公認会計士論文式試験 平成29年度 講評~第4回

 問題2:内部振替価格・移転価格の設定

全部原価計算方式による損益計算書を与えておいて、内部振替価格を算定し、操業度差異を予算原価を使って、各事業部に配分するという問1~問4までの流れは、2002年の本試験問題と全く同じです。問5は、初見になるので、捨ててしまった受験生が多いと思います。結果的には、問5も難しくなかったですが、それは結果論ですから、本試験での対応とすれば、捨てて、他の問題の見直しをするのが賢明だったと思います。

 

問1:内部振替価格の設定

全社の営業利益 600万円を各事業部の予算原価の比 1,800万円:600万円で按分します。製造事業部の営業利益は、450万円となるので、これに製造事業部の予算原価 1,800万円を加えれば、販売事業部への売上高 2,250万円が計算でき、これを販売数量 3,000個で割れば、内部振替価格は、7,500円/個となります。

 

問2:操業度差異の計算

全部原価計算方式を採用しているので、予算の販売量 3,000個よりも実際の販売量が少なければ、操業度差異が発生します。生産量基準を用いると、その金額は以下のように計算できます。

(1) 固定費率: 固定製造原価 9,000,000円÷ 3,000個 = @3,000円/個

(2) 操業度差異: @3,000 ×(2,400個 - 3,000個)= △ 1,800,000円(不利差異)

 

問3:操業度差異配賦後の各事業部の営業利益

製造事業部:(@7,500-@6,000(※1))× 2,400 - 操業度差異 1,350,000(※2)= 2,250,000円

販売事業部:(@10,000-@7,500)×2,400 - 2,550,000 - 2,460,000- 操業度差異 450,000(※2)= 540,000円

(※1)単位あたり全部原価 = (9,000,000+9,000,000)÷ 3,000個 = @6,000円/個

(※2)操業度差異 1,800,000 ÷ 予算原価全体(9,000,000+9,000,000+3,000,000+3,0000)× 製造事業部の予算原価(9,000,000+9,000,000)= 1,350,000円

(※3)操業度差異 1,800,000 ÷ 予算原価全体(9,000,000+9,000,000+3,000,000+3,0000)× 販売事業部の予算原価(3,000,000+3,000,000)= 450,000円

 

問4:操業度差異を各事業部に配分する理由

本問の場合、市況の悪化という管理不能な外部要因によって、生産量が予算よりも減少し、操業度差異が発生しています。これを製造部門だけに負担させるのは、事業部の公平な業績評価の観点から問題があるため、販売事業部にも負担させることになります。管理不能なコストということで、発生原因に沿うような合理的な配賦基準はありません。従って、負担能力に応じて配賦せざるを得ず、本問では、予算原価の比で按分しています。予算原価に応じて利益が計上されるように、内部振替価格を設定しているので、予算利益の金額に応じて負担させていると考えることもできます。

 

問5、設問1:移転価格の設定 ~ 法人税のみ考慮した場合

グループ全体の法人税額を抑えるためには、法人税率の低い日本に所得を集中すべきです。そのためには、移転価格を高く設定する必要がありますが、移転価格の上限が@2,730円/個に設定されているため、@2,730円/個が移転価格となります。

問5、設問1:移転価格の設定 ~ 法人税と輸入関税を考慮した場合

(1) 全部原価(@2,100)を移転価格とした場合のグループの税引後利益

Z社:(@2,100-@2,100)× 4,000個 ×(1- 0.4) = 0円

Y社:(@3,150-@2,100×1.15)× 4,000個 ×(1- 0.45)= 1,617,000円

∴ 0 + 1,617,000 = 1,617,000円

(2) 設問1の移転価格(@2,730)とした場合のグループの税引後利益

Z社:(@2,730-@2,100)× 4,000個 ×(1- 0.4) = 1,512,000円

Y社:(@3,150-@2,730×1.15)× 4,000個 ×(1- 0.45)= 23,100円

∴ 1,512,000 + 23,100 = 1,535,100円

問5,設問3:移転価格の選択

設問2の結果から、移転価格を全部原価 @2,100とした方が 81,900円(=1,617,000-1,535,100)だけ税引後利益が増加します。

一応、確認しておきましょう。

移転価格を @2,730から @100引き下げると、まず、法人税率が5%高いX国に所得が移転することから、@100×4,000個×5%= 20,000円だけ税負担が増加します。その一方で、移転価格の引き下げにより、輸入関税の負担が減少することから、@100×4,000個×15%×(1-0.45)= 33,000円だけ税負担が減少します。つまり、移転価格を@100引き下げるごとに 13,000円(=33,000-20,000)だけグループ全体の税負担が減少することになります。

今回は、@2,730から @2,100へ @630の引き下げを図ったので、13,000円×6.3= 81,900円だけ、グループ全体の税負担が減少したことになり、先の計算結果と一致します。


以上です。