令和3年度公認会計士短答式試験~講評~管理会計論

3科目の講評は管理会計論です。「今までで一番難しかったのではないか」といった声も聞かれますが、個人的には、問題1を除いて、「全体としてはバランスの良い出題だった。」という印象です。というのは、計算に関しては、「時間をかけても解けないレベルの難問」は出題されておらず、難しいとされている問題も、ある程度時間をかければ正答できるレベルでした。「時間をかけても解けないレベルの難問」が出題されても、点数に差がつきませんが、今回レベルの問題だと、普段から成績の良い受験生と、そうでない受験生とで、点数にきちんと差が出るので、努力している受験生にとっては、ありがたい本試験だったはずです。では、以下で問題毎に講評していきます。図や計算式を用いた解説は、以下のURLからご覧いただけます。

令和3年 公認会計士 短答式試験 解答速報

問題1:理論-原価計算基準

原価計算基準は、毎回2~3問出題されます。基準については、大量の過去問を解くよりは、原価計算基準の穴埋め問題集を繰り返す方が効果的です。今回は、誤った文章が3つあったので、没問です。管理会計論の没問はよくあることなので、気にしないようにしましょう。

問題2:計算-費目別計算~労務費の計算***

費目別計算(労務費の計算)からの出題です。直接工賃金勘定の作成方法を中心とした問題です。間接工に支払われた残業手当を当月支払額に含める計算が目新しいくらいで、あとは、過去に出題されている論点ばかりなので、必ず得点したい問題です。費目別計算は、毎回のように出題される分野なので、FINでは、どの専門学校よりも詳しい講義を行っています。

問題3:理論-原価計算基準***

基準の31~33が問われましたが、このあたりの基準は頻出されているので、十分に対策していたと思います。基準からの出題でも、難易度の高いものもありますが、本問は易しい部類です。まず、イ.が誤りですが、個別原価計算が連続生産を前提にするものではなく、個別生産を前提にする方法であることはあまりに基本的な論点です。また、エ.は「直接費を配賦する」という内容なので、誤っていることはすぐに判明したはずです。確実に正答したい問題です。

問題4:計算-個別原価計算~穴埋め**

過去問で類題が出題されていますが、過去問の方が難しい問題でした。分割納入の論点も含め、講義でしっかり対策していた問題です。

問題5:理論-総合原価計算の方法**

初見の問題パターンですが、第2工場が要改善であることはすぐに分かるので、難易度は中程度でしょう。よく、「見たことのないパターンの問題は捨てろ」といわれますが、捨てるにはもったいない内容の問題です。
第2工場では、等級品I・Jに対して、正常市価基準による等価係数を用いた負担能力主義による計算が行われていますが、等級品に対しては、生産技術上の等価係数を設定し、価値移転的原価計算を行うべきです。また、第3工場では、原料費と加工費を各製品組に配賦計算を行っていますが、組直接費については、各製品組に直課する計算を行うべきです。
従って、原価計算システムを改める必要のある工場は、第2工場と第3工場です。

問題6:計算-連産品**

読解力が試される問題でした。一見したところ、連産品Bの正常販売価格が与えられておらず、戸惑いますが、「製品Aについてのみ正常販売単価の 10%相当の売上値引を行った。」とあるので、「製品Bについては、正常販売単価のまま販売した。」と裏読みできます。つまり、連産品Bの実際販売単価70千円/kgが正常販売単価でもあると想定します。ここまで解れば、普段から計算を反復練習している受験生は、難なく正解できたはずです。

問題7:理論-標準原価計算制度***

「インプット法・アウトプット法」と「パーシャルプラン・シングルプラン」に関しては、繰り返し繰り返し出題されてるので、充分に対策ができているはずです。今回は、ウとエが明らかに誤りなので、正答しやすい問題でした。

問題8:計算-配合差異・歩留差異***

配合差異・歩留差異の計算ですが、期首と期末の仕掛品が存在しないので、最も簡単な計算パターンです。

問題9:理論-管理会計の基礎知識*

ア.のPPM、イ.の価値連鎖、ウ.の計算モデル、エ.のCVP分析のいずれも、FINでは、講義で取り扱っていますが、一般的な専門学校では、ア~ウは学習範囲に入っていないようです。従って、正答可能性は「低い」と予想します。

問題10:理論-財務情報分析**

ウ.の生産性分析は、かつては試験範囲に明記されていましたが、現在では除外されています。そういった経緯を知らない試験委員が2回連続して出題したと考えられます。これは試験範囲外なのでできなくても構いませんが、ア.の「誤り」とイ.の「正しい」は確実に判定できてほしいです。ア.とイ.だけで、選択肢を2つにまで絞れます。エ.の財務レバレッジの計算公式も講義でしっかり解説していますが、受験初年度の受験生には辛かったかはずです。受験2回目以降の受験生は、是非覚えておいてほしいところです。

問題11:計算-最適セールス・ミックス**

一般的な専門学校では、「この問題はできなくても大丈夫」という位置づけになっています。しかし、この手の問題が難解であることは希で、簡単に解けるように作問者が工夫してくれているはずです。そう信じて解き始めれば、正解への糸口が見えてきます。

問題12:理論-予算管理***

予算管理に関する正誤問題は、頻出されており、近年では、過去問と似通った出題が多くなっています。受験生としては、充分に対策して、高い確率で正解したい分野です。

問題13:理論-資金管理***

資金管理の分野は、計算問題として出題された場合は「捨て問」となることが多く、理論問題として出題された場合でも、正解率が50%程度の難易度となることを想定しておくべき論点です。ただし、本問はア.とイ.が「誤り」であることが明らかなので、易しい問題です。

問題14:計算-事業部制組織の管理*

逆算の計算パターンであることはすぐに解ります。そして、投下資本利益率と残余利益の計算公式も覚えているはずなので、計算パズルや詰め将棋が好きな人には比較的短時間で正答できる問題です。しかし、公認会計士試験の受験生は、文系の方が多く、逆算問題になると、正答率がガクンと落ちる傾向にあります。そういった傾向を頭に入れて、解くべき問題か、回避すべき問題かを瞬時に判断できる受験生は本番に強いです。

問題15:計算-業務的意思決定*

自製か購入かに関する業務的意思決定問題です。受験校の講師なら誰もが知っているような古典的論点を寄せ集めて作成した問題です。講師は難なく正解できますが、受験生には解きづらいと思います。
意思決定は未来に向けて行われるため、「過去に多額の支出を行っているから、方向転換するのはもったいない。」といった考え方は捨て、「自製すれば新たに発生する原価」と「購入すれば新たに発生する原価」を資料から抽出して比較します。逆に、「自製しても購入しても発生額が変化しないもの」は、積極的に意思決定の対象から除外して下さい。 また、自製した場合の「あきらめる利益」や「あきらめる原価節約額」が資料に与えられている場合には、これらの金額を自製案のコストとします。具体的な論点は、大学の先生が自著で紹介している計算パターンをそのまま組み合わせて作問されています。計算量は少ないですが、初見の受験生には解けません。今回出題されている特殊な論点を答練などで目にしたこともあるベテラン組は、8点のアドバンテージを獲得できたことでしょう。

問題16:計算-設備投資の経済計算**

単純投資利益率と割引回収期間が問われました。年々のキャッシュフローの計算は、よくある問題パターンなので、すぐにできます。従って、タイムテーブルの作成までは、スムーズにできたはずです。タイムテーブルを利用した単純投資利益率と割引回収期間も講義でしっかりと解説していますが、それでも、前者は出題実績に乏しく、後者は計算に時間がかかるため、正答率はそれほど高くないはずです。この7点を取れるレベルの受験生を目指したいところです。