157回日商簿記1級~講評 商業簿記・会計学

令和3年2月28日に実施された日商簿記1級本試験について講評していきます。詳細な解説は以下をご参照下さい。
第157回 商会 解答・解説

商業簿記

今回の商業簿記は難しかったですね。前T/Bにも推定部分があり、棚卸資産まわりの勘定(A商品、B商品、売掛金・受取手形、買掛金・支払手形)を連絡させて、貸借の差額で求めて・・・という作業を効率的に進めていかなければなりませんでした。仕入単価まで推定しなければならないので、一カ所間違えると芋づる式に何カ所も間違えてしまいます。こうした作業は、段取りの善し悪しが問われる側面が大きく、ある程度は類題で練習したことがあるとうまく解けると思います。残念ながら、これまでの勉強が報われないタイプの問題でした。

売上総利益以下の部分については、資産除去債務が難しかったでしょう。まず、取得時の資産除去債務の計上額は、除去時の支出見積を2.5%で5年分割引計算して求めます。これで減価償却費が算定できます。次に利息費用と履行差額の算定ですが、これは最終年度(除去の年度)であるため、除去時の資産除去債務が5,000になるように利息費用を計算すれば良いと気づけたら簡単でした。実は、減価償却費も最終年度なので未償却残高を減価償却費とすることになっています。

退職給付会計では、数理計算上の差異の扱いがポイントでした。ここにも推定部分があり、資料の「20X3年度発生分が6,000千円」というのが、発生額なのか期首の未認識額なのかの読み取りも悩ましいところです。期首の残高の文章の中で発生分という表現であることから、初見は期首の未認識額かと思って計算してみたのですが、端数が生じて面倒な感じなので発生額に思い直して計算しました。こちら(発生額)が正解だと思います。

営業外損益では、為替予約の振当処理に注意が必要です。直々差額と直先差額で損益が逆なので、仕訳の貸借に注意しなければなりません。こういうときは基本に戻って、「為替相場が円高になると(@108円→@106円)、外貨建売掛金を円転したときキャッシュが減るから損」というように考えると間違えないはずです。

自己株式は手数料の処理がポイントでした。取得時は営業外費用とし取得原価に算入しないこと、処分時は新株発行時と同様に株式交付費とする(繰延資産にできる)ことを覚えていたかです。新株発行と自己株式の処分を同時に行うときには、その株式数で払込額を配分することになります。今回は自己株式の処分差益をその他資本剰余金にしますが、処分差損の場合には新株への払込額から減額することになります。

 

会計学

例年と出題形式が異なったため驚かれたかもしれませんが、商業簿記が難しかった分、会計学は簡単でした。

1. 減損会計は、与えられた現価係数表・年金現価係数表を利用して使用価値が求められたかどうかです。端数処理のタイミングで1ズレるようですが、特に「その都度」の指示がない限り「端数処理は最終解答数値で行う」のが暗黙の了解事項なので、使用価値の段階で端数処理して315,109を正解にしています。

2. リース取引では、リース資産・リース債務の金額をリース料総額の割引価値と見積現金購入価額の比較で求めます。この問題では見積現金購入価額が選択されますから、支払利息は4.2%で算定します。この関係性が整理できていたかがポイントでした。また、リース資産の減価償却が200%定率法で、かつ、償却率も自ら算定する必要がありました。商業簿記でも全く同じ計算がありましたね。

3. 連結会計は、製造業を前提とした①材料、仕掛品、製品に含まれる内部利益の計算と、②内部利益の調整に伴う非支配株主損益の変動額が問われました。①については、丁寧に図を書けば正解できる問題でした。②については、アップストリームの内部利益を調整すると、S社の損益が変動するため、すでに個別会計上のS社当期純利益に非支配株主持分割合を乗じて計算している非支配株主損益も調整が必要となります。本問では、その調整額を計算する問題でした。具体的には、S社がP社に販売した製品Yに含まれる内部利益に非支配株主持分割合を乗じて計算します。対象となる内部利益は、アップストリームの分だけなので、製品Yの材料費に含まれるダウンストリーム分の内部利益が対象外となるというのがポイントでした。詳しくは、解答解説の図をご参照下さい。

4. ストック・オプションは典型的な問題でした。失効見込数がX1年度とX2年度で異なる点を見落とさなければ正解できたと思います。

5. 株式交換によって、子会社となるB社の株主が親会社であるA社を支配することになるため、逆取得の計算パターンです。逆取得の留意点は、以下の6つです。
① 個別B/Sにおいて、親会社A社が計上するB社株式(子会社株式)の取得原価は、B社の帳簿にある株主資本の適正額となること。
② 連結上は、実質的な経済実態を重視して、B社を親会社、A社を子会社と仮定するため、連結B/Sの諸資産・諸負債は、B社簿価+A社時価で計算すること。
③ 連結B/Sにおいて、のれんは、②の仮定に基づき、B社が受け入れたA社の諸資産・諸負債の時価と、その対価として発行したと考えられるB社株式の時価(=A社の企業価値)との差額として計算すること。
④ 連結B/Sにおいて、利益剰余金は、②の仮定に基づき、B社の利益剰余金とすること。
⑤ 連結B/Sにおいて、資本金は、②の過程には従わず、現実の親会社であるA社の資本金とすること。
⑥ ①~⑤に基づいて作成した連結B/Sの貸借差額は、資本剰余金で吸収すること。
今回の本試験では、上記のうち、①~③を知っていれば正解できました。