第153回日商簿記1級 講評~会計学
今回の会計学は、理論の空欄補充問題は定番でしたが、計算問題としてボリュームのある連結会計が出題された点が例年になく、驚かれた方も多かったと思います。
以下、個別にみていきます。
理論+計算問題(空欄補充)
問題1は理論の空欄補充か正誤問題が定番ですが、今回は問題2で連結会計の大きな計算問題が出題されたせいか、ここに簡単な計算問題も含まれていました。
1.デリバティブの種類についての空欄補充です。「先渡取引」が空欄だったなら難しかったでしょうが「オプション取引」ですから埋められたと思います。
2.税効果会計において、純資産の部に直接計上される時価評価差額についての税効果は、法人税等調整額とは関係しないことを簡単な計算を絡めて問われました。普段から法人税等調整額を期首と期末の繰延税金資産・繰延税金負債の差額として算定する練習をしていれば迷いなく計算できたと思います。
3.資産除去債務の計算に関する空欄補充です。減価償却費は期首の帳簿価額を残存耐用年数で割るだけ、利息費用は期首資産除去債務に割引率を乗じるだけです。
4.概念フレームワークからの出題でした。まあ、日商簿記の場合はできなくてもよいジャンルかなと思います。
5.セグメント情報についての開示内容が問われましたが、ちょっと細かすぎる内容が問われた印象です。会計士短答式試験で問われたとしてもできなくて仕方ないレベルです。
連結会計
連結B/Sの作成と「親会社株主に帰属する当期純利益」、「包括利益」を計算する問題でした。「親会社株主に帰属する当期純利益」は、当期利益に影響する連結修正仕訳が全てできていないと正解できませんし、「包括利益」も「親会社株主に帰属する当期純利益」を出発点とするので、この2つの正解率はかなり低いはずです。「正解できれば儲けもの」くらいの感覚で解くべき問題です。
それに対して、連結B/Sは、「資本剰余金」、「利益剰余金」以外を正解しておきたいです。本問の場合、アップストリームの成果連結がないので、「非支配株主持分」は、資本連結のタイムテーブルを利用すれば、簡単に正解できます。
本問の主な論点は、① S社株式の取得関連費用の個別上と連結上の取扱いの違い、② S社の償却資産と非償却資産について時価評価を行った場合の調整仕訳、③ その他有価証券評価差額金がある場合の子会社株式の一部売却の3つです。
①: 個別上はS社株式の取得原価に算入しますが、連結上は取得時の費用とします。従って、取得関連費用の金額だけ利益剰余金を減額する連結修正仕訳を行います。
②: 本年度の会計士論文式試験でも問われていました。連結会計上、S社建物の簿価を5,000増加させたので、これを5年で償却します。S社の当期純利益が変動するので、アップ・ストリームと同様の調整が必要になるところがポイントです。
③: 支配獲得後のS社の「その他有価証券評価差額金増加額5,000」×80%=4,000をP社持分に取り込んでいるので、S社株式の売却割合に応じて、取り込んだ4,000のうち20/80を非支配株主持分に振り替える必要があります。
これら3つの処理を中心に、解説に示したように、19個もの連結修正仕訳が必要となります。40分程度で解くのは、かなりきつかったのではないでしょうか。
PS
連結会計は、本問ぐらいのボリュームで、かつ良質な総合問題をたくさん解かないと習得できません。総合問題30問を毎日1問ずつ解くといったローテーションを繰り返してみて下さい。半年後には、連結会計が得意分野になっているはずです。