第159回 日商1級 講評 ~ 工業簿記・原価計算

第159回の工業簿記では、日商では初見となる「作業区分の問題」や、専門学校の解答速報で見解が分かれた理論問題(問3)が印象的でした。原価計算は凡庸な出題でした。以下、個別に講評していきます。

工業簿記

「工程が複数の作業区分から構成されている工程別総合原価計算」が出題されました。日商1級では初見だそうです。
FINの日商1級講座は、公認会計士の管理会計論と共通の教材を使用しているので、作業区分を論点とする計算問題も、個別問題集と総合問題集でそれぞれ1問ずつ取り扱っています。初見だと、ちょっと厳しかったかも知れないですね。
作業区分の計算問題は、「作業区分を一つの工程とみなして作業区分の数だけボックス図を作成する」というのがポイントになります。そうすると、例えば、第1工程の月初仕掛品は、「第1作業を完了し、第2作業には着手していない」ということなので、第2作業区分の月初仕掛品ということになり、加工費に関する完成品換算量は「ゼロ」とします。「作業区分の問題」を事前に解いたことがある受験生は、このあたりが理解できているので、4つの作業区分別の仕掛品勘定もスムーズに作成できたはずです。
また、工程別の標準原価計算の場合は、工程別に「原価標準」を作成しますが、「作業区分の問題」では、作業区分ごと「原価標準」を作成します。従って、本問の場合、標準原価カードも作業区分別に4つ作成することになります。第2工程終点で3%の正常仕損が発生するので、第4作業区分の正味標準原価にその3%分の正常仕損費を上乗せする形で「原価標準」を作成します。
他にも計算上の留意点はありますが、ここでは、このくらいにしておきます。
問3の理論ですが、専門学校によって解答が分かれているので、良問とはいえないです。
「正しいと思われる番号を全て選びなさい。」という形式は、工業簿記や原価計算の科目の性質上、解答が分かれることが多く、会計士試験では、「正しい番号を2つ選びなさい。」という形式で出題するようになっています。
専門学校によって解答が分かれたのは、①の文章の正否です。「各工程の管理者にとって、材料の価格差異や労働の賃率差異は管理不能である」とありますが、「1回あたり何個発注するか」によって材料の仕入価格は変動することがありますし、「固定給」の場合は操業度差異が生じるのと同じ仕組みで賃率差異が生じますが、このような賃率差異が管理不能であるなら、操業度差異も管理不能ということになってしまいます。こういった、例外的な事項をどの程度考慮するかによって、①の正否は変わります。ただ、①の文章に決定的な違和感を感じるのは、「価格差異や賃率差異を各工程の仕掛品勘定の標準原価差異に含めない」ことを理由に、「シングルプランより修正パーシャルプランが優れている」としている点です。この文章の流行からすれば、シングルプランでは「価格差異や賃率差異を各工程の仕掛品勘定の標準原価差異に含めている」ことになりますが、シングルプランでは価格差異や賃率差異を各工程の仕掛品勘定の標準原価差異に含めたりはしません。そもそも、シングルプランでは、仕掛品勘定で標準原価差異を計上しませんからね。

 

原価計算

第1問『原価計算基準』第2問「配合差異、歩留差異」第3問「事業部制」でした。どれも基本的な内容で、解きやすい問題でした。

第1問:原価計算基準

会計士短答式試験では、16問中3問程度が「原価計算基準」からの出題ですが、日商1級でも数回に1回の割合で「原価計算基準」から出題されます。「原価計算基準」は1~47まであって、最初から最後までは通読できないほどのボリュームなので、受験生にとっては大きな負担となりがちです。
FINでは、かなりの時間をさいて、「原価計算基準」「解説講義」を行っているのと、スマホ用の「原価計算基準の穴埋め問題集」のデータを提供しています。「原価計算基準」の最も効率的な克服方法は、「解説講義」スマホ用の「原価計算基準の穴埋め問題集」の併用です。

第2問:配合差異と歩留差異

期首期末の仕掛品が存在しないケースなので、難なく解けたと思います。
注意点としては、「4kgのK製品を製造するための標準作業時間は2時間である。」という指示です。通常、この手の問題を解く際には、「投入5kgを完成させるための標準作業時間は2時間である。」という標準能率を使用してSHやS’Hを計算します。

第3問:事業部制(内部振替価格の決定)

事業部制では、「各事業部(長)の業績評価」と「内部振替価格の決定」とが計算論点となりますが、本問では、内部振替価格が中心的に問われています。
全部標準原価基準による内部振替価格によると、供給事業部(S事業部)において、振替製品(製品X)に係る営業利益がゼロになってしまうため、問2では、全部標準原価に2%を上乗せした金額を内部振替価格としています。しかし、このコストプラス法によると、「受入事業部の変動費」と「全社的な差額原価」とが一致しないため、「最終製品の受注の可否について、受入事業部が誤った意思決定を行う可能性がある。」という問題点が残ることになります。本問においても、受入事業部であるD事業部では、製品Zを販売した方が営業利益期が減少するため、たとえ全社的には製品Zを生産販売した方が有利であったとしても、D事業部は自己の営業利益が減少することを嫌って、製品Zの生産を行わない意思決定をしてしまいます。そこで、D事業部が製品Zを生産するよう動機づけられるように、問3では、増加する営業利益を折半するような内部振替価格を設定している、というのが第3問全体のストーリーです。
このような背景が理解できるようになると、問題を解いていても、楽しい気持ちになれます。