公認会計士論文式試験 平成29年度 講評~第4回

第2問

第2問の問題1は、設問の設定がやや不自然で、専門学校によって、解答が分かれています。本試験中に迷ってしまった受験生も多かった思います。問題2は、移転価格の設定が出題されています。初見ですが、結果的には解きやすい問題でした。

また、今回は、理論の解答スペースが少なく、上手にまとめるのに、苦労されたのではないでしょうか。

 問題1:設備投資の経済計算

問題を見た瞬間、「また、キャッシュフロー計算書か?」と思いましたが、実は、設備投資の経済計算でした。設備投資の経済計算を解く際には、「受講生皆が苦手にする論点」であることを念頭において、じっくり、ていねいに解き進めるようにして下さい。本問は、各代替案の正味現在価値を計算するだけなら、簡単ですが、クセのある誘導問題になっていて、「何を答えればいいのか、迷う問題」です。

 

問1,設問1:[当初案]と[代替案1]との比較

資料からタイムテーブルは容易に作成できます。

しかし、問題文の[代替案1](注5)に「税引後資本コスト率6%を適用しており、平成29年度末の設備投資支出にも適用される」旨の記載があり、手が止まってしまったと思います。

主要4校のうち、3校は「平成29年度末の設備投資支出にも適用される」旨の記載を無視して模範解答を作成しています。過去に何度も作問ミスを経験しているので、私も最初、無視していましたが、全体を通してよく読んでみると、問1の設問1だけ、平成28年度末を現時点として正味現在価値を計算し、問1の設問2以降は、平成29年度末を現時点で計算するのが、「作問者の設計」したところかな、と考えるようになりました。馴染めないですが、ここでは、「作問者の設計」に従って、解答を作成しています。

⑴[代替案1]▲990/1.06  + ※ 349.8/1.06² + 349.8/1.06³ +349.8/1.06  = ▲934 + 311 + 294 + 277 = ▲ 52
※ 349.8 = 税引前収支差額 363×(1-0.4)+ 減価償却費 330×0.4 (又は、売上1,762-製造支出1,189-販売管理支出210-法人税支出13.2)

⑵「当初案] ▲990/1.05  + 499.8/1.05² + 550.2/1.05³ + 649.8/1.05 = ▲943 + 453 + 475 + 535 = 520

∴ ▲52 - 520 = 572 → 当初案の方が 572百万円有利である。

 

問1,設問2:[代替案1]と[遊休案]の比較

ここからは、平成29年度末を現時点とします。

[代替案1]▲990  + 349.8/1.06 + 349.8/1.06² +  349.8/1.06³ = ▲990 + 330 + 311 + 294 = ▲ 55
[遊休案] ▲990  + ※ 132/1.06 + 132/1.06² + 132/1.06³= ▲990 + 125 + 117 + 111 = ▲ 637
※ 132 = 減価償却費のタックスシールド 330×0.4

∴ ▲55 - ▲637 = 582 → 代替案1の方が 582百万円有利である。

また、本問の場合、初期投資額、および減価償却費のタックスシールドは、[代替案1]でも[遊休案]でも計上されるため、埋没原価となり、考慮する必要がないことになります。

このような考え方で、[代替案1]の正味現在価値を計算しても同じ結果が得られます。
[代替案1] ※ 217.8/1.06 + 217.8/1.06² +  217.8/1.06³ = 205 + 194 + 183 = 582百万円
※ 217.8 = 税引後収支差額 363×(1-0.4)

 

問2:[代替案1]と[代替案2]と[代替案3]の比較

各代替案のキャッシュ・フローを比較してみましょう

(現時点) (1年後) (2年後) (3年後)
[代替案1] ▲990 350 350 350
[代替案2] ▲990 380 380 380
[代替案3] ▲990 410 410 410

※1 税引前収支差額 363×(1-0.4)+ 減価償却費 330×0.4 = 349.8 → 350百万円
※2 税引前収支差額 413×(1-0.4)+ 減価償却費 330×0.4 = 379.8 → 380百万円
※3 税引前収支差額 463×(1-0.4)+ 減価償却費 330×0.4 = 409.8 → 410百万円

各代替案のキャッシュ・フローを比較すると、初期投資額が等しく、かつ、毎年のキャシュ・フローも同額であることが分かります。従って、代替案の選択にあたっては、各年のキャッシュフローだけを比較すれば良いことになります。ただ、参考事項ですが、減価償却費のタックスシールドも同額で埋没になることを考慮すると、各年の税引前収支差額だけを比較した方が、より簡便といえそうです。