第152回 日商1級 工業簿記・原価計算 講評
工業簿記・原価計算 ~ 第152回 日商1級
解答・解説については、以下をご参照下さい。
解答解説(152回)~ 工業簿記・原価計算
1. 出題分野
工業簿記:
第1問: 非累加法を含む工程別総合原価計算
第2問: 材料の外注加工 ~ 無償支給と有償支給 ~ 不合格品あり
原価計算:
資金管理を含む予算編成
2. 各設問に対する感想
工業簿記:
第1問:
(1) 工業簿記の第1問が製造間接費の簡単な差異分析から始まるので、最初から順に解答するのが良かった。
(2) 次に、材料勘定を確りと作成しないと、総合原価計算に取りかかることができませんでした。材料消費価格差異(貸方差異)は、材料消費価格差異勘定では「貸方」に計上されますが、材料勘定では「借方」に計上されます。それと、帳簿棚卸高と棚卸減耗費の資料が与えられていましたが、予定価格で評価した材料費を計算するにあたっては、棚卸減耗費の資料は不要です。よく分からない方は、解答・解説の2ページ目の材料のボックス図をご参照下さい。この2点をクリアできないと、連鎖的に大きく失点します。
(3) 第1工程は、終点発生の正常仕損費を完成品にのみ負担させる計算パターンで、(2)の材料費の計算さえクリアできれば、正解できたはずです。
(4) 第2工程は、平均発生の正常減損費を非度外視法で完成品と期末仕掛品の両者に負担させます。平均発生なので、加工進捗度を考慮した追加配賦割合になります。
(5) 問4で、4つの正誤問題が出題されていますが、特に難しい問題は含まれていませんでした。③の記述中にある「正常減損費」は誤りで、正しくは「正常仕損費」のはずです。第150回の商業簿記に引き続き、2回連続の作問ミスです。日商の試験は、ほとんど作問ミスがないので、珍しいです。
(6) 問5で非累加法(累加法と計算結果を一致させる方法)が問われました。会計士試験でも長期間、「非累加法」は問われていなかったので、久々に解きました。非累加法によれば、完成品原価に占める各工程費の内訳情報が得られます。本問では、「累加法と計算結果を一致させる方法」で解答する必要があるので、「累加法と同じ計算結果となるためには、どのように計算すれば良いか」ということを、常に念頭に置きつつ、慎重に計算していく必要がありました。
第2問:
(1) 材料の外注加工に関する勘定記入の問題ですが、結局は、仕訳ができるかどうかです。
(2) 論点としては、無償支給と有償支給、それぞれの場合の不合格品の処理ということで、4パターンの仕訳が行えるかが問われました。FINでは、公認会計士の短答対策用テキストを使用するので、4パターン共に図解入りで解説講義を行っていますが、あまり威張れたことでもありません。ここで、一橋大学系の学者が要求する仕訳は、非常に癖があります。そもそも仕訳は、辻褄が合っていれば自由に行っていい(経理自由)はずのもので、「癖のある仕訳を受験生に強制するのは如何なものか。」と思っています。なので、会計士の短答答練では出題しますが、日商1級の答練では出題しないようにしている論点です。
(3) まず、無償支給のケースからですが、これは材料支給時に、「材料勘定から仕掛品勘定へ材料原価部分を振り替える方法」と「振り替えない方法」があります。答案用紙の勘定と「通常の出庫票を発行した。」という記述から前者の方法だと判断して仕訳を行います。
(4) 無償支給の材料が外注加工後に当社に戻ってきた際に、合格品を一旦部品として受け入れるのか、そのまま現場に投入するのかによって処理が異なります。本問では、「直ちに製造現場に引き渡した。」とあるので、外注加工賃部分を直接経費として仕掛品勘定に計上します。← 解答解説6ページ目の5/18の1行目の仕訳です。
(5) 無償支給のケースの不合格品については、材料原価部分を当社が、外注加工賃部分は外注先が負担します。これも一橋系の学者が要求してくる癖のある仕訳ですが、受験生としては従わざるを得ません。不合格品の材料原価部分を「製品の生産上やむを得ないコスト」として、一旦、製造間接費勘定に振り替えます。← 解答解説6ページ目の5/18の2行目の仕訳です。
(6) 次に、有償支給のケースを解説すべきところですが、長くなってしまうので、ポイントだけ紹介します。有償支給の場合は、外注先に材料を売って、外注加工してもらったものを買い戻すわけですが、売上と仕入を両建てで計上することは制度上、認められていません。なので、「材料交付差益」を使用します。もう一つのポイントは、買い戻した材料は、原価10,000円の材料に3,000円分の加工価値が追加されたので、合格品は13,000円で評価します。一旦、15,000円で受け入れますが、2,000円を減額して材料(部品)の購入原価を13,000円とします。← 解答解説6ページ目の5/27の1つ目の仕訳です。
(7) 問2では、B社に支払うべき金額が問われています。有償支給の場合、材料を外注先に売って売上債権が発生し、外注先から部品を買い戻して買入債務が発生します。@12,000円で400個販売して、@15,000円で397個買い戻して、さらに、不合格品分の売上債権@12,000×3個の債権放棄を行います。
(8) この分野に関しては、本試験で出題されて受講生が完答できたとしても威張れるようなところではありません。また、自分たちが構築した世界をそのまま本試験で出題している作問者も褒められたものではありません。ただ、本試験で出題される以上、専門学校として、これからも淡々と丁寧に講義は行っていきます。
原価計算:
工業簿記で出題された非累加法や外注加工ができてしまった受験生は、おそらく工業簿記で1時間近く消費してしまったのではないでしょうか。
残り35分程度で、本問が解けるかというと、解けます。
資金管理を含む予算編成の問題ですが、資金管理が絡むのは問2と問3だけです。まず、方針として、問2と問3以外、特に問5は解答箇所が多く配点も期待できるで、これらを得点しにいきます。直接標準原価計算による予算編成なので、10分~15分で問2と問3以外は解答できます。
そうすると、問2と問3に20分近く使えるので、残った体力と気力をふり絞って、この2問に集中できれば、原価計算の完答も夢ではなかったと思います。
現金残高の計算では、(5)の固定費と減価償却費の資料ではなく、(6)の予想現金支出の資料を利用すれば良いのですが、ここが上手に判断できたかが正否のポイントとなりました。
3. 全体的な難易度
いつもよりも、やや難しかったです。
工業簿記の第1問は、材料費の計算ができなければ大きく失点しますし、非累加法も第1工程加工費の計算は、非累加法の本質が理解できていないと解けません。問2は外注加工の仕訳を覚えていなければ手も足も出ません。
原価計算は問2、問3以外は簡単ですが、それだけでは合格ラインに及びません。
4. 153回に向けて
152回は特殊な論点が出題されました。今回、合格点に届かなかった方は、スタンダードな問題から学習を再開して、少しずつ隅の論点にまで手を広げていくと良いでしょう。
会計士試験まで含めると、工業簿記・原価計算(管理会計論)の問題の難易度は次のような関係にあります。
会計士短答式 < 日商1級 < 会計士論文式
日商1級の対策としては、日商1級の過去問を解くのが最も効果的です。日商1級過去問の学習を既に済ませている受験生は、色々な論点を克服するために会計士短答式の過去問を、難しい長文問題に慣れるために会計士論文式の過去問にチャレンジしてみては、いかがでしょうか。