平成30年公認会計士 論文式試験 講評~監査論

第2問  棚卸資産に関する不正

不正リスク(棚卸資産の水増し計上)のある事例問題です。事例問題は、ヒントが資料のあちこちに、点在していることが多いので、マーカー片手に不正の兆候や異常値等をチェックしながら通読すると良いですね。

事例問題といっても、実務的すぎる内容ではなく、出題意図さえ読み取れたなら、理論問題として対処できる問題でした。

問題1 不正による重要な虚偽表示を示唆する状況

示唆する状況」とくれば不正リスク対応基準が思い浮かびます。「示唆する状況」の次は「疑義の存在」を確かめる手続きです。不正リスク対応基準は残念ながら会場で配布される基準集に収録されていないので、監基報240号も参考にして、一般論として記述します。

問題2 監査計画の修正

匿名情報の内容と問題3の内容から、在庫の移動を利用した棚卸資産の水増し計上という不正を防止するための監査計画の変更を書けば良いと分かります。つまり、循環的な立会の実施から、全工場・全倉庫の同時実施です。問題3で「4工場のうちA工場でだけ不正を発見した」とあるので、全倉庫だけでなく全工場で実施に変更したと考えた方が良いでしょう。

問題3 発見した不正への対応

問1の「伝達」「重要性」「未発見の虚偽表示」について、「重要性」について監査人のとるべき対応が書きにくかったと思います。実務上、重要性の基準値が当期純利益の5%であることから考えても、1,000百万円という不正が重要性の高いものであることは明らかですが、会社側で修正が受け入れられている状況下で、監査人がとるべき対応とは?「伝達」と「未発見の虚偽表示」への対応の他にあるだろうか?なかなか難しいですね。ここは書けなくても仕方ないと思います。

問2の経営者関与の可能性については、資料から可能性の高さがうかがえます。断定は避けるにしても、関与ありを前提に話を進めても大きくハズレではないと思います。従って、リスク評価・リスク対応手続きの見直しが必要なはずですし、特に経営者への質問等から得られた監査証拠の信憑性には疑問が生じるはずです。監査役等への報告については、どうしても問1と重複した内容になってきますので、書くならば違いを明らかにする工夫が必要です。

問題4 内部統制の開示すべき重要な不備

まず、不正の原因となった内部統制の不備が、開示すべき重要な不備にあたることを説明する必要があります。金額的に重要なのが明らかなので、これは書きやすかったはずです。是正措置の実施時期については、不正の発見が4月ですから、内部統制の有効性の評価時点が期末である知識から、是正措置は間に合っていないことを前提に、無限定適正意見が表明できる状況を推定することになります。


 

以上です。