令和3年度 公認会計士 論文式試験 講評 ~ 租税法

令和3年8月22日(日)に実施された論文式 租税法の講評です。
例年通り、前半が理論(40点)、後半が計算(60点)という構成でしたが、計算の解答箇所が60箇所から40箇所に減りました。2006年に租税法が試験に導入されてから15年、解ききれるはずのない資料量で出題が続いていましたが、ようやく適正な分量になった印象です。出題内容もかなり易化しました。
令和4年度以降も、この傾向が続くと良いのですが。

第1問 

問題1:理論(記述問題)

理論:4行×4問
法人税2問、所得税1問、消費税1問
予想配点:@5点×4問

問1は正答できなくても良いですが、問2~問4は、どこの専門学校でも講義で取り上げているはずですから、正答したい問題でした。
問1:株式会社ではなく、公益法人を対象とした問題だったので、手をつけなかった受験生も多いと思います。公益法人に対する法人税は、収益事業にだけ課税されます。例えば、公益財団法人である美術館では、入場料収益は法人税課税の対象外ですが、美術館の中にある喫茶店は収益事業とされるので、喫茶店の利益には法人税が課せられます。ちなみに、消費税は公益事業も課税主体となるので、喫茶店の収益だけでなく、入場料収益も課税標準の計算に含めます。
本問の場合、法人税額の計算にあたり、受取配当は収益事業にかかる収益とはされないので、計算の対象外になります。
問2:広告費を仮装し、高額給与を隠蔽しているので、法人税34条3項が適用され、損金不算入となります。
問3:所得税法56条は、繰り返し出題されています。同一生計親族が事業から受ける対価については、絶対に外せない論点です。
問4:特定仕入については、前年度に計算問題として出題されています。その処理を言葉で説明するだけなので、これも正答したい問題です。

問題2:理論(正誤+記述)

理論:正誤+3行×5問
法人税3問、所得税1問、消費税1問
予想配点:@4点×5問

①~⑤まで、すべて誤った文章になります。すべて×とするのは抵抗を感じるので、⑤を「○」と判定してしまったかも知れません。
①×:「新設法人の納税義務の免除の特例」です。基準期間のない、期首資本金が1千万円以上の法人が新設法人です。少し古い改正(H22)ですが、新設法人については、納税義務が免除されないことになっています。納税義務の判定は、実務上、非常に重要です。受験期間中に意欲的に取り組んでほしいということもあって、FINではどの専門学校よりも詳しく学習しています。
②×:「資産移転」の中でも、最もポピュラーな「個人から法人への贈与」です。繰り返し出題されているので、正答する必要があります。
③×:「固定資産の評価替え禁止」に関する問題です。基本中の基本です。
④×:「外貨で購入した資産の円換算額」に関する問題です。これも基本論点です。
⑤×:「正しい」と判定してしまった受験生が多かったと思います。
法人税法には「配当控除」という概念はないので、作問ミス?→作問した人は、配当控除と控除所得税額を取り違えちゃってるよ、多分!
こういった思考を経て、C社の方は、「配当控除」を「控除所得税額」と読み替えて、⑤を「正しい」と判定してしまった受験生が一定数いたのではないでしょうか。
おそらく、作問者は「二重課税の排除」を論点としていて、所得税法では「配当控除」、法人税法では「受取配当等の益金不算入」の制度で二重課税の排除を行っていることが理解できているかを確認したかったんだろうと思います。ちょっと、戸惑う問題でした。

第2問 

問題1:法人税法

解答箇所:20箇所
予想配点:30点
出題分野:租税公課(4点)、受取配当等(4点)、減価償却費(5点)、役員給与(2点)、交際費等(2点)、寄附金(3点)、有価証券(4点)、棚卸資産(2点)、貸倒引当金(2点)、子会社との取引(2点)

例年と比較して、計算量が減りました。
毎年出題される「租税公課」、「受取配当」、「減価償却費」で13点/30点、あと「役員給与」と「交際費」まで手を広げれば17点/30点になるので、例年であれば、このあたりで切り上げて、所得税の計算に移行することになりますが、今年は時間内にほぼ解きれたのではないでしょうか。
租税公課が少し難しかったかも知れませんが、これもFINでいつも利用している「租税公課の下書きパターン」に当てはめると、きれいに正答できます。
テキストで全論点がカバーできていたので、法人税の計算が得意な受験生は、いつになく高得点だったかも知れません。

問題2:所得税法

解答箇所:10箇所
予想配点:15点
出題分野:事業所得(2点)、給与所得(1点)、譲渡所得(4点)、所得控除(2点)、不動産所得(2点)、寄附金(3点)、配当控除(2点)、その他(2点)

譲渡所得以外は計算プロセスが単純で、短時間で正答できる内容です。
譲渡所得も難しい論点は含まれていませんでしたが、計算量が多いので、手をつけずに、消費税の計算に移行した方が賢明でした。

問題3:消費税法

解答箇所:10箇所
予想配点:15点
出題分野:課税標準の金額(2点)、課税売上割合(3点)、課税仕入の金額(7点)、転用による調整(1点)、売上返還等(1点)、貸倒れ等(1点)

「役員への商品の贈与」、「借り上げ社宅の家賃」、「支払リース料」といった論点も繰り返し出題されており、よく知られた論点です。「更地を駐車場として賃貸借する」という論点は、何故か2年連続の出題でした。
特定課税仕入の資料を与えておきながら、課税売上割合が95%以上のため、消費税法上の取り扱いを「なし」とする、いわゆる、「引っかけ問題」が出題されました。管理会計論では、使わない資料を故意に与えてくることがよくありますが、租税法では、こういった「引っかけ問題」が出題されるのは珍しいです。
「登録国外事業者」と、「金銭準消費貸借契約によって売掛金から貸付金に振り替えた金額が貸倒れになった」という論点は、会計士の消費税法では初めての出題になります。前者の「登録国外事業者」の論点は講義でも取り扱っていますし、後者の「貸付金の中に売掛金時代の預かった消費税が含まれている」ことも、その場で思いついたはずです。
転用は、2017年、2019年に続いて、2021年で3回目の出題になりますので、この1点も拾いたいところです。

以上です。