配当2,250,000×0.2042= 906,137円
ここも2点中0点で構いません。

以上から、法人税(計算)の問1は、24点中17点が目標点です。

問2(5点)
かつては、毎年出題されていた、貸倒損失・貸倒引当金の論点です。
1. 得意先A
売掛債権の特例(貸倒損失)に係る問題です。そもそも担保物がある場合には適用できないので、会社の損金経理額を全額加算調整する必要があります。

2. 得意先B
法的債権の消滅(貸倒損失)に係る問題です。すでに、税務上、損金調整が済んでるということなので、当然、当期の会社損金経理額については、加算調整となります。

3. 得意先C
長期弁済基準(個別貸倒引当金)に係る問題です。今回は、担保の資料がないので、繰入限度額は、長期弁済対象の3,500,000円のうち、設定事実発生事業年度末(28年3月末)から5年内(33年3月末)弁済予定額(50万×6回=300万円)以外の500,000円ということになります。会社は、2,000,000円を損金経理しているので、繰入限度額500,000円を超過した1,500,000円部分を加算調整します。
タイムテーブルを作成する必要があるので、捨て問で良いと思います。

4. 一括貸倒引当金
完全な捨て問です。

以上から、法人税(計算)の問2は、5点中2点が目安です。

ここまでで、理論24点+法人税の計算19点=43点が得点目安とされています。
おそらく、理論と法人税の計算問題で2時間与えられた場合、合格レベルにある受験生は、これくらい得点できると思います。
ただ、理論と法人税の計算に投入できる時間は1時間15分程度です。この時間差によって、43点からどの程度、点数を失うかは、日頃の鍛錬によって決まってきます。

続きは、②で ・・・・