令和4年度第1回公認会計士短答式試験講評~監査論
今回の監査論は、専門学校間で解答速報が割れた問題もありましたが、全体としては例年並みかやや易しい難易度でした。少し考えさせる問題が増えてきているので、監査基準や監基報を読み込むような学習法よりも、規定の趣旨や目的、監査論的な考え方を意識してインプットする方が得点に結びつきやすかった気がします。以下、問題ごとに確認していきます。
問題1:財務諸表監査***
ア. 金商法監査対象であっても、一定規模以下の企業は「不正リスク対応基準」の対象外となるため誤りです。「不正リスク対応基準」の適用範囲についての正誤なので、制度論の知識で対応できましたが、やや細かい規定について問われた印象です。
イ. 監査基準の「意見の根拠」として示されている内容よりも、監基報700号の監査報告書の記載事項の方が詳細なので、監査報告書の記載例を活用してインプットする必要があります。監査人の独立性に関する記載事項もその一つです。
ウ. H14の監査基準の改正前文に記載されている内容です。有名なフレーズなので直ぐに正しいと判断できたと思います。
エ. H30年の改正監査基準で導入された「KAM」の趣旨である「監査の透明性を高める」「監査報告書の情報価値を高める」から考えれば、「企業や株主等が監査品質を評価する必要はない」が誤りと判定できたはずです。
問題2:コーポレートガバナンス***
ア. 監査役等と監査人は双方向のコミュニケーションが求められていることや、監査役等から監査人にもたらされる情報の有用性は、監査論全般で言及されているので、誤りと判断できたと思います。
イ. 監査人と財務諸表利用者のKAMを通じた議論がコーポレートガバナンスの強化につながるとは考えにくいので、誤りとなります。
ウ. 内部監査人の利用の観点からはインプットしていても、監査役等との間のようなコミュニケーションと同様には考えていないかもしれません。案外、正誤判断が難しかったかもしれません。
エ. 「ガバナンスに責任を有する者」の内容については、企業法の知識からも判断できたと思います。
問題3:公認会計士法**
ア. 収益額が10億円未満の有限責任監査法人については、計算書類の監査を要しないので、監査報告書の公衆縦覧も必要とされません。
イ. 品質管理基準と整合的でない業務管理体制の整備が求められていたら、その方が問題なので、正しいと判定できたと思います。
ウ. 監査法人の社員の競業には全社員の承認が必要です。
エ. 受験上、知らなくても問題ない知識です。
問題4:金商法監査制度***
ア. 監査証明の不受理の規定です。正しい内容ですが、細かいところまで正確に覚えておくのは難しいので、いったん△にして他の記述で判断するが吉でしょう。
イ. 守秘義務解除の正当な理由は重要論点ですね。
ウ. 法令違反等事実への対応も時系列で覚えておくべき論点です。被監査会社に通知して、それでも改善がない場合に内閣総理大臣に申し出ます。
エ. 臨時報告書の提出事由をどれだけ覚えていたか次第でした。監査人の異動も提出事由ですが細かい規定が問われた印象です。
イウの誤りが明らかなので、正答できたと思います。
問題5:金商法監査制度***
監査証明の要不要は頻出論点としてしっかりインプットしていたと思います。訂正内部統制報告書、臨時報告書、有価証券報告書の確認書には監査証明は不要です。
問題6:会社法監査**
企業法の知識も活用して正誤判断をします。ア.以外の正誤判断がつきやすいので正答率は高そうです。
ア. 定款変更の効力発生時に会計監査人の任期が満了するので解任決議は不要です。企業法の知識にも無かったであろう論点なので、正誤判断は難しかったでしょう。
イ. 会計監査人設置会社における、株主総会での計算書類の報告の特則は、その要件も含めて監査論での重要論点です。
ウ. 会計監査人の選任についての監査役等の関与規定も頻出論点です。監査役会設置会社ならば全員の同意までは不要です。
エ. 計算書類の監査対象範囲も重要論点です。
問題7:四半期レビュー***
ア. 四半期レビューに実証手続きが要求されないことは、頻出論点ですししっかり覚えていたと思います。
イ. 四半期レビューでも他の監査人の利用の場面で求められる事項は、監査と異なりません。確信は無くても他の記述の正誤が明らかなので、正答できたと思います。
ウ. 四半期レビューの計画は年度の財務諸表監査の計画の中で策定されます。これも、四半期レビューと年度の財務諸表監査との関係としてまとめておくべき内容の一つでした。
エ. 四半期レビューにおける継続企業の前提に関する記載は、状況ごとに場合分けして整理していたかと思いますが、この記述はそこまで詳しい内容では無いので、正誤判断は容易かと思います。
問題8:内部統制監査*
ア. 内部統制の評価範囲の決定は、内部統制監査制度の中では比較的重要な論点です。やはり原則規定は覚えた方がよいのかもしれないな、と思いました。
イ. 経営者の評価結果を利用する場合を除き、経営者の評価方法を具体的に検証する必要はありません。
ウ. ITにかかる全般統制の不備は、直ちに開示すべき重要な不備になるわけではありません。しかし、記述自体が理にかなっているように思えてしまうので、正誤の判断は難しい気がしました。
エ. 開示すべき重要な不備と是正措置、監査報告の関係は頻出論点なので、しっかり覚えていたと思います。
アの正しさに確信が持てれば正答できたと思うのですが、いかがでしょうか。
問題9:監査の品質管理**
ア. 監査契約の締結・更新に当たり、関与先の誠実性を検討することはわかっていても、そこに「主な株主の誠実性」が含まれるかまでは判断できなかったのではないでしょうか。
イ. 監査事務所の審査は監査の品質を高めるためのものなので、と考えれば、監査責任者からの専門的な見解の問い合わせもできてしかるべき、と判断できます。
ウ. 監査責任者が監査事務所内の適切な者に報告を行った結果、監査契約の解除以外の対処が監査事務所によって可能な場合もあることから、正しい記述になります。
エ. 監査上の判断の相違が解消しない限り、監査報告書は発行できないため、誤りです。
アウの正誤判断は難しくとも、イエの誤りが明らかなので、正答は難しくはなかったのではないでしょうか。
問題10:保証業務*
受験上スルーしてよい問題です。
問題11:監査の目的*
正答が割れた問題です。受験上は没問になると思います。
ア. 一般目的の財務諸表監査でも特別目的の財務諸表監査でも、監査である以上、保証水準は異なりません。
イ. 「二重責任の原則」についての規定の追加はH14年監査基準の改正点です。しかし、それ以前の監査基準に規定されていたことがあるため、「監査の目的」の規定と同時に新たに明記された訳ではありません。この点から誤った記述ともいえますが、そこまで古い改正点を引っ張ってくるか?とも考えられるので、正しい記述ともできなくありません。
ウ. 「一般目的と適正性」「特別目的と準拠性」の組み合わせが基本ですが、一般目的の財務諸表にも準拠性に関する意見表明は可能なので、正しいとなります。
エ. 一般目的の財務報告の枠組みを基礎にした特別目的の財務報告の枠組みが、必ずしも適正表示の枠組みに当てはまらないことがあるとされますが、「適正表示の枠組みである場合」と記述されているので、適正性に関する意見表明がなされます。
問題12:守秘義務***
アイ.監査契約締結前に得た情報も守秘義務の対象であること、監査人の交代時に守秘義務が解除されることは、文書での確認事項になります。
ウ. 監査人の守秘義務は、監査事務所退職後も解除されません。
エ. 監査人の利用する専門家にも守秘義務が課されます。
問題13:監査調書***
ア. 審査の内容・結論も監査調書に記載されます。
イ. 監査調書は「経験豊富な監査人が、その業務に関与してなかったとしても理解できるように」作成します。重要フレーズとして覚えていると思います。
ウ. 修正前の文書を残す必要はありません。
エ. 事後判明事実があった場合を想定すればよいでしょう。
問題14:監査計画***
ア. 被監査会社の協力体制があって監査が可能となります。不正リスクへの対処として予期しない監査手続きを行うことはありますが、監査計画について経営者と全く協議しないことはできません。
イ. 具体的な監査手続きの種類や範囲等は詳細な監査計画によって決定します。
ウ. 初年度監査であることを理由に監査計画について審査が求めらたりはしません。
エ. ITの利用から生じるリスクについては、リスク・アプローチの強化を趣旨とする監査基準改正(R4年4月~)に伴う監基報315号の改正で多く取り扱われている内容なので、フライング気味の記述です。
問題15:監査リスク***
ア. 重要性といえば、「量的=金額的重要性」と「質的重要性」ですね。
イ. リスク評価の場面で、事業上のリスクを生じさせる外部環境が固有リスクの評価に関係するため、金利や為替相場のような外部環境も検討します。
ウ.エ. 統制リスクの定義や、0とは評価できないこと、発見リスクを低くする監査上の対応は当然に覚えていたと思います。
問題16:監査手続***
ア. 事業譲渡での事業価値の検討は、専門家の業務を利用する可能性がある監査手続きですね。
イ. 残余期間については必ず実証手続きが必要です。
ウ. 「12ヶ月の母集団に対して一部の特定の月から抽出したサンプル」が「母集団内のすべてのサンプルに抽出の機会が与えられる方法」とはなっていないことに気づけたかどうかでした。
エ. 手続き実施上の重要性よりも少額の許容虚偽表示額を設定していれば、重要な虚偽表示を看過しないことになる、と思えれば正しいとできたと思います。どうしても個々の監査手続きの金額的重要性の判断は手続き実施上の重要性で考えがちなので、正誤判断しこねた方もおられるかもしれません。
問題17:会計上の見積りの監査**
この問題は、R4年4月期から適用の監基報540号から出題されているため、フライング気味の出題です。ただし、監基報の内容は変更というより詳細化・精緻化の側面が強いので、監査論的に考えれば正誤判断できなくもなかったと思いました。
ア. 不確実性を受ける程度や複雑性・主観性(固有リスク要因として整理されました)が非常に低いからといって、リスク評価まで行わなくてよくはならないだろうと思えれば誤りと判断できました。
イ. 「固有リスク要因」という概念が未知でも、リスク要因が高いにもかかわらず、職業的懐疑心の程度が変わらないことはないでしょう、と思えたかどうかです。
ウ. 改正前は「見積もりの不確実性が高い会計上の見積り」について「特別な検討を必要とするリスク」かどうか判断することが求められていました。記述にあるように、改正後も類似の判断が求められるのですが、特に「見積もりの不確実性が高い会計上の見積り」だから、という判断は求められなくなりました。
エ. 注記事項についての監査手続も明記されるようになりましたが、特別な手続きが求められる訳ではありません。規定されている監査手続きの内容は、従来と何ら変わりません。
問題18:監査報告書の記載事項***
ア. 表題の意義です。これは覚えていたと思います。
イ. R1年改正論点です。重要性を認めて除外事項とした場合に、かつ広範な影響があると判断するか否かで監査意見が異なるわけですが、この判断の根拠も意見の根拠として明記することになりました。
ウ. H30年改正論点です。経営者の財務諸表作成責任だけでなく、監査役等の責任が取締役等(経営者)の職務執行の監視責任であることが監査報告書上も明記されることになりました。
エ. R2改正論点です。その他の記載内容を含む報告基準の改正は、実施基準の改正に先行して適用になっています。「その他の記載内容」については、追記情報の「その他の事項」に含まれていたものが、「その他の記載内容」の区分が別途設けられることになりました。
問題19:意見不表明の原因事項***
アエは意見に関する除外事項の原因となります。
イ. 継続企業の前提に関する論点でもあります。経営者が「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象や状況」があるにもかかわらず十分な評価・対応策を示さない場合は、監査範囲の制約となり意見不表明の原因事項となります。
ウ. 記述の内容は未確定事項にあたり意見不表明の原因事項となります。
問題20:不正リスク対応基準***
アイエは、設定前文に記述されている重要論点ですので、しっかり覚えておきたいところです。
不正リスク対応基準が、ア. 不正リスクに対応する固有の手続きを追加するものでないこと、イ. 四半期レビューには適用されないこと、エ. 経営者の誠実性について中立的な観点を変更するものでないこと、です。
ウ. 不正の発見自体は監査人の目的とするところではありませんが、監査の過程で経営者不正を発見した場合には、その是正措置を求めていきます。
以上です。