第68回(平成30年)税理士試験 講評 第1回-財務諸表論
受験生の皆様、酷暑の中の本試験、本当にお疲れ様でした。順次、解答・解説と講評をupしていきたいと思います。
まずは財務諸表論からです。
第1問
計算問題のように見える問題もありますが、全体として理論問題です。まず、純資産の部関連の5択問題が4問出題されました。どれも簡単でした。例えば、(4)の自己株式の期末評価を改めて問われると、不安を感じたりするかもしれませんが、ご存じのように取得原価評価(再評価なし)です。
次に連結会計について、5択問題が3問と記述問題が1問出題されました。5択問題は、連結対策を放棄していた方以外は10秒で解けました。記述問題は、連結財務諸表の開示理由が問われました。一言でいえば「投資家の情報ニーズに応えるため」ですから、その背景に言及しつつ似通った内容が記述できれば配点があると思います。
第2問
概念フレームワークを中心とした空欄補充問題や記述問題です。空欄補充問題は、8割以上は埋められそうです。
保有目的別評価についての記述問題は、有価証券の保有目的別評価を念頭に、資産一般についてあてはまるように意識して記述する必要があります。適用モデルの名称も問われていますが、これはスルーしてよさそうです。負債の評価についての現象の名称も同様です。
減損会計の割引率についての記述問題では、リスクを含むレートを使用できる理由が問われました。比較として指摘されている資産除去債務の割引率がリスクフリーレートである理由は押さえていても、将来キャッシュフローの見積りが実際と乖離するリスクを割引率に考慮する理由ははっきりとは確認できていなかったのではないでしょうか。会計基準等でも特に記述がなかったと思うので、仕方ないと思います。そもそもの減損会計が、資産の収益性の低下を反映するための処理であることから、企業固有の事情(リスク)を考慮すべきと思い至れば、書けることもあったでしょうか。
退職給付会計の期間定額基準についての記述問題は、多くの受験生が対策している論点の一つでしたから、大きく外さない答案が書けたと思います。
第3問
今回の総合計算問題は、例年より分量も少なめで、内容的にも容易でした。簿記論のボリュームがえげつなかったのを考えると「試験時間を分けてあげたい」と思わずにはいられません。以下、気になった点を指摘していきます。
売上債権については、電子記録債権については丁寧な指示があり、迷うことはなかったでしょう。貸倒引当金は、前T/Bの貸倒損失について①当期発生分の貸倒れなのか、②期首債権の貸倒れが貸倒引当金と相殺できていないのか、少し迷いますが、販管費明細の内訳に貸倒損失がないので、期首債権の貸倒れと判断して処理していく方が良いでしょう。
有価証券について特に難しい内容はありませんでした。自己株式の資料は注記情報で必要になるものでした。
無形固定資産では、ソフトウェアの利用可能期間の見直しが当期末になされています。これは当期の減価償却ではなく翌期の減価償却に影響するという小さなトラップですね。
借入金のシンジケートローンとは、規模の大きな資金調達に対して複数の融資先(銀行団)が同一の契約書・同一の条件で協調融資を行うことです。しかし、この意味が分からなくとも、指示がしっかりしていますから、問題なく解けたはずです。
税効果会計では、繰延税金資産の流動・固定分類が求められました。会計基準が変更になりましたから、今後はすべて非流動項目になります。
今回は計算をそうそうに終わらせて、記述問題に時間を割く余裕があった方も多かったのではないでしょうか。ですから、合格ラインは70%に近くなりそうです。
以上です。