公認会計士 論文式試験 租税法 ~ 所得税法の過去問分析

租税法の所得税法部分の過去問について

本試験は、各種所得の金額 → 課税標準 → 課税所得金額 → 納付税額という一連の流れを問うパターンでの出題が続いています。

出題傾向が安定している場合は、本試験に向け、過去問の研究が極めて効果的な学習方法となります。このため、FINの所得税法講義では、直近6年間の詳細な過去問解説を行っています。

本ブログでは、2013年~2017年の本試験問題について、簡単に検討しておきます。

まず、第1段階の各種所得の金額の計算ですが、給与所得が5回、事業所得と配当所得が4回、一時所得、雑所得、譲渡所得が3回出題されています。
給与所得・事業所得・配当所得・譲渡所得の4つの所得は特に力を入れておくべきでしょう。

第2段階の課税標準の計算では、損益通算、1/2課税、損失の繰越控除が論点となりますが、直近2回には出題されていない損益通算は、克服しておきたい論点です。

次に、第3段階の課税所得金額の計算では、扶養控除が5回連続で出題されています。少し意外な気がしますが、84条を見ながら手際よく計算できるように、十分に準備しておく必要があります。

最後に、第4段階の納付税額の計算ですが、重要なのは、何といっても配当控除です。4年連続で出題されていますし、未出題の論点もあるので、しっかり頭の中に入れておきましょう。

本試験では、所得税法の解答箇所は15箇所であることが多く、配点は100点中15点程度と予想されます。
ここ5年間で、難易度に大きな変化はなく、12~14箇所ほど解答しておいて、8~12箇所正解させるイメージになります。

2017年本試験
所得の種類:(総合課税) 配当所得、事業所得、給与所得、一時所得、雑所得、(分離課税) 株式等の譲渡所得
損益通算: なし
所得控除: 寄附金控除、扶養控除
税額控除: 配当控除

甲と乙、2名分について問われています。ここ5年間では2回がこのような問われ方となっています。
まず、甲の父である乙について、雑所得の「公的年金」と「個人年金」の取扱いの違いが分かっているかが問われています。一通り学習を終えている受験生であれば、得点できるはずです。
次に、乙の給与所得ですが、資料として、「給与所得の源泉徴収税額表」が与えられていました。実務ではよく使う表ですが、試行錯誤も必要で、受験用問題の資料として使うのは、やや意地悪に感じます。こういったところで1分以上時間を使わないように心掛け、あっさり次の問題に移るようにして下さい。失うのは、たった1点です。
事業所得は頻出論点なので、十分対策しているはずです。今回は、「青色事業専従者給与」と「事業専従者控除」の違いが整理できているかが問われています。
配当所得では、「みなし配当」が出題されていますが、法人税法での計算と同じなので、得点したい論点です。「みなし配当」は、克服できれば簡単です。
分離課税される譲渡所得の計算は、3年連続での出題です。株式等に係る「譲渡所得」の金額を把握する段階では、マイナスの所得をそのまま解答しますが、「課税所得金額」の計算段階では、マイナスの所得はゼロとするといった操作が必要です。このあたりは、過去問を検討することで効率的にマスターできます。こういったところで、勿体ない失点をしないように心掛けて下さい。
次に、所得控除ですが、「ふるさと納税」を寄付金控除に含めるか、迷ったと思います。
扶養控除は、5年間連続して出題されています。仕組みをしっかり理解した上で、条文をチラッと見るだけで解答できるように、しっかりと準備して下さい。

2016年本試験
所得の種類:(総合課税) 配当所得、事業所得、給与所得、(分離課税) 土地建物の譲渡所得、株式等の譲渡所得
損益通算: なし
所得控除: 医療費控除、配偶者控除、扶養控除
税額控除: 配当控除

所得の金額については、難しい論点はありません。友人への貸付金利息は「雑所得」、事業用資金の預金利息は「利子所得」、取引先への貸付金利息は「事業所得」というのもよく知られている論点です。また、個人の場合、資本金という概念はないので、従業員数1,000人以下の個人事業者は中小企業者とされ、30万円未満の什器備品等の取得原価はそのまま必要経費とすることができてます。年間300万円までという制約も法人税と同じです。
不動産に係る譲渡所得が出題されていますが、意外なことに、土地建物等の譲渡に関する計算問題はこの1問だけです。「居住用」も「事業用」も「生活に必要でない資産」も同列に扱い、「分短」と「分長」で内部通算は出来ますが、「総短」・「総長」や他の所得とは通算は出来ないこと、長短の区分は取得日~譲渡年の1/1までで判定すること、所得税の分離課税の中で唯一、30%の税率を適用するのが「分短」であることなどを頭の中に入れておきましょう。
医療費控除については、同一生計親族分をまとめて計算することができ、同一生計親族に所得要件はありません。そのことを頭に入れた上で、73条を見ながら計算ができるようにしておけば「O.K」です。
土地建物の課税譲渡所得の金額に対する所得税額については、平成21年又は平成22年中に取得した土地に対する「時限措置」が適用され、「所得税額はゼロ」とされます。ただ、こういったところでの失点は気にしなくて大丈夫です。
配当控除は、2014年~2017年まで4年連続で出題されています。「原則として、配当所得の10%」、「例外的に、課税総所得金額等を超える部分は5%」ということさえ分かっていれば解けるレベルの問題しか出題されていません。「特定株式投資信託以外の証券投資信託」、あるいは「外貨建証券投資信託」の収益分配金があった場合について、学習しない専門学校もありますが、頻出論点ですから、余裕のある受験生はそこまで手を広げておくと良いでしょう。

2015年本試験
所得の種類:(総合課税) 事業所得、給与所得、配当所得、一時所得、雑所得、(分離課税) 土地の譲渡所得、株式等の譲渡所得
損益通算: あり
所得控除: 医療費控除、配偶者控除、扶養控除
税額控除: 配当控除

2017年と同じく、2名分問われています。
給与所得については、「損金不算入となる役員給与」、「家賃補助」が論点とされています。譲渡所得については、「所得税法の大原則は対価課税」であることを確認する問題です。また、「受取保険金-支出保険料」が一時所得の計算要素となり「50万円の特別控除」の対象となることなどが問われています。ただ、この問1の日本語は分かりにくい面もあるので、そこには気をとられずに復習して下さい。
問2では、損益通算が問われています。各種所得の金額を計算した後の、いわゆる第2段階の計算です。「申告分離課税の配当所得」と「上場株式等の譲渡所得」が損益通算できるというのは、当時の改正論点です。この処理をした後は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡(総合)所得以外の所得のマイナスをゼロにするというところまで問われています。
答案用紙には、配当控除の金額を解答するための空欄がありましたが、「申告分離課税を選択した場合の配当所得」に対しては、配当控除は適用されません。
最後に、「復興特別所得税額」についても問われています。計算方法と税率の暗記は必須です。

2014年本試験
所得の種類:(総合課税) 事業所得、給与所得、退職所得、配当所得、一時所得
損益通算: あり
所得控除: 配偶者控除、扶養控除
税額控除: 配当控除

細かい知識が問われています。「特定役員退職手当」と「ゴルフ会員権の譲渡損」です。「ゴルフ会員権の譲渡損」については、本試験が実施された当時であれば損益通算できましたが、本試験直後の改正によって、損益通算はできなくなっています。改正されることが分かっている論点を出題する作問者の姿勢はいただけませんが、残念なことに、租税法の本試験では何度か前歴のある悪習慣なので、「改正されるから出題されない。」という考え方は持たない方が良さそうです。
「損益通算のルール」についても問われています。この「損益通算のルール」がどのように設計されているかは、専門学校によって説明がマチマチです。上手く理解できていない受験生が多い論点ですが、FINでは「非常にシンプル、かつ、複雑なパターンにも耐えうる方法」を紹介してます。

2013年本試験
所得の種類:(総合課税) 不動産所得、給与所得、雑所得
損益通算: なし
所得控除: 社会保険料控除、生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除
税額控除: なし

不動産所得は、税理士試験ではよく出題されますが、会計士試験では2013年以降出題がありません。なので、そろそろ要注意です。例えば、不動産所得の計算においては、家賃が未収となった原因によって未収家賃の取扱いが異なりますし、貸倒れとなった未収家賃の取扱いは、その営んでいる不動産業が事業的規模か否かによって異なります。このあたりまで、きちんと整理しておきたいところです。
2012年から各種所得の金額 → 課税標準 → 課税所得金額 → 納付税額という一連の流れが問われるようになりましたが、2013年、2014年の出題は、やや、細かすぎる設問もあります。例えば、生命保険料控除が出題されていますが、事前に計算方法を暗記しておくほどの重要性はないので、本試験中に、76条の詳細な規定を参考にしながら計算せざるを得ません。しかし、ここの計算は細かく、条文を見ながらでは時間を要し、あまりに不効率です。こういった問題は、「捨てるが勝ち」です。生命保険料控除を捨てると、課税所得金額、課税所得金額に対する税額、納付税額の3つもセットで間違えることになります。ただ、2014年以降は、「一つの間違えると、波及的に何カ所も間違える」といったことが起こらないように配慮されているので、時間のかかる「1点」は捨ててしまって構いません。

最後になりますが、出題傾向がここまで安定していると、過去問を丁寧に研究することで、7割程度正解できるようになります。法人税法や消費税法よりも学習時間は随分少なくて済むはずです。是非、実践してみて下さい。