令和3年度 公認会計士 論文式試験 講評 ~ 会計学(午前)管理会計論

令和3年8月21日(土)に実施された論文式 会計学(午前)~ 管理会計論の講評です。
例年通り、30分問題4問という構成で、前半2問が易しく、後半2問が難しいという、よくあるパターンでした。
予想配点は、計算58点、理論42点です。

第1問 

本年度は、第2問が難しいので、第1問の[問題1]総合原価計算と[問題2]工程別標準原価計算でしっかり得点しておく必要があります。

問題1:総合原価計算

計算の解答箇所:7箇所
理論(記述式):2行
理論(穴埋め):8箇所
予想配点:計算14点、理論11点

久しぶりに非累加法が出題されました。「累加法と計算結果が一致しない通常の計算方式」という文言から、「単価調整を行わない非累加法」と判断したした受験生が多かったと思います。
ただ、問3で、「加工費法による原料費の一括計算では、減損の発生状況を計算に反映できない」という問題点を指摘させているため、問5では、減損の発生状況を計算に反映させるために単価調整を行うべきだと判断しました。
予想配点によると、単価調整を行わなかった場合、8点も失うことになります。多くの受験生が、「通常の計算方式」という指示に従い、単価調整は行わなかったはずです。問題文の拙い表現を原因とするところなので、傾斜配点の対象としてほしいところです。
ちなみに、単価調整の問題は、ずいぶん昔に論文式で一度だけ出題されています。といっても、当時の問題も単価調整を行うのか定かではなかったので、専門学校によっては、解答速報で、両方の解を示していました。今回もスッキリしない問題で、残念です。

問題2:工程別標準原価計算

計算の解答箇所:13箇所
理論(記述式):8行
理論(穴埋め):3箇所
予想配点:計算14点、理論11点

問1~問5までは、比較的容易な標準原価計算の問題でした。
問6では、非累加法が問われていますが、問5まで解答できていれば十分です。
非累加法を言葉だけで説明するのは、不可能に近いです。講義を受けないと理解できないと思いますが、一応、下に示しておきます。
累加法の場合は、工程別に仕掛品勘定(ボックス図)を作成するので、2工程の場合は、2つの仕掛品勘定(ボックス図)を下書用紙に書きます(解答速報のページC5)。
②これに対して、非累加法は、原価要素ごとに一括計算を行うので、4つの原価要素(原料費A、第1工程加工費、原料費D、第2工程加工費)の場合は、4つの仕掛品勘定(ボックス図)を下書用紙に書きます(解答速報のページC7)。非累加法は、たまにしか出題されないので、まず、このことを思い出せるようにしてください。
累加法の場合は工程の数だけ非累加法の場合は原価要素の数だけボックス図を作成します。これを思い出せなければ、非累加法は全滅します。

③次に、(解答速報のページC7)の4つのボックス図を見ながらということになりますが、4つのボックス図に共通しているのは、「完成品の数量は、最終工程の完成品の数量を書くこと」と、「当期投入の数量は貸借差引計算となること」です。
④さらに、期首と期末の仕掛品の数量ですが、第1工程で投入される原価要素は、第1工程の仕掛品にも第2工程の仕掛品にも含まれているので、第1工程で投入される原価要素を一括計算するボックス図の仕掛品の数量は2行仕立てになります。確認しておくと、(解答速報のページC7)の第1工程加工費を一括計算するボックス図の期首仕掛品のところを見ると(100)と500の2行仕立てになっています。
これに対して、第2工程で投入される原価要素は、第1工程の仕掛品には含まれないので、第2工程で投入される原価要素を一括計算するボックス図の仕掛品の数量には、第1工程の仕掛品は計上されないので、1行仕立てになります。
⑤あとは、各工程の加工費を一括計算するボックス図の、期首と期末の仕掛品の数量を記入するにあたっては、自分の工程の仕掛品の数量には加工進捗度を乗じます。例えば、第1工程加工費の一括計算をするボックス図では、第1工程(←自分の工程)の期首仕掛品は加工進捗度を乗じた(100)となっています。これに対して、次の工程の仕掛品の数量には加工進捗度は乗じません。例えば、同じボックス図の第2工程の期首仕掛品の数量は加工進捗度を乗じていない500になっています。
文章で書くと分かりにくいですが、少なくとも、これくらいのことが思い出せないと非累加法を行うためのボックス図は完成しません。

非累加法で追加材料の投入などがあると、多くの受験生がギブアップします。「厳しい」と感じる受験生は、問6のような問題は手をつけずに、次の問題に進んでください。

問7の内部振替価格の決定は、独立した問題で、計算も簡単です。正答してほしい問題です。

第2問 

問題1:事業部制組織の管理会計

計算の解答箇所:3箇所
理論(記述式):10行
理論(穴埋め):1箇所
予想配点:計算9点、理論16点
問2の理論は計算がらみですが、純粋な計算は問4の設問1だけです。計算の解答箇所は3箇所しかありません。
問1は、「シェアードサービス」という語句の穴埋め問題でした。「間接業務の集中化」を行うマネジメント手法で、短答対策でも、論文対策でも学習する内容なので、正答できた受験生の方が多かったはずです。ちなみに、前年度は「トップダウン」と「例外管理」という語句の穴埋め問題が出題されています。今後も、同様の出題が続く可能性があるので、論文対策の教材を学習する際は、意識しておいた方が良いでしょう。
問2は投資利益率の分子と分母に売上高をかませて、「売上高利益率と資本回転率に分解分析する。」という、よく出題される分析手法でした。
A事業部とB事業部は内部振替のない事業部なので、事業部別P/Lの作成は容易で、正答したい問題です。
問3の理論も、講義で取り扱っている内容ではありますが、専門学校によって解答例は様々なので、平均的な受験生にとっては、難しい理論と感じたことでしょう。
問4のC~E事業部別のP/L作成は、たくさん時間が与えられているのであれば誰でも正答できますが、限られた時間内で正答するのは難しいです。
解答箇所は3箇所しかないので、@3×3=9点の配点を想定しています。
C~E事業部では、相互に内部振替を行っているため、事業部別P/Lの作成は、かなり時間がかかります。各事業部では、他の事業部から仕入れた完成品を外部に販売しつつ、自事業部でも製品を製造して外部と他の事業部に販売しています。これが3つの事業部で行われているので、計算量が多く、途中で計算ミスも生じやすい問題です。この設問1を正答できれば、合格ラインに近づくための大きなアドバンテージを築けたはずです。
設問1の事業部別P/Lが完成すると、ご褒美として、設問2の理論で3点拾えます。
最後の問5の理論は、現場対応型の問題ですが、解答速報にあるような答案は、なかなか作成できないと思います。

問題2:設備投資(ディシジョン・ツリー)

計算の解答箇所:7箇所
理論(記述式):2行
理論(穴埋め):0箇所
予想配点:計算21点、理論4点

現在、論文式の管理会計論は30分問題×4問ですが、昔は60分問題×2問でした。ディシジョンツリーの問題は、60分問題×2問の時代に出題されています。
ディシジョンツリーの問題は計算量が多いので、30分問題では解ききれなくなりがちで、本問も30分では解ききれない計算量です。
問1、問2の計算が正答できれば、予想配点では15点も得点できるので、これで十、分合格ラインに到達です。
本問の難易度は、講義で紹介している「2003年短答式の5年モデル」と同等です。ただ、10年モデルになっているので、計算量は多いですが、正答率はさほど高くないはずなので、正答してアドバンテージを得たいところです。
問1は、大工場の建設を前提に、①10年間高需要の場合、②3年間高需要で7年間低需要の場合、③10年間低需要の場合の3つのNPVを計算する問題です。年々の正味現金流入額の計算を間違えると、問1だけでなく、全ての計算が全滅になるので、(解答速報のページC11)にあるようなP/Lを作成し、ビジュアルで確認しながら、正確に、年々の正味現金流入額を計算して下さい。もう一つ、留意点として、問題文にある、「X04年~X09年の各年のキャッシュ・フローをX00年度末における現在価値に割り引く計算については、いったんX03年度末時点での現在価値に割り引いた上で、さらにその金額をX00年度末に割り引く計算方法を採用する。」という指示に忠実に従って計算する必要があります。この指示に従うと、一旦3年後を現時点として現在価値を計算し、さらに、これを3年後の現価係数0.794で現時点の価値に割引計算します。一旦3年後を現時点とすると、2度手間になって煩雑なように感じてしまいますが、問2以降の割引計算と整合性を持たせるためです。一旦3年後を現時点とはせずに、最初から現時点への割引計算を行うと、利用する現価係数が異なるため、作問者が予定している正味現在価値とは一致しなくなります。ここは、問題文の指示に忠実に従ってほしいところです。
問2でも3年後を現時点と仮定して計算しています。こういった計算は、企業価値の計算プロセスで学習しているので、受験生によっては手慣れた計算ということになりますが、企業価値まで手を広げていない受験生にとっては辛い問題だったかもしれないです。
問3までは、時間的に届かなかったと思いますが、復習用には手頃な問題なので、(解答速報のページC11~15)のタイムテーブルを利用して、金額の確認は行うようにして下さい。
問4の理論は、専門学校によって解答速報の内容は、バラバラです。なので、白紙答案でも大丈夫です。

以上です。