論文式試験への心構え~企業法
論文式本試験では、合格発表とともに、作問者による「出題の趣旨」が公表されます。司法試験受験生ではなく、公認会計士試験受験生に過ぎない我々に対し、試験委員の先生が、どの程度の答案を要求しているかが分かるので、この機会に「出題の趣旨」をご一読ください。なお、簡単化のため、問題文は大幅に要約しています。
2018年~第1問
問題1
代表取締役Aが甲会社に対して有する5,000万円の金銭債権を出資して募集株式を引き受けた。
このとき、本件債権の弁済期が到来している場合と、まだ到来していない場合とに分けて、Aが本件債権を出資するために経るべき会社法上の手続について,説明しなさい。
試験委員による出題の趣旨!
本件債権の出資は現物出資に該当するため、会社法207 条の手続を検討することとなる。
本件債権の弁済期が到来していれば、現物出資財産の価額(会社法199 条1項3号)は当該債権に係る負債の帳簿価額(券面額)と同額に定められているから、会社法207条9項5号により、同条の手続は不要である。
弁済期が未到来の場合には、原則として同条の手続が必要となるため、検査役の選任、調査が必要となる。もっとも、専門家の証明を受けた場合には、手続は不要である。
(感想)
現物出資なので207条から読み始めて、同条9項5号は早い段階で見つけることができます。そこから、条文に沿って199条1項3号に言及する流れはごく自然です。あとは、手続きが2つに分かれている理由を、その場でひねり出す、というのが作問者が要求する必要最低限ということになります。
問題2
代表取締役Aが主導する形で、取締役Bが仮装払込みを行った場合、AとBは会社に対してどのような責任を負うか。また、Bは引き受けた株式の議決権を行使しうるか。
試験委員による出題の趣旨!
Bの払い込んだ金員は甲会社を出所とするものであり、Bは実質的には経済的な出捐をしたということはできず、甲会社も経済的な給付を受けたということはできないから、出資の履行は仮装によるといえる。
そのため、Bは会社法213条の2第1項1号に基づく責任を負う。また、Aは当該出資の履行の仮装に関与した取締役に当たり、そのことについて職務を行うについて注意を怠らなかったとはいえないから、Aも甲会社に対して責任を負い(会社法213条の3第1項)、BとAの責任は連帯する。
このとき、会社法209条2項によりBはその引き受けた株式について株主の権利を行使することが制限され、BまたはAが上記の責任を甲会社に対して果たすまでは、Bは50株について株主総会で議決権を行使することができない。
(感想)
まず、本問の事例が仮装払い込みにあたるかを、丁寧、かつコンパクトに検討することが要求されています。あとは、典型論なので、213条の2、213条の3、209条2項を挙げることはできたはずです。
2019年~第2問
問題1
業績が低迷している丙会社は,丁会社の傘下で経営再建を図ることを考え,丁会社を株式交換完全親会社,丙会社を株式交換完全子会社とする株式交換契約を丁会社との間で締結することとした。
丁会社において本件株式交換契約について株主総会の承認決議を要しないとされるのは,会社法上どのような場合であるかを説明しなさい。
試験委員による出題の趣旨!
いわゆる簡易株式交換について問うものである。本件株式交換契約が簡易株式交換にあたる場合について、丁会社と丙会社が公開会社であること、対価として交付する金銭等の額等の要件について指摘した上で解答することが求められる(会社法796 条2項)。
(感想)
条文の探索能力を問う問題です。条文が見つけられないと、合格点には絶対に届かないので、ヒントを頼りに探し当てる必要があります。
まず、原則は株主総会の特別決議による承認が必要とされているはずなので、309条2項12号から答案を作り始めます。
次に、「株式交換」ということなので、第5編743条以下を見にいって、第4章767条以下の株式交換、第5章775条以下の株式交換の手続へ。でも、まだ見つかりません。徐々に焦りますが、さらに、第二款 株式交換完全親会社の手続の794条以下へと進んで、796条第2項の「5分の1基準」にたどり着くことになります。796条は「吸収合併等」をワードを使っているので、普段から、論証例や答練を利用して、自分で条文を探索する習慣がないと、時間的に厳しかったはずです。
あとは、例外的に796条第2項の規定が置かれている趣旨をひねり出して、記述する必要があります。例外規定が置かれている趣旨の記述がない答案は、採点者を落胆させることになるので、必須です。
問題2
丙会社の発行済株式総数の100分の5に相当する株式を有する戊会社は、本件株式交換契約に関する株主総会決議での賛否の判断材料にするとの請求理由を明らかにした上で、丙会社に対し、帳簿の閲覧を請求した。戊会社の完全親会社が丙会社の業務と実質的に競争関係にあり、戊会社と一体的に事業を営んでいる場合,丙会社は,戊会社による本件帳簿の閲覧請求を拒むことができるかを論じなさい。
試験委員による出題の趣旨!
会計帳簿の閲覧等の請求に関する問題である。解答にあたっては、まず、戊会社が当該請求の要件を満たす株主に該当するか、請求対象の特定が適法になされているか、請求理由を明らかにしているか等について検討することが求められる(会社法433 条1項)。
その上で、会社法433 条2項3号の要件に照らし、丙会社が戊会社の請求を拒むことができるかについても検討しなければならない。この検討に際しては、丙会社と戊会社が異なる事業を営んでいることを指摘した上で、戊会社の完全親会社が戊会社と一体的に事業を営んでおり、当該完全親会社の事業が丙会社の業務と実質的に競争関係にあるという事実を踏まえる必要がある。
(感想)
要件への当てはめ問題です。ピタリと当てはまらないときは、立法趣旨に立ち返って判断する、典型的な法律答案を作成させる問題です。
論証例や答練を数多くこなしていると、皆が美しい答案をスムーズに作ることができるようになるので、あまり差がつかない問題パターンです。
最後に・・・
① 本格的な法律家である採点者にとって、会計士受験生の作成する答案は、かなり物足りないと感じるらしく、高得点はつけてもらえないそうです。高得点を狙いにいくよりも、大きな失点をしない答案作りを心掛けましょう。
② 試験委員の先生は、「出題の趣旨」において、条文番号を「会社法199 条1項3号」と記述しています。受験生が「199Ⅰ③」といった略した書き方をすると、印象が悪くなるおそれがあります。
③ 「出題の趣旨」を読む限り、「要件への当てはめ」、「結論へのロジック」が丁寧にできているかが重要視されているようです。
専門学校では、画一的な採点が採点スタッフに要求されるため、判例以外の結論、少数説の結論を選択すると、ひどい点数になってしまいますが、本試験では、結論に到るプロセスをしっかりとみてもらえると信じて、結論よりもプロセス重視でいきましょう。
企業法の心構えは以上です。
資格試験のFIN